第3話「旅のワルキューレ」
ここはアスガルズ神界という一つの世界。
広大じゃない訳が無い。
神々のアスガルズ神界と
例えるなら、中世北欧風の世界そのままだ。
まずは外界に繋がる移転門を目指し、街道を行く徒歩の旅が始まった。
グラズヘイムにも業務用の移転門は存在するけど、私用で使う事は禁止されている。
そんな理由で面倒でも、一般開放されている移転門まで行かなくちゃならない。
これも旅の醍醐味と割り切るしかないよね。
街道には様々な
都市や街を行き交う者達、各種商品を積んだ荷馬車、などなど雑多な流れがある。
街道の先、地平の向うには世界樹ユグドラシルが
見えると言っても、遠い距離にあるから物凄く小さく見えるのだけど。
「距離にしてユグドラシルまで400kmくらいかぁ。
街道を休まず歩いて八日位、途中で休んだり宿に泊まるからもっと掛かるんだ」
あまりの距離に溜息が出る。
移転門はユグドラシルの向うにある。
私は歩いたり、時折見かける馬車にヒッチハイクするしかない。
幸いな事に、野獣くらいは出没しても、人族の世界のような盗賊はいないのだ。
「でも邪神ロキの様なウザイのはいるんだよね。
さすがに盗賊神なんていないだろうけど」
私は戦闘部門のワルキューレじゃないにしても、野獣相手に戦えない訳じゃない。
スコルやマーナガルムとか、ハティとか、フェンリルなんて魔獣もおいそれと出没する事もないし。
「敢えて列記してみれば、全部オオカミ系じゃない」
魔獣が皆、狼系なのも北欧系らしいっちゃらしい。
魔獣以外に危険なものは巨人位なものだけど、これもアスガルズでは滅多に見ない。
絶対に来ない事もないけど、基本的に巨人はヨトゥンヘイムの住人なのだから。
五日ほど歩いて来たここには、世界樹ユグドラシルがある。
世界樹ユグドラシルってのは、日本人にとっての富士山のような存在かも。
アスガルズに住む神々にとってそれ位特別な存在。
世界樹ユグドラシルの根の直下にウルズの泉がある。
その泉は、運命の
ユグドラシルの伸ばす根の内、霜の巨人の国へも伸びる根の下にはミーミルの泉があると言う。
但し、神聖な泉の周りには土産物屋や旅館が立ち並んでいるのが見える。
当然観光客も大勢行き交って賑やかだ。
「すっかり観光地になってるよ」
水質は軟水、ミネラルたっぷりで肌にも良いらしい。
1リットル1000クローネで瓶詰めで売られている。
「この俗っぽさが、神聖という雰囲気を壊してると思うんだよね。
まあ、水筒の水を補充するのに丁度いいけど、値段高っ」
運命の
長女ウルズ、次女ヴェルザンディ、三女スクルドが
神界において『女神』と称される者達は、大概上位の者達だ。
某長寿漫画に降臨なさって依頼、すっかり有名になったよね。
ワルキューレって神界の一般人とも言うべき末席の存在。
そもそも同じ神族の者でも、下位のワルキューレを女神の内と認識されているのかどうか。
当然ながら上位神にして
更にここは運命を司る女神達らしく、占いの店がやたらと多い。
華やかな仲店通りを抜けると、
そして、更に奥に裁判所の建物がある。
「あれがアスガルズ神界の神々の法廷かぁ。
裁判所ってのも、運命を司る女神達らしいか」
どの道、今日はここで一泊して、明日には出発する予定になっている。
適当な所で宿を見つけて宿泊することにする。
遠くにアスガルズ神界から他の世界へ行くには移転ステーションの移転門がある。
他の神界へ行くとすれば、地上では外国に行くのと感覚的には変わらなのかもしれないね。
神界以外の世界へ行くとなれば、波動数を変えて、上下左右前後移動出来るエレベーターで移動するような感じだろうか、行き着いた階層に、その世界が在る様な物。
何次元?そんなの知らん。
人の世界では、果ての無い世界の陸地に国境として種族毎に生存圏を決めて主張し合っている。
まあ、地球そのものが球体だから、世界の果てなんて存在しない。
この旅で世界移動ともなれば、時空間にあらゆる階層世界が存在する。
神々の世界は、どこかの世界とは別に別に存在しているけど、移転門で繋がり合っているらしい。
こういうの、パラレルワールドって言うんだっけ。
他の神界との交流も無い訳じゃないだろうけど、極めて少ないのかも。
だから最高神率いる神界なんて物は沢山存在している。
少なくとも人の世界の文明の数ほど。
だから、その民族にとっての唯一絶対の最高神は誰々とは言い切れる。
うん、それはそれで間違ってないんだろうね。
まず近場からとなれば、炎の巨人の世界ムスペルヘイムになるだろうね。
取り合えずの行き先の目途を付けたら今日は休む事にする。
明日からもまた歩かなければならないのだから。
今日宿泊する宿は『泉亭』。
何件か営業している
「こういうのも一種の旅情っていうのかな」
入り口すぐにカウンターがある。
宿の女将らしき方から声が掛かる。
「いらっしゃいませー」
「一泊したいんだけど」
「お一人様でしょうか?」
女性一人というのが胡散臭いと思われたのかな。
女将は訝しむ顔で人数を聞いて来る。
「そう、一人ですよ」
「まさか変な商売じゃないだろうね?」
「変な商売?
そんなのは無いよ、一人旅を始めたばかりだし」
「一人で旅を始めたのかい?」
「そう、やっと取れた休暇だから世界旅行に行こうかと思って」
女将の誤解は解けたようだ。
「ああ、そういう事かね。
夕食は500クローネで用意出来るけど」
「そうだね、じゃあ夕食と朝食の二回で、先に夕食にしようかな」
「はいよ、食堂は一階の奥の部屋だから、そこで用意するからね」
早速宿の食堂で夕食を執る事にした。
御馳走と言うほどの料理じゃないけど、空腹でいるよりマシ。
固いパンと肉料理、茹でたジャガイモといった具合で質素な部類。
腹ごしらえはこれで良い、後は部屋で休みながら一杯やる事にする。
女将には鍵の掛かる部屋を用意してもらった。
旅人用の安宿らしく、申し訳程度のテーブルと椅子、後はベッド以外何も無い簡素な部屋だ。
「明かり用のロウソクも無いんかい。
この安っぽさが如何にも貧乏旅行の雰囲気が満載だね」
ブラックな仕事環境から解放されているせいか、侘しいという感情にはならないようだ。
神聖ルーン魔法で小さな明かりを用意した。
その明かりは私が消さない限り何時までも中空に留まる。
例えうっかりしても炎じゃないから、火事にはならない。
私は窓の横にイスとテーブルを動かし、夕暮れの街の喧騒を眺める事にする。
とりあえず部屋の窓から外を眺めて一息入れる事にした。
「うん、こんなものかな」
椅子に座って亜空間収納から酒と肴を取り出し、チビチビやり始めた。
これだけで私は優雅な気分に浸る事が出来る。
「はー、落ち着くわぁ」
あ、そうだ移転ステーションに着いたら、長旅に備えてお酒を多めに買っていかなくちゃ。
私が楽しむための物だけど、傷口の消毒薬に使えるだろうし、寒さを凌ぐにも使える。
高級品じゃなくても私にとって必需品だね。
夕暮れの街中では露店をたたむ者達が慌ただしく片付けを始めている。
立ち並んだ露店が片付けられると、道幅が広くなったように見える。
昼間と夜間じゃ本当に見える景色って変わるんだよね。
他の家々の窓に明かりが灯りだし、住人の往来もだんだん寂しくなって行く。
私が住んでいる寮からは、こんな街の風景って見えないんだよね。
やがて空も暗がりが増して星明かりが鮮明になって来る。
程良い所で酔いも回り、ベッドで寝る事にした。
起床時間を気にしないで眠れるってホント、幸せだね。
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