第22話 魔術師のお仕事⑭ 魔法具
――――ちゅどっがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!
「ぐあぁっ!!」
「ぎゃああぁぁっっぁぁぁっ!!!!」
「ぐわあぁぁぁっっ!!!!」
真っ赤に染まる景色を見て「――――あ、終わった」と悟るマーシア。
――――がぁぁああん!! がらがら、ぱらぱらっ!!!!
爆風と衝撃。
四散する炎と瓦礫が宙に舞う。
一瞬にして周囲に埃が舞い上がり、視界が無くなる。
マーシアは果たしてここが地獄か天国か? すっかり死んだ気になって揺れる地面に転がっていた。
やがて埃が風に流され視界が開けると、そこはあの世の景色ではなく、元の大通りの石畳。違うのは、通りの真ん中に大きくえぐられた穴が開いてたとこだった。
その穴の周囲に転がる三人の冒険者たち。
そこへデネブが歩み寄って見下ろし指を突きつけ、
「ふん。どや、思い知ったか? アタイの魔法力を!! これでもまだ魔術師をペテン扱いするんやったら今度は本気で当ててやるでぇ~~~~?」
ドスの効いた声で言ってやってる。
「お、お、お、お……あ……か、か、か、」
戦士のバイラが青ざめてコクコクうなづく。
「あとの二人も。あんまり魔術師ナメとると、たまにこういう本気魔法放ったりするさかいな? 普段は温存して使わへんやつが多いけども」
そしてチラリとマーシアを見る。
視線を投げられたマーシアはキョトンとして、
「へ、わ、私? 私はべつに魔法なんて……」
(あほっ!! そこは話し合わせんかいっ!!)
ギロリと強襲アイコンタクトで怒ってくるデネブ。
「あ……ああ~~……そうよねぇ~~そうそう。私も本当は魔法使えるんだけどオンゾンして普段は使わないようにしてるんだよね。うん。使えるよホントはメチャクチャ使うよ? ほほほほ、おほほほ」
それを聞いて青ざめる三人。
「せっかくや、ついでやから姉ちゃんの魔法も見せたったらええんと違う? このままナメられっぱなしも面白くないやろ?」
「え? あ、ああそうね……それじゃあ、今度は氷の魔法を……?」
「おお~~~~姉ちゃんの氷の魔法は強力やさかいな!! おまえら覚悟しいや、さっきの魔法具とはワケが違う本物の氷魔法や!! 骨の髄まで凍らされるでぇ~~~~~~~~っ!!!!」
「ひ、ひええぇぇぇぇぇぇっ!??? ご……ごめんなさ~~~~いっ!!」
ぴょこんと自信なげに上げられたマーシアのステッキを見て、三人は怖気づき、震える股間から湯気を上げた。そして抜けかかった腰を引っ張り上げ、ギクシャクと立ち上がると回れ右して逃げ出した。
「おい!! もう一人忘れんなや!? ほんで壊したアタイの魔法具は弁償してもらうで~~~~!!!!」
魔導書を振り上げて追いかけるフリをするデネブ。
三人の冒険者は震え上がって飛び上がり、転がっている剣士を担いで一目散に裏通りへと消えて行った。
ポトリと硬貨袋を一つ放り投げながら。
「ほな、毎度つうことで……」
それを拾い上げつつデネブは満足げに笑う。
そこへ――――、
ピーーピピピーーーッッ!!!!
耳に刺さる笛の音が聞こえてきた。
「コラーーーーーー!! 誰だ街中で決闘騒ぎしている奴はーーーーっ!!」
「火事だと!? 街中で火炎魔法を使った馬鹿がいるって聞いたが現場はここか!??」
国の衛兵と街の自警団である。
「――――やばっ!!」
慌ててデネブはフードを被り、脱兎のごとく裏路地に逃げ出した。
マーシアも同じようについてくる。
「すまんな姉ちゃん。仲間紹介してやるつもりやったけど、また今度やで!!」
「ううん。いい、ありがとう!! 私……なんだかやれる気になってきた!!」
「? そうなんか?」
「うん!! 魔法が使えなくても道具とハッタリでなんとかやってみるわ。それに仲間ならもう出来たから!!」
そう言って、デネブに怪しい眼差しを向けてくるマーシア
「そ……そうか?? そりゃよかったで???」
それから一週間後――――。
「デネブ師匠~~~~ぅ♡ また来ちゃいましたぁ~~♡」
「んげ!?? ……またアンタかいなマーシア……」
ここはデネブの店『デネブ魔法書店』
マーシアはすっかりここの常連になっていた。
「んげ、とはつれないですわ~~~~師匠。今日もいっぱい魔法具買いに来たんですからもっと愛想よくして下さいよ~~~~♡」
言いつつ顔面を擦り寄せてくるマーシア。
それを手で防ぎつつ、デネブは尋ねる。
「どや? あれから仕事仲間は見つかったか?」
「はい、もちろん!! 師匠から教えてもらった魔法具を使うタイミングとハッタリ呪文で、いまやすっかり引く手あまたの人気魔術師になりました!! もう毎日、アッチからコッチから誘いがかかって大変なんですよ!!」
「……そりゃなりよりや。んでもその師匠っちゅうんは止めてくれへん? オタクの方が年上でもあるし……」
「何言ってるんですか!! 私はこれから本物の『魔法使い』も目指して頑張るんです!! そしていつかきっとデネブ師匠みたいなデッカイ魔法を放つ可憐な大魔術師になるんです!!」
そしてデネブの手をぎゅ~~~~~~んと握りしめて離さない。
目にキラキラと星が瞬いて、その底にはピンクのハートマークが沈んでいた。
「だから、ねっ!! 師匠!! こんどは私が一人前の『魔法使い』になるまで付き合ってくださいね!! ん~~~~~~~~っんむ♡」
「や……やめいホッペにキスするな!! 教える……教えるから!! だから変な気だけは起こすんやないで!? アタイはノンケやねんで!!!!」
叫ぶデネブだがマーシアの視線はどんどん熱くなっていくばかり。
やがて街にはいたいけな少女を中心に、いたずらして回る変態魔女の噂が流れることになるが、デネブは頑なに無関係を装い、シラを切り続けるのであった。
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