第7話 武器屋のお仕事⑦ バスタードソード

「――――ね? 私みたいな非力な娘でも正しく扱えば、このくらいの攻撃力は出せますよ――――おや? どうしました? かかってこないんですか?」


 剣を地面から抜きつつ、ネアリはジーニアを無垢に挑発する。


「ふん、少しは武器に詳しそうだが……所詮は売り手の謳い文句だろう!! 実践で鍛えられた真の戦士に言わせれば、そんなものは小手先の足掻きにすぎんっ!! 持って生まれた体格差を埋めることなど出来はしないぞ!!」


 ――――ブォンッ!!

 と片手で自らの剣を大振りしてみせるジーニア。

 対するネアリはそんな彼を逆三角の目で見つめ、


「おやおや、言ってくれますねぇ。べつに体格差を埋めようなどとは言ってませんよ? 非力な者には非力なりの武器の使い方があると言いたいだけです」

「はっはははっ!! 無駄な事だな!! 非力な者はどんなに逆立ちしようが剛力なる者には勝てない!! それは俺がそいつに証明してやった事だ!!」


 笑い飛ばしながらジーニアはその剣先でリンを指し示す。

 指されたリンは苦い顔で奥歯を噛み締めた。


「その証拠にこいつは自分のエモノに見切りをつけて、俺と同じ大剣使いになろうとしているではないか? 結局それが答えと言うことよ!! 戦いは破壊力こそが全てなんだよっ!!」


 叫んで、再びジーニアはネアリに切りかかった!!


「破壊力が必要なのは否定しませんが――――」


 ネアリは刃根元を中心に剣をくるくると回転させる。

 そしてさながら棒術使いのようにバスタードソードを下段に構え、ジーニアを迎え撃つ。


「この剣の場合、刃根元の穴に指を通すとより安定して使えるようになりますよ」


 リンへの商品説明も忘れない。


「はんっ!! そんな無様な持ち方で剣術を語るなよ小娘が!! くらえっ!!」


 ジーニアの豪腕が振り下ろされる。


 ――――ゴッ!!


 空気を裂く音が響いた。

 充分に力を乗せられたその大剣は、自身の重みも加わってその威力は馬をも一刀両断にしてしまいそうな迫力がある。

 ネアリはまた剣を斜めに構えそれを受け流そうとする。


 ―――――ギャギャギャッ!!!!


 またもや剣と剣が擦り合い火花が散る。


 ズドコンッ!!!!


 受け流され、地面に刺さるジーニアの剣。先のネアリの倍は深く刺さっている。

 その衝撃で横に飛ばされるネアリ。


 ここまでは先ほどと同じ。

 しかしジーニアは、


「甘いぞっ!!」


 身体を捻り、めり込んだ剣を力ずくで横薙ぎに引き抜いた。

 その先には飛ばされたネアリがいる。


「取ったぞっ!! 脇がガラ空きだっ!!」


 下段から突き上げた勢いで、ネアリの剣は少し浮いてしまっている。

 その隙きに滑り込むようにジーニアの剛剣が唸りを上げる。


「ネアリさんっ!!」


 タイミング的には完全にアウト。

 開いた脇にジーニアの剣が叩き込まれるのは、もはや避けられない。

 リンは認定試験でやられた自分と今のネアリを重ねて悲鳴を上げた。


 しかし――――ネアリは至って冷静に、


「戦闘においてもっとも重要なのは――――」


 ネアリは浮き上がった剣の柄――――その先端をトンッと叩く。

 テコの原理でくるりと回転する刀身。

 それはジーニアの剣撃線を塞ぎ、


 ――――ギィンッ!!!!

 と彼の剣を受け止める。そして――――、


「――――武器の正しい使い方です」


 そのままジーニアの剣を下方向に受け流すネアリ。

 同時にその力を利用して自らは飛び上がる。


「――――何っ!???」


 強制的に体制を低く持っていかれたジーニアは体勢を立て直すのに一瞬硬直する。

 その隙きに後ろへ回り込んだネアリ。


「――――この、小娘がちょこまかとっ!!!!」


 おぼつかない体勢のまま大ぶりで追撃を撃つジーニアだが、


「ダメですよ、そんな足元では剣先に力が入りません。――――そんな剣撃では」


 ――――ギャンッ!!


 再び短く構えたネアリの剣に軽く弾かれてしまう。


「小娘を弾き飛ばすことすらできませんよ?」

 そして悪戯気にニヤけるネアリ。


「くぉぉぉぉ……~~……この野郎っ!!!!」


 完全に頭にきたジーニアはもうがむしゃらに剣を振り回して突進してくる。

 それを見てネアリは「あらら……」な表情。

 周りの観客も「なんだもう終わりか」とばかりに掛け金の精算を始める。


「最後に一つ忠告させて頂きますね」


 ――――ギンッ!! ギギンッ!! ギンギンッ!!!!

 ぐずった子供の枝ように無茶苦茶に振られるジーニアのバスタードソード。

 その全ての剣撃を受け流し、ネアリは話を続ける。


「バスタードソードを始めとする重力級の武器は、その一撃が強いぶん躱された時の隙きが大きくなります」


 ギンッ!! ギギンッ!!


「そのため、それを使う戦士には並みの戦士以上の慎重さと用心深さが必要になります」


 ギンギンッ!! ギャギャンッ!!!!


「具体的な扱い方としては、普段は出来るだけ小さく構え相手の隙きを伺い――」


 ギギャギャンッ!!!!

 ネアリの剣がジーニアの剣を下からすくい上げるように打ち上げた。


「――――ぬおっ!!!!」


 ガラ空きになるジーニアの胴体。


「くっ!! やるなっ!! しかしそんな非力な腕でこの私のアイアンプレートが打ち砕けるかなっ!??」


 ジーニアが引きつりながらも口端を上げる。

 この鎧もまた彼の自慢の一品なのだ。

 小娘の一撃など軽く弾き飛ばしてくれるに違いない。

 しかしネアリは涼しい顔で言い放つ。


「ここ一番のときにその威力を見せつければいいんです」

 

 ――――刃根元から手を話し、ストッと、両手を柄の一番端に落とすネアリ。


「持ち手の一番端を掴んで、全体重を乗せてさらに回転を加えつつ――――」


 ――――ブオンッ!!!!


 重い音を鳴らし、ネアリを中心にバスタードソードが一回転する。


 ネアリの50キロ足らずの体重が、遠心力によって先端に集められる。

 よほどの馬鹿でもない限り、その威力は食らわずとも想像出来るだろう。

 回転力をそのままに、ネアリは足先をジーニアへとピタリと向けた。


「ま、待てっ!!!!」


 ジーニアの顔が引きつる。

 そんな一撃を食らってはたとえ鎧が無事でも中の自分は間違いなく大怪我をする!!


「必殺の一撃を加えますっ!!!!」


「わ、わかったっ!! 俺のま――――」


 降参の二文字を言う間もなく、ネアリの剣がジーニアの横腹に襲いかかった!!

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