第38話 防具屋のお仕事② ラメラーアーマー
「さて、じゃあこれをお父さんのところに持っていって」
と、預かったビキニアーマーをブレザに渡すセーラ。
「え!? あ、ムリムリムリムリっ!!!!」
すぐに真っ赤な顔になって、それを押し返すブレザ。
「これしきでなに照れてるのよ? ただの鉄の塊でしょ??」
「……だってそれ、ついさっきまであの人が身に付けてて」
「ええ、まだ温かいわね。でも下着じゃないんだから、ただの防具よ!? いいから持っていって、これも仕事よ!!」
「ぶ~~~~っ!!」
無理やり押し付けるとまた鼻血を吹き出すブレザ。
……だめだこりゃ、とセーラは鼻血まみれになったアーマーを見て肩を落とした。
まぁ、そりゃお年頃の男の子だから多少はこういうのに意識してしまうのは仕方がないにしても、そんな盛大に興奮してしまうなんて……よほどの奥手か、そうでなければ逆にドスケベか…………。
「ジト……」
「な、なに!? おねえちゃん??」
姉としては前者であることを祈りたい。
などと考えていると表が急に騒がしくなった。
向かいの武器屋『ヒノモト』で何やら一悶着あったようだ。
「あっ、な、なんだろう?? 僕ちょっと見てくるね!!」
「あ、こら!! 逃げるなっ!!」
助かったとばかりにアーマーを放り出し、野次馬に走るブレザ。
慌ててそれをキャッチしつつ、セーラは「もう!!」と一言ボヤくと、諦めたようにそれを奥の工房にいる父の元へと運んで行くのだった。
依頼品を父に、預け店舗に戻ってきたセーラ。
表の騒ぎはまだ収まらず、それどころかさっきよりも激しく歓声が上がっている。
金属の打ち合う音と、観客の賭け話で大体の内容は理解できた。
どうせネアリがまた腕っぷし自慢の木偶の坊を相手に喧嘩しているんだろう。
ヒノモトの看板娘ネアリとは同い年で、幼なじみだ。
彼女は昔から小柄で華奢なくせに、やたらと強かった。
幼少の頃から武人である父に武器全般の扱い方を仕込まれていたせいだが、そのおかげで言動が多少生意気になってしまうことがある。
いや、実力からすれば充分見合った言動なのだが、ネアリの強さを知らない中途半端な戦士などは、見るからに弱っちい小娘に知った風な口を利かれて頭にきてしまう場合も多いのだ。
たぶん今回もそんなパターンだろう。
「……まだ掛札売ってるかしら?」
どうせこの調子じゃ表の騒ぎが収まるまでお客なんか来やしない。
だったら自分も野次馬に出てみよう、とセーラはお金の入った革袋を手に表に出ていった。
「どんな相手でもどうせネアリの勝ちは確定だから……いつもの時間当てかしらね」
呟くと同時にドッと歓声が上がった。
そして――――、
「お、お、お、お、おぼえてろよっ!!」
「ちょ、ちょっとジーニィ!??」
対戦相手とおぼしき鉄鎧の大男と、青髪の魔術師が大騒ぎしながら走り去っていく。
「あ~~……遅かったかぁ」
頭を掻き掻きその二人を見送ると、建物の影からまた別のちっこい魔術師が大荷物を背負って躍り出てきて猛スピードでその二人の後を追って行く。
「……デネブも元気そうね」
もう一人の幼なじみの健康を確認すると、バラバラと散り始める野次馬たちの中からブレザの姿を見つけた。
ポタポタポタポタ……。
これまた滴るほどに鼻血を出しながらクタっている弟。
原因は――――まぁ、見てすぐわかった。
さっきのビキニアーマーのお客『ネジュリ』に抱きしめられていたからだ。
「……あの……ネジュリさん? 一体何をされているんでしょう?」
ボヨンボヨンの豊満な体をブレザに巻き付けるように絡めて、落ちた剣を拾うネアリをポ―っと眺めている。
そんな彼女の胸に顔を埋めながらブレザは弱々しい視線でコッチを見る。
「ね……姉さん……僕は……もうだめ……だ」
血を出しすぎて貧血になったのだろう。
赤を通り越して青くなった顔でグルグルと目を回し、そして意識を失った。
「まぁ……これは……うん、仕方ないよね」
さすがにこれは弟でなくても吹っ飛ぶだろうと、ネジュリの反則級な胸を見てセーラは頬に汗を伝わせた。
「ごめんなさいね~~。さっきの切り合い見てたら興奮しちゃって、なんか近くに丁度可愛い坊やがいたから思わず抱きしめちゃった~~~~♡」
「どんな思わずなんですかそれは」
店の中で弟を介抱しながらセーラは呆れた。
「私、興奮すると誰それかまわず抱きついちゃう癖があってさ、でもそこらのオジサンじゃやっぱ嫌じゃない? で、うずうずしてて、もう我慢できないってところでこの店員さんが飛び出してきたからもうぎゅ~~~~~~~~って!!」
「絞り出したんですね鼻血を……」
まぁ、こんな豊満美人に下着姿でぎゅうされたら弟でなくても色んなモノが絞り出ちゃうよな……と、セーラは同情しつつブレザの鼻に丸めた布を詰め込む。
「……でも決闘なんかでそんなに興奮するもんなんですか? お客さん傭兵さんでしょ? こんな荒事なんて見慣れてるんじゃないですか」
「私が興奮したのは決闘にじゃないわ。あの女の子に興奮したのよ!!」
「はぁ!?」
あの女の子とはネアリのことか!?
あれ? この人そちらの趣味の方!??
ポカンと見つめるセーラの視線を受けて、ネジュリはその意味に気付き、パタパタと手を振った。
「違う違う、そうじゃなくて!! あの女の子の強さに興奮したのよ」
「は、はぁ……」
「私ね、こう見えても強い女子に憧れてるの!!」
大きなお胸をブルンと揺らし瞳をキラキラ輝かせ、ネジュリは手の平を組み合わせ大興奮した。
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