第11話 一日で第十層まで行けるわけがないと思ったのに
「イトたように、お姉ちゃんも助けてほしい。」イトが真剣な顔でいう。
「お姉ちゃんを助けてくれたら、あとはイトとお姉ちゃんで村に戻って勾玉を奉納する。そうすれば村は助かる。」
「でも間に合うのか?お姉さんがいなくなって、イトがハニワにされてからも結構時間がたってるよな。」
イトは、勾玉マシンをいじりながら答えた。
「あと5日のうちに戻れば間に合う。」
勾玉マシン、異世界共通時計機能でもあるのか。世界時計どころの騒ぎじゃないぞ。
「お願い、ソウ、何とかして。」
そりゃ、何とかできるもんならしてあげたいけど。
「戻るって言ったって、どうするんだ。」俺は尋ねた。
「たぶん、ニ十層に、帰り道の通路がある。そこから1日で戻れる。お願いだから、二十層までイトを連れて行って。」
イトは真剣に俺に頼んできた。
そう言えば、「私をスキーに連れてって」とかいう映画があったような。あれ、海にだっけ?まあいいや。
今は第5層まで攻略している。あと15層を5日だ。いや、最後の一日は移動だから、あと予備を考えると3日だな。1日で5階層ずつ進むことになる。できるのか?
とりあえず、余裕を持って二日で第五層攻略まで行ったことを考えると、急げば不可能ではないだろう。
ちゃんと祖父の指南書もある。攻略本みたいなものだよな。
あれ、もしかしてヌルゲーかな?
俺は、祖父の分厚い書類を出してきた。
「第六層から第十層までが、もしかしたら一番困難かもしれない。第五層の次は、第十層まで、戻れる場所がないからだ。第七層の攻略が済んで第八層でハニワに負けて戻ったら、第五層の終わりからやり直しだ。」
どっちにしても時間がないから、一挙に駆け抜けるか、そうじゃなくても、うまくマッピングして最短ルートを駆け抜けないと19層まで行きにくい、ということだな。
「儂の場合には協力者が居たから、比較的簡単に抜けたが、お前は一人だろうから、簡単ではない。一人で複数のハニワと妖怪に対処するのは容易なことではない。」」
じゃあどうしたらいいんだ。
「協力者が居ないなら、埴輪斬りだけでは対処が難」しい。妖怪に対しての切れ味は悪いのだ。」
…埴輪斬りは、ハニワしか斬れないのか。最初のほうでは通用しても、下に下がれば下がるほど難しいんだろう。
どうしたらいいのかな?
「…一番いいのは、第4層か第6層を何度も周り、ハニワを倒し続けることだ。 そうすると、ごくまれに巻物を落とす。階層主が落とすこともある。」
おお、そうだったな。。俺も火術を入手したっけ。
「その巻物には、妖術の能力が宿っている。同じ巻物を5つくらい集めて自分に使えば、おそらく妖怪にもハニワにも対処ができるようになるであろう。」
ああ、そういうレベリングね。でも間に合うかな。
「まあ、だいたい千回から一万回に一度くらい巻物が出るらしいから、頑張ってほしい。」
無茶苦茶だ。一日50個のハニワを倒したって、1000個倒すのに20日かかる。それでやっと巻物一つだ。 先日出たのはたぶんまぐれだろう。そう簡単に出そうにない。 とすると、悠長なことはやっていられない。
これでは、イトのお姉さんも、村も救えない。
祖父の手紙を読み返しながら俺はイトに言う。
「かなり難しそうだぞ。俺が妖怪に対応するには時間がかかりそうだ。」
イトはにっこり笑って答えた。
「大丈夫。巫女は、妖怪に強い。ハニワには勝てないけど。」
おお、そうか。埴輪斬りを持つ俺はハニワに強い
「二人で力を合わせれば、突破できる。初めての共同作業ね。」
ウェディングケーキ入刀かよ!
まあ、それなら何とかなるかもな。
ともかく、負けて戻されてる暇はない。取りこぼしないように頑張ろう。
「そうと決まれば、午後からもぐるぞ。支度をして、食事の準備もしよう。夜は弁当だな寝る時間までまで潜ろう。」
イトはうなずいた。
かおりは、たくさん米を炊いてくれていた。
昼飯と晩飯の握り飯の両方がちょうど間に合うくらいだ。
塩と具、ラップと海苔を用意して、イトにおにぎりを作ってもらう。
一つ見本を見せたら、あとは器用に作り始めた。これなら大丈夫だ。
俺は、家の中を探す。イトの服になるものがないかと思ったのだ。
すると、押し入れの奥から、巫女の衣装のようなものが見つかった。
しかも沢山ある。俺の祖母か、母親が着ていたのだろうか?
行李の中に勾玉がはいっていたせいか、虫喰いも黄ばみもない。勾玉すげえ。
昼飯を食べると、俺とイトは連れだって黄泉の洞に行った。
俺は羽織袴、イトは巫女姿だ。
降りたところの踊り場で、イトが俺に抱き着く。
俺はそこで、壁から出ている珠に触り、心の中で「第五層」と念じる。
すると、先日イトを助けた第五層の階層主の部屋の裏に出た。イトも一緒だ。
そこから、俺とイトの快進撃が始まった。
ハニワが出てくれば、俺が埴輪斬りで斬る。
妖怪が出てきたら、イトが妖術で対応する。
驚いたことに、イトは風、水、火の三種類の妖術が使えるそうだ。 土は使えない、とのことで、洞窟の中で足場を固めたりできないのはちょっとだけ残念だ。まあこれが普通うなんだが。
出てくる妖怪によって、使う妖術が違うのだそうだ。
とりあえずは狼と蝙蝠ばかりなので、今のうちは簡単なようだ。そのうち、いろいろな種類が混じってくると、一匹に対応するうちに他が攻めてきそうだな。
反射神経が必要になるんだろう。それ以外には何が必要なんだろう?
とりあえず、俺とイトは、交代しながらハニワと妖怪を倒していった。
俺からすれば、ハニワを斬るのは簡単で、妖怪に対応するイトは大変だろうな、と思うのだが、イトからすれば、ハニワに対処できる俺がすごいんだそうだ。
うーむ。まあ、価値観の違いだということで考えるのはやめよう。
というわけで、第10層に到達した。
各層で負けていたら戻ってこられなかったので、問題なくここまでクリアできたのはありがたい。これまでに一度でも負けたら今日一日が無駄になってしまう。
もちろん、ここでボスに負けたら水の泡だ。気をひきしめていこう。
第十層の相手は、大きなハニワと赤い鬼だった。
鬼は一本の角が生えていた。
手筈通り、俺がハニワを、イトが鬼を狙う。
さすがに階層主だけあって、俺たちの攻撃の危険性を察知したのか、相棒がそれぞれ防御する。
俺の埴輪斬りは、鬼が金棒で防ぐ。
イトの妖術は、大ハニワが止める。
こいつらも、なかなかのコンビネーションだ。
だが、それであきらめる俺たちではない。
俺とイトは、二人で並んでまっすつ正面を見据えた。
向こうの二匹(一頭と一個か?)も並んでいる。攻撃が来たら、どっちかが防御するつもりなのだろう。
だから、俺たちは二人で前に出る。
俺の埴輪斬りが、イトの風魔法と火魔法を纏う。
そのまま横なぎすると、両方が真っ二つに斬れた。
鬼も、ハニワも、真っ二つになって、そのまま消えていった。
あれ、本来ならこのハニワ、横なぎにしてはいけないんじゃなかったっけ?
中に人が居たら、真っ二つだ。 まるで、桃太郎をおじいさんが桃ごと真っ二つに斬ってしまうように。
幸いなことに、イトのお姉さんはこの大ハニワ中には居なかった。
次回からは、ハニワに関しては、頭の5分の1くらいのところを上段から斬ろう、と二人で反省するのだった。
勾玉と櫛と、何やらとんがった円錐形のものが落ちている。櫛なんて珍しい。もしかしたら何かいい性能がついているのだろう。これは後でイトの勾玉マシンで調べてもらおう。
え?勾玉モドキにそんな機能あるのかって?いや、あっても不思議はない。何でもありだりだからだ。ファンタジー万歳。(いいのかよ)
ちなみに、とんがった円錐形のものは、どうやら鬼の角らしい。 でもさっきの赤鬼の角と形状が違う。やはり、違うものが即時に生成されるのかもしれない。
ドロップアイテ…いや、落とし物はそれなりの力を持っているんだろう。 自分の周りをよく調べてみると、巻物も3本ほど見つかったい。とりあえずは使わない。 秘密兵器は隠し玉ということだな。
10階層を出たところで、魔法陣と珠が出てきた。これで、第十層までストレートでたどり着いた。もう大丈夫だ。第11層からは、すべての出口に魔法陣がある。
あと、祖父の書面にあったのだが、羽庭一族は、五層ごとに新たな力を得ることができるようだ。
俺は、第五層で、ハニワを1つ操作できる能力を取得していた。
どうやってわかったのかって?それが自分でもよくわからないんだが、突然、そんなことができそうな気がしてきて、試したらできた、ということだ。まあ、ハニワを動かすくらいならトライに失敗しても問題ない。
スカイダイビングとかでトライして失敗したら、とか思うと怖くなり、その連想で地下鉄はどこから入れたんでしょうね、とも考えるようになって夜も眠れなくなっちゃう。イエス、サンキュー照代。
今のは昔祖父が言ってたフレーズだ。意味はよくわからないが。
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ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
地下鉄は…っていうフレーズは、ググったら出てきました。
やっと黄泉の洞に潜りました。前振り長かったなあ。
え?すぐ抜けるって? いや、えーと。ごにょごにょ(笑)。
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