第20話 魔術師のお仕事⑫ 魔法具
「街中で怪我はさせねえ!! でも痛い目くらいは見てもらうぞ!!」
「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」
逃げられない間合いとタイミングに、マーシアは悲鳴を上げるが、
――――どぅるんっ!!
剣士の軸足が透明な液体に乗っかった瞬間、摩擦を失った。
『――――え!?』
同時に『?』な顔を作る剣士とマーシア。
突っ込んできた勢いそのままに、軸足の踏ん張りを失った剣士はそのまま空中で後転し、――――ゴスッ!! 後ろ頭をしたたか地面に打ち付けてしまう。
「がはぁっ!? う……が――――む、無念――――ぐふっ!!」
そして意識を失ってしまう。
「おーー!! これは『足を遅くする魔法』別名『ぬるぬる液』や!! こいつを相手の足元に撒くとな、足裏と地面の間に膜を作って踏ん張りをきかんようにさせれるんや」
「ぐあぁっ!!」
「んな、なんだっ!!」
「ちょっとっ!! なにこのヌルヌルッ!???」
そう説明しているうちに、追いついてきた他の三人が次々とそのヌルヌルに足を取られて転倒する。
すぐに起き上がろうとするが、足についた液のせいで踏ん張りがまったく効かず、三人とも足をプルつかせてお互いを支え合う。
「ふ、ふ、ふ、ふざけた道具ばっかり使いやがって!! 卑怯だぞおめえら!!」
「道具やない、魔法具やっ!! ……ほれ、呪文や呪文、疑われとるで!!」
後半はヒソヒソとマーシアに耳打ちする。
「あ~~ん……あ~~、水と土の精霊よ、そのヌルヌルしたもので敵の足を滑らしてごにょごにょごにょ……」
「だから遅ぇし、雑になってんじゃねぇかよもうっ!???」
足を猛空転させながらマーシアに掴みかかろうとしてくる戦士だが、その体はほとんど前に進んでいない。
それを見たデネブはチャンスとばかりに目を光らせた。
「いまやでねーちゃんっ!! 連中が動けん間にこっちからたたみかけるでっ!!」
言って、革袋から追加の魔法具をいくつか取り出すデネブ。
「爆裂玉にカミナリ棒、爆音ハンマーに幸せ薬や!! どれも特価で譲ったるで、どや!?」
「――――え?」
マーシアに持ちかけるデネブだが、しかしマーシアは手持ちの最後の小瓶を連中に投げつけているところだった。
「――――あ……それ『匂い薬』……」
途端に青ざめるデネブ。
ガシャンと割れる小瓶、漏れ出す液体。
そして――――、
もうわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!
と一気に周囲に広がる猛烈な激臭!!!!
「ぐあっ!! な、なんだこれ、くっさっ!! くっさっ!???」
「ぐうわはかかあぁ!?? 鼻がっ!! 鼻がもげるっ!!!」
「うおえ~~~~ゲロゲロゲロゲロ……」
悪臭の直撃を食らった三人は地面を転がりまわって悶絶する。
やがてマーシアにもその匂いが漂ってくると、
「うわ、くっさっ!! え?? なにこれっ!!」
と鼻を塞いで飛び退いた。
「それはな……馬と牛と豚と鳥と羊とおっさんの糞尿をまぜて煮詰めた特製匂い薬や、こいつを周囲にまいておくとその悪臭でモンスターも賊も近寄ることが出来ひんようになる。危険地帯の野営とかには重宝するんやでフガフガ」
と、なにやら妙なマスクを付けてデネブは説明した。
「ちなみにこれは、その匂い薬とセットで買って欲しい防臭マスクや。これがないと自分までダメージ食らってしまうさかいな」
「そんなことより……アンタいま何て言った??」
引きつった顔をしてマーシアがデネブに尋ねる。
「ん? なにがや??」
「この薬の材料よ……」
「馬と牛と豚と鳥と羊とおっさんの糞尿やけど?」
「……おっさんとは?」
「おっさんとは適度に年齢を重ねた男性のことやな。やっぱり人間には人間の匂いのほうがきくからな。特におっさんの匂いはキングオブ不快感やで!!」
テヘペロぐーをかますデネブ。
「ぎゃ~~~~~~~~~~~~~~っ!!!! 汚い汚い汚い汚いっ!!!!」
それを聞いて青ざめ叫び飛び跳ねる三人と、ちょっと飛沫が付いてしまった手を地面に擦り付けて半泣きになるマーシア。
「いや、煮詰めて強い酒で割ってあるから、そないバッチイことあらへんで?」
気休めを言うデネブだが、
「んなわけあるかーーーーっ!!!!」
三人の怒りはいよいよ頂点に達した。
「もう許さんっ!! 絶対に許さんっ!!!!」
「ああ、ここまでコケにされたのは初めてだぜっ!!」
「あんたらもうマジで怪我だけじゃ済まさないからねっ!!!!」
あっという間に三人はデネブたちを取り囲んできた。
そして手にしたそれぞれの武器で襲いかかってくる。
今度ははさっきのような鞘付きの攻撃ではなく、刀身むき出しの本気の攻撃である。
戦士は斧。盗賊はダガー。弓使いは矢を両手に襲いかかってくる。
「おっとぉっ!!」
「きやぁぁぁぁっ!! ――とっはっ!!」
それらをすばやく躱すデネブ。
マーシアも意外と器用に三人の攻撃を避けている。
なんだかんだここまで一人で旅をしてきたと言うだけの事はあるようだ。
「ちょっと待てやおっさんら、そない本気になったら怪我してしまうやろ!!」
「うるせえっ!! ここまでコケにされて黙ってられるか!!」
すっかり頭に血がのぼってしまっている連中は、もはや抑えがきかず、がむしゃらに武器を振り回して、気付けば五人入り乱れての大乱戦となっていた。
そんな中――――がしゃんっ!!!!
「あっ!!」
デネブか下げていた皮袋が裂かれ、中の小瓶が地面にばらまかれ次々と割れていってしまった。
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