第1話 闇への誘い、秘密結社シャフト⑶

「それにしてもボスの話は、いつも長いのが困りもんだな。俺が説明したかったことの半分以上は言いやがって」


「横田さんがRPG冒頭の大臣みたく、説明が大好きなのは分かりますが、それはボスなりの気遣いってやつですよ」


 悪態を付く横田に対して、俺の足側に立つ男が答えた。スキンヘッドの強面、背丈は2メートル以上で体格は筋骨隆々きんこつりゅうりゅう、だが、その屈強な見た目とは反して、口調はとても穏やかであった。


はら、それは俺もわかっているけどよう……。たしかに、態度が穏やかで丁寧なところはボスの美徳だ。だから俺も、丁寧であろうと見習っている。でもよぉ、平身低頭っていうやつなんだろうか……。将来シャフトのトップに立つお方なんだから、もっとこう、風格っていうもんをがなぁ……。」


 苦悶の表情を浮かべながら横田は答える。

 どうやらオロチ大佐は、大幹部という地位に就いている割には腰が低い人物らしい。

「その点に関しては、俺もそうなんで、人のことは言えないです……」


「オメーは顔と図体がいかついからいいんだよ。ボスは見た目もナヨナヨだからなぁ」


「アンタたち、ボスの愚痴はそれくらいにして、さっさと茂君の相手をしてあげたら?」


 横田と原と呼ばれた男との会話を、女性の声が遮った。

 声の主は部屋の奥にいるようだが、拘束されている俺の視界からでは姿を捉えることができない。


 でも、この声……どこかで聞いたような……?


「おお、そうだった。諏訪。仕切り直しだ、仕切り直し!」


 横田はそういうと、俺に視線を向けて話かけてきた。


「ボスのメッセージ、大筋は理解できただろ? ボスは組織内で勝ち上がるために仲間を欲している。そしてお前は、ボスに選ばれた。そこは分かったか?」


 横田が同意を迫ってくる。早く次の説明をしたくて、ウズウズしているようだ。


「な、なんとなく。でも、お前のボスが言っていた『怪人としてスカウト』ってどういうこ……ぐはっ……」


 恐る恐る答えていると、横田は突然、俺の腹を思いっきり殴ってきた。

 なんだこれ……、クソッ……、めちゃくちゃ痛い……。

 なんで急にキレたんだ?


「諏訪よぉ。入学初日で浮かれているのかもしれねえが、口の利き方には十分注意しろ。仲間に対して『お前』はないだろ。さっき自己紹介したよな。『お前』じゃなくて『よ・こ・た・さ・ん』だろ? なっ? 次言ったら承知しねーぞ!」


 鋭い目つきで睨みつけてくる横田の視線に、思わず目を背けてしまう。

 ただでさえ目つきが悪いのに、怒気がにじむ横田の眼光は、まるで目の前に刃物を突き立てられているかのような恐怖感がある……。


「す、すみません、よ、横田さん……」


 横田の視線にビビりまくった俺は、不本意ながら、とりあえず謝っておいた。


「分かればよろしい」


 横田は頷きながら上機嫌に答え、滔々と語り出した。


「それでよ、ボスが言ってた『怪人としてスカウト』という点だが、そのまんまの意味だ。俺たちによってお前は人間から怪人に改造手術をされて、今はその術後っていう訳だ。若干の倦怠感はあるだろうが、腹を掻っ捌かっさばいたり、脳をいじくったりはしてねえから安心しろ。安静にしてもらうために、この台座に拘束しているだけだ。そして、お前は今、俺たちオロチ派のスカウトを受けているっていう状況だ。理解できたか?」


「か、改造だと……」


 やはり、俺は本当に改造されてしまったのか……?


若干の倦怠感はあるが、それ以外は特にいつもと変わった感じはしない……。

俺は、横田の言葉を信じられなかった。


「全然痛みとかは無いぞ?」


「そりゃあ、改造手術は別に痛くねぇからなぁ」


「どうやって手術したんだ?」


「ボスから預かった『大幹部の輝石』をお前の胸に当てて、俺の魔力をお前に流し込むんだ。俺の魔力は強力なんだぞ! ありがたく思え!」


「魔力…だと…?」


 魔力……。そんな得体のしれないものが俺の身体の中を流れているのか?

 でも、特に身体の中に魔力と呼べるような不思議な力が巡っているような感覚はない。

 こいつらの狂言なのだろうか?

 しかし、横田の口振りからすると、嘘を言っているようには見えなかった。


「まだ実感は無いだろうが、しばらくすると分かってくる。安心しろ。手術は大成功だ! ボスが持つドラゴンの力と俺の魔力、そしてお前の資質とが混ざり合って、お前は強力な怪人に仕上がっているはずだ」


 自信満々に語る横田の態度とは裏腹に、俺の動揺はさらに広がっていく。


「ドラゴンの力?それに俺の資質?どういうことだよ?」


「ちゃんと説明してやるから、そう急かすなって」


 横田は、落ち着け落ち着けと、両手の掌を広げながら、俺を押さえ付けるジェスチャーをした。


「いいか、まず魔力だが、これは怪人のエネルギーの源だ。こいつをお前に分け与えてやったのさ。この俺が!! そのおかげで、俺の魔力は今、超絶ゼロに近いんだけどな!」


 横田は大笑いしながら言った。しかし、横田の笑い声からは疲れの色が見え、笑いで疲れを誤魔化しているようにも見える。


そんな疲れを見せないようにと、横田は続けて話し出す。


「魔力の量は怪人によってまちまちだ。改造手術には、それ相応の魔力が必要になる。でも、改造手術で使えるのは、怪人一人の魔力だ。複数人の魔力を掛け合わせることはできない。そして、他者に魔力を分け与えることができる怪人もいたり、いなかったりする。そうなってくると、改造手術を実施できるほどの魔力量を持ち、かつ、他者に魔力を分け与えられる怪人というのは、とても少ない。俺みたいなエリート怪人じゃないとできないっていうことだ。だが、魔力を与えるだけだと、人間の肉体はそれに耐えきれず、死んじまう。それじゃあ、人間に魔力を分け与えても、骨折り損のくたびれ儲けっていうやつよ。だ・か・ら……!」


 そう言いながら、横田は、スーツジャケットのポケットから正方形の石を取り出し、ここぞとばかりに俺に見せつけてきた。


「見ろ! これが改造手術に必要な必須アイテム。『大幹部の輝石』だ!! こいつを使って改造手術を行うんだ!」


 その輝石の大きさは一辺5センチぐらい。黒色をしているが、よく見てみると緑色の光線がビリビリと電流のように光っている。


 その光はまるで、小さな蛇がうねうねとうごめいているように見えた。



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