第17話 勾玉を奉納する前に落とすわけがないと思ったのに
俺たち三人の道行は、比較的順調ではあった。
なんといっても、結界とハニワよけのお陰で、攻撃を受けることなくどんどん進めたのが大きい。
途中で何回か休憩したが、その間も結局イトの姉を背負ったままだった。彼女が起きそうにないので、背から降ろすのをためらったのだ。
いったんほどくと、再度背負うのは結構大変なのだ。
イトに聞いた。
「イトのお姉さんの名前は何て言うんだ?」
イトは少し考えて答えた。
「イネ、かな。」
おいおい、かな、っていうのは何だ?
「イト、なんで、かな?って言うんだ?」
イトは答える。
「これは、こっちの世界での名前。 向こうの世界の呼び方だと、●▼◇=★」
なるほど。発音できないのか。
だが、これから意思の疎通ができないと困る。
俺は気づいた。これからイトの村に行くんだから、俺がイトの言葉を理解できなければならないんだmと、
俺はイトにお願いする。
「例の勾玉マシンで、俺にお前の村の言葉がわかるようにしてくれ。」
イトはうなずいた。
「どうせやろうと思っていた。ちょっと待ってね。」
そういって、イトは勾玉マシンをいじった。
光が俺の体を覆う。
イトが話しかけてくる。
「わかるかな?」
俺は驚いた。
「イト、まだ俺たちの世界の言葉を話しているのか」
イトは笑顔で答える。
「違うよ。これが私たちの世界の言葉。でも、たぶんソウにはソウの世界の言葉に聞こえるんだと思う。私もそうだったから。」
そうだった、って過去形なのか?
「今は、ソウの言葉をしゃべってる。もう覚えた。」
最初の頃のテレビ番組で覚えた変な日本語はすでに消えている。全部、イトの努力ということになる。凄いな。」
洞窟を進んでいっても、ハニワも妖怪もくることはない。 たとえ襲ってくることがあったとしても、気にせず前に進めばよい。 妖怪は結界の中には入れない。だから結局我々を攻撃することはできないのだ。
一方、我々も戦わない。それは無益な殺生云々ではなく、単純に時間が惜しいからだ。
イネを背負って歩くのは予想以上に負担がかかっている。だがここで弱音を吐くことはできない。まずはイトの村を救うのだ。すべてはそれからだ。
結局、常闇の洞窟を抜けたのは午後3時くらいだった。だいたい14時間くらいかかったということになる。時差はないみたいだからな。
洞窟を出て、まばゆい日の光の中をまっすぐに歩く。結局そこからまた一時間くらい、広がる農地の中の道を歩いて、イトの村にたどり着いた。
未開の地かと思っていたが、結構進んでいるようだ。
農業はかなり大規模だ。
機械化はもちろんされていないが、その分かなり妖術が使われているようだ。
その辺はあとで聞いてみよう。
住居も思っていたよりずっと立派だ。今の東京の安普請よりいいものがありそうだ。
これで平穏ならいいのだが、今や村には、あちこち穴が開いている。これが、イトの言っていた穴か。
村の入り口から中に入ったところで、イトが声をかけられあた。
「イト、帰ってきたか。赤い勾玉は手に入ったのか。」
「イネはどうした。」
「早く大巫女様のところへ:
などと聞こえる。
イトは、そのうちの一人に、「お姉ちゃんをお願い。」と言い、俺にイネをおろすように言う。
俺は、イトに手伝ってもらいながら背中のイネをおろし、毛布ごと地面に横たえる。
あとは任せていいだろう。
「イト、急いでいくぞ。場所はどこだ?」
「こっちよ。早く!」
イトと俺は走り出した。勾玉はイトが懐に持っている。
走っていると、ドーン!と音がして、すぐ近くの道に穴が開いた。
結構危ない。
スピードを出し過ぎると、突発的に穴が出来たときにそのまま突っ込む可能性がある。
そのため、ちょっと加減した走りが必要だ。
俺とイトは注意しながら走り、目的地にたどり着いた。
そこで、大巫女という老婆が迎えてくれた。
「おお、イト。待っていたぞ。早く勾玉を。」
大巫女が言う。
「はい、これを。」そういってイトが懐から赤い勾玉を取り出した。
その刹那、ドカーン!という音が聞こえたかと思うと、いきなりイトの足元に穴があいた。
「イト!」俺はとっさにイトの服を掴み、何とかイトを助ける。
「あああ~~~~~!」イトが悲痛な声を上げた。
「痛かったか。悪いな。」俺はイトに声をかける。
イトが茫然としている。
「どうした、イト」
「勾玉を、穴に落としてしまった。もうだめ…。」
穴は底なしの深さだ。これでは回収は不可能だ。
「ここまで来て、何で…」イトは茫然としたままだった。
大巫女が言う。
「イト、いままでご苦労であった。これから皆の者に、村から去るように伝えねばならん。」
俺は会話を遮った。
「ちょっと待ってくれ。」
「何じゃおぬしは。」
意外そうに大巫女は突っ込んでくる。
当然だ。よそ者が口を出したんだから。
「まだ時間はある。夜中までだろう?」俺は言う。
「それは、そうじゃが…。」
俺は確認する。
「村を救うには、巫女が常闇の洞窟に行って、赤い勾玉を持ってきて奉納すればそれでいいんだな?」
「ああ、その通りじゃ。」
大巫女は肯定する。
「ならまだ望みはある。イト、洞窟へ戻るぞ。走れ!」
俺はイトを促して走り出した。さすがに、本当に時間がないのだ。
イトもゼイゼイハアハア言いながら何とかついてくる。もちろん俺はイトのペースで走っている。
走りながらイトが聞いてきた。
「ソウ、いまから一番奥に行くのは無理。間に合わない。赤い勾玉を落とす大ハニワは、一番奥にしかいない。
俺はいう。
「村を救うならつべこべ言わずについてこい!」
何だか、パワハラ上司みたいだな。こういうのはあまり性に合わないのだが、仕方ない。
今度は30分ちょっとで洞窟まで戻ってきた。
洞窟の中に入ってすぐ、俺は、イトに埴輪斬りを渡す。
「これを貸すから、とにかくハニワを斬れ。」
イトは戸惑いながらもうなずく。
俺はそこで、呪文を唱える。
「ウラニワニハニワニワニハニワ」
いきなり、目の前に大ハニワが現れる。
大ハニワの標準タイプだ。量産型だな。
俺は声をかける。
[イト、埴輪斬りで斬れ!」
イトはあわてて埴輪斬りを構え、横なぎに斬る。
大ハニワは見事に真っ二つになり、そのまま消えた。
そして、地面には赤い勾玉が残った。
「どうなってるの?」
イトが茫然とした。
「話はあとだ。次いくぞ」
俺はそう言うと、また大ハニワを出した。
同じように、イトが大ハニワを斬り、赤い勾玉を出す。
それを五度繰り返した。
手元に五つの赤い勾玉が出来た。
「よし、急いで帰ろう。」
俺たちは走り出した。
「どうなっているの?」
走りながらイトが聞く。
俺は種明かしをする。
「二十層で俺が得た力は、俺の名前,創の意味するところの、作るってことだ。
つまり、俺は自由にハニワを作ることができるようになった。そして、作ったハニワは自分の思うように動かせる。
今回、赤い勾玉を落す大ハニワを作り、静止させてイトに斬らせたんだ。
今回求められていたのは、巫女が常闇の洞窟から赤い勾玉を取ってくることだ。奥で大ハニワを討伐しなくてもいい。入ったところで倒したっていいんだ。今回は落してもなんとかなるように予備も用意したってことさ。」
「ソウ、すごい!」イトは俺を褒めてくれた。
俺たちは村へ戻り、イトが赤い勾玉を奉納した。
その途端、村の振動はおさまり、そrだけでなく、開いていた穴までふさがっていった。
理屈はわからないが、とりあえず村は救われたのだ。
ーーー
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
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