第2話「ヒルト出発」

02「ヒルト出発」



長期休暇願いが受理され、翌日は宿舎で寝て、身心を癒そうと思った。

とにかく疲れたままで飛び出す気にはならない。

行動に移すにも、心身共に疲労困憊じゃどうにもならないだろうし。

出来れば世界の情勢を見て回るのも良いだろうと思う。




ヒルトは久しぶりに爆睡した。


そして目が覚めて唖然となった。



「ヒルト、よく七日も寝てたねー」



寮のルームメイトのイリーネは呆れていた。

そういう彼女にも休暇が必要そうな顔をしている。



「なんという事でしょう」



目が覚めたら七日も経っていたなんて。

それだけ疲れすぎてたんだから。

仕方が無いと言えば仕方が無いのだ。



私は早速旅支度を始める事にする。


長い茶髪を櫛でき、三つ編みに纏めた。

青色の瞳の目はまだ眠そうだ。



「イリーネ、休暇中はよろしくね」


「あんたねー、どんな計画を立ててるか知らないけど、早く帰ってきてよね」



不機嫌そうなイリーネには悪いけど、早く帰還するつもりは無い。

何せ1000年も勤務を続けて来たのだ。

外の世界がどうなっているのかすら知る由もなかった。

やっと長期休暇をもぎ取ったのだから、気儘に異世界旅行で見聞を広めて来るのも良いだろうと思っていた。



「ああ、まあ、お土産を楽しみにしてて」


「やっぱり長旅に出るつもりだったんだ」


「良いじゃない、外の世界がどうなってるか知らないんだから」


「はいはい、やっぱりそういう腹だったか。

 冒険の旅に出るなら、戦支度も忘れちゃダメだよ」



イリーネは旅に出るワルキューレは剣と丸盾、羽根の付いた兜を装備した方が良いと言う。



「何? そのコスプレ?」


「地上じゃ、そういう格好をしていなきゃワルキューレと認めてもらえないんだって」



そんな話は初めて聞いた。



「誰がそんな事決めたの?」


「さあ?」


「荷物を増やすの嫌だなぁ」





世界の構造を大まかに言えば、


神々の住まう神界、天界とも言うのだろうか。

  ↓

人の魂が住まう霊界 (アストラル界)。

  ↓

人の世界。

  ↓

地獄界 (アストラル界)。


縦割りに考えれば、おおよそそんな所。



今いる所は神界アスガルズ。

オーディンの居城ヴァーラスキャールヴ城下のグラズヘイムにある『戦士の館ヴァルハラ』。


ワルキューレは人族の地上から戦士の魂を連れてくる。

主にバイキングだけど。


世界には色々な国があるのだから、横にも世界は広がっている。

しかし人族の世界はとんでもなく広大だ。

民族ごとに信仰する神々の世界だっていくつもある。

神々の住まう神界といっても、アスガルズだけじゃない。

神話のある国にはそれぞれ神界があるものだ。


世界観光ガイドを広げて眺めてみる。


【北欧神話】

 オーディン・ロキ・トール・フレイヤという神々や、ヒルト達ワルキューレの住まう神界。


【ギリシャ神話】

 ゼウス率いるオリンポスの神々の住まう神界。


【スメル神話】

 エンリル率いるパンテオン。

 そこには大気の女神ニンリル・戦争と豊穣の神イナンナ・太陽の神ウトゥなどの神々が住まう世界。


【エジプト神話】

 オシリス・セト・イシス・ホルスなど多くの神々の世界。


【キリスト神話 (一神教)】

 天なる父ヤハウェの支配する天上界。


【ミトラ教 (拝火教)】

 太陽神ミトラスを主神とする神界。

 主神アフラ・マズダと大魔王アンラ・マンユが対立する神界。


【インド神話】

 デーヴァ神族 (シヴァ・ブラフマン・ヴィシュヌ・ドゥルガーカーリーパールヴァティーカーリーサラスヴァティー弁財天・ラクシュミーやアスラ神族などなどとにかく大勢の神々のいる世界。


【中国神話】

 盤古・伏羲・ 黄帝と炎帝・神農・蚩尤・黄帝などなど大勢いるけど最近影が薄い世界。


【日本神話】

 豊葦原瑞穂の国には世界の八百万の神が集まっている神界最大の観光地。

 ミトラ神が盧舎那仏だったり、インドの神々が仏教の神として祀られていたり、

 国生みの頃から多数の神々が統治しているという。


神々の世界をざっと並べてみても、メジャーな所でこれくらいある。

マイナーな所ももっと沢山あるに違いない。



「まずは近場から広げて行く方が良いかな」



最終地点は、やはり神界最人気の観光地、豊葦原瑞穂の国だろうねぇ。


私は人族の世界と、神々の世界アースガルズを行き来できるワルキューレだ。

何処の世界にでも行けない理由は無いだろう。



私はバックパックに荷物を詰め込み、身一つでの旅を試みる。



旅の足にとスレイプニル使用を申告しておいたが、許可はもらえなかった。

私用禁止らしい。

仕方が無い。

任務で戦場に行くのではなく、プライベートの旅なのだから。


とりあえずは徒歩で旅する事にした。

乗り物を使うと、どこの観光地も一瞬で通り過ぎてしまう。

神族なら飲食の必要は無いから、路銀はそれ程沢山でなくても構わないんじゃないかな。

必要になれば、少し現地で働いても良いだろうし。




結局徒歩の旅だから、荷物はバックパックに詰めて持てるだけの旅になる。

羽根の付いた兜はバッグの底に詰め込んだ。

ウルフバートとラウンドシールドはバッグの横に括り付けるしかない。

重くて荷物になる物は置いて行きたいけど仕方がない。


戦闘部のワルキューレじゃないけど、護身用の武器は必要だろう。


「やっぱりバッグにウルフバートとラウンドシールドが付いてると目立つなぁ」


「ヒルト、亜空間収納の魔石貸そうか」


同室のハーリーンが手助けをしてくれる。


「亜空間収納の魔石? それはありがたい」


保管魔術で亜空間に物を収納出来るなら、重量物を持たなくて済む。

私は魔石で広がった亜空間収納に荷物を押し込んで身軽になった。





私は宿舎の玄関前で同僚と別れを告げ、旅に出発した。

とはいえ、広いアスガルズ神界から一足飛びにどこかに行ける訳ではない。

神界の門を目指す必要がある。

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