第18話 英雄扱いなんてされるわけがないと思ったのに
俺は残った4つの勾玉を大巫女に差し出した。
「これで、村に結界を作ってみたらどうかな?」
そのために4つ作ってみたのだ。
東西南北におけば、もしかしたら結界が作られて、こんな穴が開くこともなくなるかもしれない。
大巫女は喜んで受け取ってくれた。
俺は、大巫女にいう。
「長に御目通りしたい。」
大巫女はいう。
「むしろ、こちらからお願いしようと思っていたところだ。すぐ使いをやる。その後、ゆくり行けばよい。歓迎の準備がされるだろう。」
俺は、大巫女のお付きの者に頼む。
「長に、羽庭の一族の者が来た、と伝えてくれ。」
お付きの者はうなずき、長に知らせにいってくれた。
イトは一度家に戻り、着替えてくるという。
俺は大巫女と話をすることにした。
「村を救ってくれてありがとう。本当に感謝する。」
俺は大巫女に答える。
「俺は、できることをしただけだ。イトも俺以上に貢献している。」別に謙遜したつもりはない。事実だからだ。
「だが、それでも感謝しよう。イトは洞窟でとらわれの身となってしまっていた。おぬしが彼女を助けてくれたのであろう。」
俺はうなずく。
「イトはまだ若い。たくさん子を産めるぞ。励め。」
…え?なんでそんなことを…
まあ俺28歳だし、親になるのに早すぎることはないか。だが、イトはこちらの人間だ。俺の世界でやっていけるのだろうか?
「巫女の家系は、天の導きでどこへでも行くことになっている。イトはおぬしのところへ行く定めだったのじゃろう。」
運命の出会い。もしかしたら、そうなのかもな。
イトが着替えて戻ってきた。こちらの世界の巫女の衣装だ。日本のものと似ているが、色が青い。デザインも細かいところは違っているようだが、よくわからない。俺も着替えて、イトとともに長の家に向かう。」
「長ってどんな人だ?
おれはイトに聞いてみた。
「厳しいけど、心が広い人。奥さんは2人しかいない。長は子供を作らなければないから。奥さんはたくさんいたほうがいいのだけど。子供は4人だね。男2人、女2人。男、女ひとりずる結婚している。ソウ、彼女も嫁にする?」
なんともストレートな話だ。
「いや、その前にやることがある。」
俺は答えた。
だいたい、まだイトにプロポーズもしていない。
「イト、お前はこの村に残りたくないのか?」
俺はイトに聞く。
「何故? ソウのいる場所がイトの居場所だよ。」イトは不思議そうに答える。
そうか。イトは俺の世界に来ることを特にいとわないんだな。
「そうか、わかった。」俺は答える。
長の家についた。やはり、かなり大きな家だ。装飾品もいろいろある。
屋根はかやぶきのような感じで、天井が高い。平屋だが、かなり広そうだ。こういう社会では、家の広さはステータスの象徴なのだろう。まあ、今の日本でもそうか。貧乳はステータスだ。いや違った、大きな家はステータスだ。
俺たちは中へ通された。
大きな部屋の奥に飾られた椅子があり、そこに初老の男が座っていた。
よく日にやけて精悍だが、ちょっと白髪が混じっている。
俺たちが入っていくと、彼は立ち上がって声をかけてくれた。
「おお、ハニワの一族か。よく来たな。」
長は言った。
俺は答える。
「羽庭統の孫、継子(けいこ)の息子の羽庭創(はにわ・そう)だ。
初めまして、お父さん。」
「ま、まさか…」長は驚いて、よろよろと俺のほうに近付いてきた。
「俺は、あなたと継子の息子です。だから、常闇の洞窟を抜けてこられた。」
長は驚きながらもうなずいた。
「おお、そうだ。あの時、ケイコは入ってこられなかったのだ。ケイコは、残ってハニワの一族の血をつなぐ役割を果たすと言った。だから私はケイコをあきらめた。
会いに行きたかったが、なかなかその機会を作れず、そのうちにケガをしてもう洞窟には入れなくなってしまった。いずれにしても、もうケイコも結婚して子を成しただろうと思っていた。まさか私の子だとは…。」
「はい、あなたの息子のソウです。会いたかった。お父さん。」
「ソウ!」
俺たちは抱き合った。初めて見る父は涙を流している。 横にいるイトももらい泣きしている。
父は、過去のことを話してくれた。
長の試練として、常闇の洞窟に入ったこと。
最後の部屋で、大ハニワに負けてとらええられたこと。
第五層の大ハニワにされていたが、俺の祖父に助けられたこと。
その時祖父はちょうど黄泉の洞に初挑戦していたらしい。
そして、祖父と父は、二人で協力して黄泉の洞を攻略した。
黄泉の洞の攻略の協力者とは、父のことだったのだ。
父はイトと同じように妖術が使える。それなら階層制覇もはかどったことあろう。
そして父と母は恋仲になった。
二十層までの攻略が済み、父が帰ることになった。
父は、一度は母、継子(けいこ)にこの村に来てほしかったようだ。
だが、母は常闇の洞窟には受け入れられなかったようだ。
母は長の一族の血を引いているわけではないし、巫女でもなかった。
そして、羽庭の血をつなぐことが自分の役割だと言って、向こうに残ったという。
その時には、すでに俺が母の中に宿っていたのだ。
俺も、話をした。母は10年前に亡くなり、祖父も最近亡くなったこと。
俺もハニワをあやつる能力を持っていること。
そして、イトを助けたことも。
イトがそこで横から口を出した。
「イトは、命の恩人のソウに一生ついていく。すでに子もできた。」
俺はそれを聞いて驚愕した。
え、まさか…
イトは言う。
「巫女は、孕むことを自分で決められる。
イトは、ソウに抱かれ、ソウの子が欲しいと思った。だからできた。大丈夫。みんな立派に育てる。」
みんな?何だかよくわからない。
そのあと、宴会になった。
父に、俺の弟、妹たちを紹介された。俺が一番年上だ。攻略したときには、まだ独身だったそうだからな。
「ソウ、嫁にできなくて残念。他の誰か連れてく?」
なんと恐ろしいことを。
一人で十分だ。
だがイトと同郷の話相手がいたほうがいいかな…などと思う気持ちもチラリと頭をかすめた。
だが、俺はその可能性を頭から振り払って、宴を楽しむことにした。
つまみは木の実とか干し肉とかで大したものではなかったが、酒は絶品だった。
米と豆から作っているようだ。一年中作れるそうだが、作りすぎtも仕方ないので年の半分だけ作っているという。
俺たちは亡き祖父、亡き母をしのんで飲んだ。だが、悲しい酒ではなく、明るい酒だった。
母も祖父も、俺が父に会えたこと、そしてイトを嫁にしたことを、心底喜んでいるだろう。
弟妹たちも、俺の話をききたがった。常闇の洞窟の先がどうなっているか、その先にある黄泉の洞がどういうものか、そして世界がどうなっているか、と。
もちろん俺が全部説明できわけもない。
そのうち遊びにきてもらろう。
そのためには、安全に行き来できるルートを作っておきたいな。
イトも里帰りしやすいほうがいいだろう。
そのうちにイトの両親もやってきた。
二人は、イトを村の恩人に嫁がせることができて嬉しい、と言ってくれた。
なお、イトには助けた姉以外に妹もいるそうだ。三人姉妹になる。
どちらかも連れていくか、と聞かれたが、熟慮の末にお断りした。
現代の日本で、そういうのはなかなか説明が難しいからだ。
だいたい、イトの戸籍だってどうしたらいいんだろうあ。
母親の戸籍がなくても、子供に戸籍はできるのかな? その辺は聞いてみないとわからない。まあ、最悪イトと子供をこちらに返すことも考えるか。
だが羽庭の家を継ぐ人間も置かなければならない。
いろいろ考えることがあるな。
まあ、今夜は楽しく飲んで、戻ってから考えよう。
この酒、本津にうまいな。
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ここまで読んでいただいて、あ
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