第39話 防具屋のお仕事③ ラメラーアーマー
「つ、強い女ですか……」
まあ、そりゃあ……傭兵なんて仕事をしているんだ。そんな願望は持っていて当然だろう。
「そう!! それで憧れて傭兵家業なんてしてるんだけど……やっぱりね女の力じゃ限界があってさ、知らず知らずのうちに剣の腕よりも女の武器を磨くようになったのよ」
そう言ってオッパイをプルプル震わせるネジュリ。
ブレザが起きてなくて良かったと思いつつセーラは苦笑いする。
「はぁ、それでネアリの強さに感動したと……でもあいつはちょっとおかしいと言うか天然天才肌と言うか、普通より次元が二個くらい上の戦士ですよ? あまり参考にしないほうが……」
「ネアリって言うのあの子!? ねえねえ、ちょっと私にあの子紹介してもらえないかしら?」
「べつにいいですけど……紹介してどうするんですか?」
「もちろんあの強さの秘訣を教えてもらうのよ!!」
そんな秘訣があるのかないのか知らないが、仮にあったとしても『教えてくださいな』で覚えられるものでもないだろうに……と、セーラは思ったが、ここでそれを論議してもしょうがない。ここは惚れさせた本人にお任せしようと思った。
「ならこのまま、お客として店に入ったらいいと思いますよ。で、ちょっと手合わせお願いって言えばあいつは大抵の勝負は受けて立ちますよ?」
「ほんとに!? わかった、じゃあ早速行ってくるわっ!!」
キラキラと目を輝かせ、お尻とオッパイをぷるぷる揺らせつつネジュリはまた店を出ていった。
やれやれネアリも大変ね、と軽いため息つくセーラ。
まあ客商売なんてやっていると色んなお客さんが来るし、ネアリもそのへんは上手く対応するだろう。
ブレザの鼻血で汚れてしまった床を雑巾で綺麗にしていると、
「――――う、うわあぁぁぁぁっオッパイ、オッパイがイッパイだぁ!!!!」
と、寒いダジャレとともにブレザが飛び起きた。
「……おはよう、隨分といい夢見てたみたいね」
皮肉を込めてセーラが言う。
自分が叫んだ言葉を思い出し、顔を真赤にするブレザ。
「ちちち、違うんだおねえちゃん!! これはちょっと変な悪夢を見て!! って言うか……あれれ? 僕なんでここで寝ているの!?」
いつの間にか店のカウンター裏に寝転されていて、はてな顔で呆然とするブレザ。
「……呆れた、あんた自分がどうして気を失ったのか覚えてないの?」
「うん……店を出てネアリさんの決闘を観戦したところまでは覚えているんだけど……その後が……なんだかおおきなマシュマロみたいなものが顔を塞いできて、甘酸っぱい香りとすべすべとした肌触りが……うう!! 頭が痛い……!!」
「……記憶を失うほどに刺激受けちゃったわけね…………」
思い出すことを体が拒否している。
やはりこの、女に対する免疫の無さは防具屋としては致命的だなと、セーラは冷ややかな目で弟を眺め肩を落とす。
と――――カララン……。
弱々しく扉のベルが鳴った。
「あ、いらっしゃいませ……て、ネジュリさんじゃないですか……どうしたんですかその格好??」
なぜかすぐに戻ってきたネジュリ。
全身がボロボロでホコリだらけ、マントも無くなりブラとパンツも破れていて片乳がポロリしている。
その姿を見て後ろから『ぶ~~~~』と音が鳴り、セーラの頬をかすめるように赤い液体が飛んでくる。
(え~~~~っと……どっちにツッコんだらいいんだろう??)
セーラが悩んでいると。
「え~~~~ん!! え~~~~ん!!」
とネジュリが子供のように泣き出した。
「あやややや、な、なんで!? と、とにかくこれを!!」
とりあえずコッチから処理した方が良さそうだと、適当な布切れをネジュリに放り投げた。
「はぁ、なるほど……つまりその格好がふざけているって門前払いを食らったと?」
「ぐす……そうなの。強さを求める以前に、まず女性として恥じらいを覚えて下さいって……」
まあ……うん。ごもっともだな、とセーラはうなずく。
いきなり、マントの下は剣と下着だけの半裸女がやってきて、さあ剣術を教えろと言われても、その前に服を着ろとなるのは当然だ。
「でも、私は言ったのよ? これは私の戦闘スタイルだって。いままでこの色香戦術で数多の男を惑わし、魅了し、葬り去って来たって。だから格好は気にせず一つ手合わせをお願いしたいと!!」
ネアリも気の毒だなあ。と、呆れる幼なじみの顔を容易に想像しながらセーラも呆れた。
「で、なんとか戦って貰えることになったの」
ああ、手っ取り早くやっつけて返してしまおうとしたのだな。
「私は剣で、あの子は素手でいいって言ったわ」
武器はあれど、裸同然の者にそりゃあプロが何か握るわけにはいかんよな。
「で、さすがに馬鹿にしていると私も少しは頭にきたのよ。……だから本気で戦ったわ。でも結果は惨敗……丸腰相手に私の得意戦法は何も役に立たなかったのよ!!」
そして悔しさに泣き崩れるネジュリ。
そりゃ女相手にそんな戦法が通じるかぁ~~~~!!
と怒鳴りたくなったが、それよりも呆れが先に来て床に突っ伏すセーラ。
やれやれ、こりゃ妙なお客に来られたもんだと頭を掻く。
破られたブラに、ひっぱたかれたとおぼしき赤く腫れた胸。
ネアリの怒りまで伝わってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます