第49話 防具屋のお仕事⑬ ラメラーアーマー
……う~~んむ。
と、ネアリは内心戸惑っていた。
ネジュリの動きが予想以上に良いからだ。
竹刀を選んだ時点で自分の有効攻撃範囲が縮まり、相手に動きを読まれやすくなるだろうことは予測していた。
それでも攻めきれると判断したから手に取ったのだが、いやはやこの人、以外と強いんじゃないか?
本気でなかったとはいえ自分の攻撃を三連続で止められる人間などそうはいない。
もったいない……真面目に戦いさえすれば才能はあるんじゃないか。
なら、もう少し強めに当たってみるか?
ネアリはトンッと足を鳴らすと低い体勢で間合いを縮めた。
「――――ハッ!!」
そして体勢を崩そうと足払いを放つ!!
しかしネジュリはそれも反応し、飛んで躱す。
ネアリは回転しつつ、上半身をさらにさらに捻らせ追撃の突きを放つ。
足の動きにばかりに目を向けている並の戦士ならば、この上体の動きには対応できない。しかし――――、
――――バキンッ!!
ネジュリはその高度な動きにさえも反応し、バックラーで受け止めた。
――――シュッ、トントントン。
一旦、間を開けるため三連続バク転で距離を取るネアリ。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……』
その一連の攻防にいつの間にか集まってきていた野次馬たちが歓声のどよめきを上げた。
「おいおい、今日は意外とやるじゃねぇか? あの姉ちゃん。ネアリちゃん相手にけっこう凌いでるぞ!?」
「ああ、まともに戦えば強えじゃねえか!!」
「しかしまた一段と色っぽい格好してるな」
「ああ、今回のは新作オリジナルらしいぜ? でも俺はあの鎧がはだけるところを見てみたい!!」
「俺も」
「俺も」
「俺も」
「そういうわけで、せ~~の!!」
『ネアリちゃーーーーん頑張ってーーーーーーーーっ!!』
不徳な野次馬どもの黄色い声援がネアリに降ってくる。
「あ……あいつらぁ~~~~!!」
頭に三つほど怒りマークを浮かび上がらせ、ネアリはそれらを睨みつけた。
ネジュリが挑戦してくるようになって、どうも店に集まってくる客の質が落ちたような気がする。
なんでも最近、巷の男どもの間では武器屋『ヒノモト』の前でストリップショーが毎日見れると噂になっているらしい。
おかげで普段ここらに来ない別区画の人たちも、いつのまにか野次馬に来るようになって、そのおかげで店の売上も少し伸びているのだが、しかし逆に品位は落ちてしまっている気がしてならない。
これでもしネジュリの門下を認めてしまったら、それこそ毎日鼻の下を伸ばした男たちの行列が出来上がる。
「それだけは断固阻止っ!!」
――――シュッ!!
青ざめつつ、ネアリは再び前に出る。
ネジュリはバックラーを構えて完全防御の構え。
――――バキンッ!!
突き出した竹刀の先がバックラーによって防がれる。
しかし同時にネアリは柄から手を離しネジュリの懐に潜り込んだ。
確かに彼女の実力は見誤っていた。
ここまで反応の良い相手だと知っていればヌンチャクか三節棍でも選んでいた。
それらの武器ならばバックラーなどの小型盾など関節で巻き込み攻撃を届かせられるし、打撃系武器なので手数さえ増やせば防御力の高いラメラーアーマーと言えどもダメージは蓄積させられる。
しかしそんなことを今更言っても仕方がない。
途中で武器交換など無粋な真似もしたくないし、ここは持っている武器でやりきるしかない。
ならば他に使える武器はただ一つ!!
「とうっ!!」
潜り込んだネアリはそのままネジュリの足を掴んで持ち上げた。
「え? あ、あわわわわわっ!!」
いきなり片足を掴み上げられ体勢を崩しよろめくネジュリ。
その軸足をネアリは自分の足で引っ掛けると同時に、ネジュリの腕を掴む。
「へっ!??」
足を掛けられ、腕を引っ張られたネジュリはそのままネアリの背中へと乗せられて――――、
――――グルン!!
次の瞬間世界が一回転した。
――――ドスンッ!!
「ぐえっ!!」
そして地面へと叩きつけられた!!
ネアリのルーツ『東の国』の伝統武術『ジュードー』である。
倒れたネジュリにさらに襲いかかるネアリ。
仰向けになったネジュリの首に腕を回し、同時に彼女の片腕を手と脇で固定する。
「んぐっ!? もがっ!! もがっ!!」
上半身と頭を完璧に固定されたネジュリは身動きが取れない。
「こ……こらーーーーっ!! 卑怯よ!! 武器屋なら武器で戦いなさい!!」
セーラが抗議の声を上げるが、ネアリはお構いなしに体制を変え、今度は股で腕を挟んで肘関節を責める。
腕挫十字固という技だがネアリ一族以外、誰もその技名はわからなかった。
「素手も立派な武器よ? 何もおかしなことはしていないわ」
「屁理屈を言うな!! 売り物で勝負しろっていってるのよ!! そんなおかしな技で私の徹夜をフイにされちゃたまんないのよ!! とにかく関節技は止めなさい、卑怯すぎるわっ!!」
「戦闘で卑怯もクソも無いでしょ? 悔しかったら今度は関節を強化した鎧でも準備することね」
ギリギリギリ……。
「い、痛だだだだだだだだだだっ」
「お……おお、おのれおのれおのれ!!」
痛みにもがくネジュリに、してやられたと悔しがるセーラ。
完璧な作戦だと思っていたのが、まさか素手での東洋武術だとぉ~~~~!??
いったいどれだけ攻撃の引き出しを持っているんだあいつは!?
そしてそんな相手に対抗できる防具なんてどう用意すればいいんだ??
「こ……今度は自信あったのに……」
またもやダメだったかとガックリうなだれるセーラ。
しかしそんな姉の背にポンと手を置いたのはブレザだった。
そして何やら企んだ目で言った。
「大丈夫だよお姉ちゃん。僕が奥の手を仕込んでおいたから」
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