第21話 魔術師のお仕事⑬ 魔法具

「うおぉぉっ!! なんだこりゃっ!!」


 割れた小瓶から様々な液体が流れ出して混ざり、七色に変化する。

 もくもくと怪しげな煙が上がり、異臭と刺激が目に刺さってくる。


「ああ、いかんいかんっ!! アタイの商品が!! ああ!? 混ざって反応起こして変なもんになってしもてるやんか、おいこれ、どないしてくれんねんっ!!」


 おさげ髪を跳ね上げて怒るデネブだが、


「知るかっ!! さっきから変な道具ばかり出しやがって!! なにが魔術だよ、こんなもんだたの嫌がらせ道具じゃねえかよ!! 子供の遊びじゃねえんだよ!!」

「何やと!! アタイの作った魔法具が何やて? 遊び道具やて!??」

「それ以外なんだつうんだよ!??」


 いきり立ち、戦士の男は地面に落ちた小瓶を蹴り上げた。


「きゃぁっ!!」


 それが運悪く、周囲で騒ぎを見ていた一人の女の子に当ってしまう。

 混ざって変なモノとなっていた薬液がその女の子の腕にかかる。

 するとシュオシュオと音を立てて皮膚が溶け始めた。


「きゃあっ!! きゃあーーっ!! 痛いっ!!」

「ああっ!?? これはあかんっ!??」


 デネブは慌ててその子に駆け寄り、鞄に残っていた万能中和剤をその子にかけてあげた。


「え~~ん、え~~んっ!!」


 なんとか反応を沈めて、体を拭いてあげるデネブ。

 女の子の怪我はは軽いヤケド程度で済んでいた。

 それを確認して胸を撫で下ろすデネブだが、


「けっ、んなとこでボサッと見てるそいつが悪いんだろうが!! おらテメェら見せもんじゃねぇぞっ!!!!」


 男はまるで悪いとも思っていないようすで周囲を怒鳴り散らす。

 その男の態度にカチンときた。


「……おい、おっさん……この嬢ちゃんに一言くらい謝らんかい」


 ゴゴゴゴ……とオーラを揺らめかせて戦士を睨みつけるデネブ。


「あん? なんだお前やる気か? いいのか? ご自慢の魔法具は粉々になっちゃってるけども~~~~?」


 薄笑いを浮かべて笑う戦士の男。


「デ……デネブさん……」


 いつの間にかマーシアも捕まって、弓使いの女に後ろ手に拘束されていた。


「はっ、やっぱり魔術師なんてもんはこんなものよ!! 魔法具おもちゃが無くなれば何の役にも立ちやしない!!」


 そして拘束している腕を捻りあげる。


「い、痛い!! 止めて!!」

 叫んで逃れようとするマーシアだが、ガッチリと抑えられている手は解けない。


「おいおい、止めて欲しければどうするんだっけ? さっき教えたよなぁ~~?」

 盗賊の男が凄みを聞かせてマーシアの顎を掴み上げた。


「……うぐっ!?」

 苦しそうに息をつまらせるマーシア。


「ほらほら、お仲間が苦しそうだぜぇ三編みのお嬢ちゃん? 助けたかったら魔法で何とかしてみたらどうだ~~? 使えるんだったらなぁ~~~~!??」

「はははは!! おいおい、そりゃ無理ってもんだ」

「そうよ、ほんとに魔法が使えるんならこんなオモチャに頼ってたりしないわよ、なにが魔術師よ笑わせるんじゃないわよ」


 ケラケラと馬鹿にして笑う三人。

 デネブのオーラがより大きくなり、プツンと何かが切れる音がした。


「……おのれら、アタイの道具をオモチャ呼ばわりした上に……客にまでちょっかいかけよったなぁ……」


 ゴゴゴゴゴとデネブから異様な怒気が放たれる。

 それを見た周囲の見物人がみな一斉に青ざめ、ザザザと距離を開ける。

 

 みんなデネブの事は知っていた。

『モーゼル通りの爆弾魔術娘かやくこ

 それがデネブの二つ名だった。


「……炎の精霊よ、我が呼びかけにその力で応えよ。我が魔力を糧にして立ち塞がるバカどもをぐっちゃんぐっちゃんのギタギタにして――――」

「ちょ、ちょっと何よその無茶苦茶な呪文は……!??」


 弓使いの女が汗を一筋、半歩たじろぐ。


「お……おいおいおい……なんか魔法陣みたいなのが出てきたぞ??」


 戦士の男もジリジリ下がりながら、デネブの身体から滲み出る魔力の結晶に顔を引きつらせる。


「こ……これは……まさかこいつ――――いや、この人は……」


 魔法力から生み出される謎の風がデネブのローブをはためかせる。

 その胸元からフワリとこぼれる『魔法使い』のペンダント。


『ほ……本物の魔術師~~~~~~~~っ!!!!』


 三人が抱き合って絶叫した。


「お前らが馬鹿にした魔術師の真の実力!! たっぷりと味わわせたる!!! 

 ――――いでよ!! ファイアーボール!!!!」


 ――――ドゴッ!!!!


 呼びかけとともに空に現れる巨大な火の玉。

 その大きさはゆうに家一軒分はあるだろう。


「あ……あ、ああぁ……」


 とっくに拘束を解かれていたマーシアだったが、デネブの使った本物の魔法の迫力に腰を抜かし、口をぽかんと上げてただ見上げるだけ。

 周囲の街人たちも、慌ててさらに距離を開け、


「お、おいおい!! 今日はまた一段とデカイやつが来るぞっ!!」

「店閉めろ店っ!! 窓も閉じろっ!!」

「誰か水汲んで来いっ!!」

「ばか、それより火消し隊を呼びに行けよ!!」


 慣れたようすでワラワラと動き出す。

 あっという間に辺りには怯えて抱き合う三人と、少し離れたところでいまだにノビている馬鹿剣士。そして動けないマーシアだけが残された。


「く・た・ば・れ・っ!! ボケ共ぁ~~~~~~~~っ!!!!」


 ――――ゴッ!!!!

 そして巨大火の玉ファイアーボールは五人に向かって叩き落された!!

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