第10話 地下の攻略は面倒だからやるわけがないと思ったのに。
日がさしてきた。
小鳥が鳴いている。
…今朝も朝チュンだ。
といっても、だいたい俺の家だしな。
気が付くと、昨日と同じように、イトが俺の左腕を腕枕にして俺に抱き着いている。
ただ、衣服は乱れている。…仕方ないよな。
本来なら感動の童貞喪失、のはずが両方から攻められて大変だったのだ。
イトは初めてのはずなのに、なんで積極的なんだ。
そして、かおりはまるで悪魔のように俺の精を搾り取る。
精魂尽き果てて眠った、というのが真相になる。
で、かおりがどうなったかと言うと、すでに起きて朝食の準備をしているのだ。
なんと素晴らしい。
あの戦いのあとで、何故にすっきり起きられる?
もしかしてサキュバス?…まさかな。ここは日本だ。
日本の妖怪でそんなのいないよな。雪女もちょっと違うし。
とりあえず、俺も起きることにした。
眠っているイトをはがそうとすると、
「ソウ、大好き…:とキスしてきた。
正直、すごく嬉しい。
こんな美少女にそんな言葉言われたの初めてだ。
…いや、訂正しよう。
女の子にそんなことを言われたのが初めてだ。
男冥利に尽きる、というものだ。
だが俺は起きなければならない。かおりに全部任せるのは、何か違うような気がするからだ。俺の家だし。
俺は起きて顔を洗い、歯を磨く。そのあと台所へ行き、「かおりさん、おはよう。」と言う。
「いまさら『さん』なんてつけなくてもいいわよ。ソウちゃん」
俺はちゃんづけですか。そうですか。
「何か手伝おうか?」俺はかおりに尋ねた。。
「うーん。特にないけど、畑にもし野菜が出来てたら、何か持ってきてくれる?」
俺は畑に行ってみた。すでにトマトとなすがなっている。どちらも鈴なりだ。これは二人で食べられる寮じゃない。
あとで、かおりに持たせることにしよう。
とりあえずトマトを三つ、もいできた。かなりみずみずしい。
「これ、すごいわね。かなり品質いいよね。」かおりが言う。
「ああ、ありがとう。どうせ食べきれないから、あとで持って行ってくれ。なすもあるからな。」
俺は答える。
「農協に出荷したらいいよ。その辺はわかる?」かおりが聞いてきた。
「わからないから、今度村に出たときに、外原くんに聞いてみるよ。」
俺は答える。規格の問題もあるだろうし、だいたいこの地域で何が沢山採れるのか知らないのだ。
「それがいいわね。あとは、自分で通販で売る手もあるけどね。」かおりは言う。
「いや、それは無理だろう。この家、インターネット通じないしな。」俺は答える。
「まあ、いろいろそのうちにね。」かおりが答える。何をそのうちなんだろう。と思っていると、イトが起きてきた。
「ソウ、かおり、おはよう。」イトが言う。首ののびた俺のTシャツ姿だ。
「あら、イトちゃんの服がいるわね。ちょっといらっしゃい。」かおりはそういうと、台所仕事の手を止めて、イトと置くに行った。
しばらくすると、イトが上品な青いワンピースを着て出てきた。
「ソウ、どう?似合う?」イトが聞いてくる。
「ああ、とてもよく似合うよ。可愛い。」
イトが、花が咲いたように笑う。本当に可愛いな。
その横で、かおりが膨れている。
「わたしにはかわいいなんて言わないくせに。:
これはちょっとまずいな。
「いや、かおりは綺麗だよ。大人の女性の魅力だな。」
ちょっと苦しいかな。だが、イトと比較してはいけない。別のものだ、というようにしておけば角が立たないだろう。
ハンバーグとお寿司みたいなものだ。どっちもいい、ってやつだな。
実際、味は…いやいや。やめておこう。
「綺麗なかおりさん、朝ごはんをお願いします。」そう言って、頭をなでてみた。
かおりが嬉しそうな顔をしつつ、「そんなのじゃ誤魔化されないわよ。」という。
でも、ご機嫌は十分に直ったようだ。
ご飯にみそ汁とアジの干物とおひたしという、なんとも和風の朝食を済ませると、かおりは帰っていく。 トマトとなすを土産に持たせた。
「来週金曜にまた来るからね。あと、それ、5個くらいもらっていくよ。」それ、というのは勾玉である。
とりあえず、イトの勾玉マシン(言い方が定まらない)にも今は必要ないようなので、持って行ってもらっても全く構わない。
かおりが帰ったので、俺はイトに聞いてみる。
「イト、なんでかおりは物分かりが良くなったんだ?何したんだ?」
イトは答えた。
「巫女の力。これを使って、かおりに、私とソウのことを認めさせた。」
…なんか凄いこと言ってるな。
「イト、お前巫女なのか?まあそれはいい。人の心を、自由にあやつれるのか?」
なんと恐ろしい。
イトは俺にしがみついて言った。
「ソウはイトの命の恩人。恩人には絶対そんなことはしない。イトはソウに感謝しているし、ソウのことが大好き。だから抱いてもらった。イトはソウにウソはつかない。」
半分泣いている。
女の涙に男は勝てない。
イトがウソ泣きしているのか、本気なのかはわからないが、まずはイトを信じてみよう。
俺がイトを信じる限り、たぶんイトは変なことはしないだろう。
もし裏切ったら…考えただけで恐ろしい。
…あれ?じゃあ、なんでかおりとああなってもよかったんだんだ?
「強い男には女がたくさん。それは当たり前。忘れないでくれればいい。」
…なんとも出来た彼女だなあ。
え?彼女、なのか?
まあ奥さんじゃないけど…。
話題を変えよう。
「ところで、イトはどうして黄泉の洞でハニワになっていたんだ?その前はどうしていたのか、覚えているかい?」
聞こうと思っていて、なかなか聞けなかった質問だ。
イトが、突然あわて出した。
そして勾玉マシン(また違う名前だ)をいじる。
そして言う。
「まだ間に合う。大丈夫。間に合う。」自分に言い聞かせるように繰り返す。
「どうしたんだ。何が間に合うんだ?」俺は尋ねた。
ちょっと落ち着きを取り戻したイトが答える。
「イトの村に、常闇の洞窟がある。大巫女様によると、巫女が常闇の洞窟から赤い勾玉をもって帰って、村の神様に奉納する必要があるって。」
ほお。そんな儀式があるのか。まあ、ありそうな話だ。
「奉納しないと、村が滅びる。」
それはおだやかじゃないな。単なる言い伝えだろうに。
「村のあちこちに穴が空き始めた。もうすぐ限界。皆、毎日震えながら過ごしている」
だったら、みんなで行って取ってくればいいだろうに。
「常闇の洞窟に入れるのは、長(おさ)の一族か、巫女だけ。それ以外は入れない。」
そんな言い伝えよりは、物を持ってくるほうが先だろうに。
「普通の人は、洞窟に入ろうとすると弾き出される。だから入れない。」
ああ、黄泉の洞でハニワに負けると入口に戻されるようなものか。
「長の一族の人たちは、みんな途中で弾かれた。。イトのお姉ちゃんは、洞窟に入って、戻ってこない。途中で妖怪に負けたら入口に弾き返されるはずだから、中でとらわれているはず。 たぶん、一番奥の部屋。」
俺は一応確認する。
「閉じ込められたら飢え死にしないのか?」
「死んだら、やっぱり死体が弾き返される。だから生きてる。」
なるほど。
「ところで、赤い勾玉はどうやったら手に入るんだ?」
イトが答える。
「たぶんだけど、一番奥に大きなハニワが居て、それを倒せば赤い勾玉を落すはず。途中のハニワは普通の勾玉だったけど。」
そうなのか。要するにボス戦で勝てば入手できるアイテムなんだな。
「イトは、一番奥の手前でハニワに捕まった。最後のところだったから、弾き飛ばされずにハニワになってた。ハニワになっていると、食べないでも生きてる。だから、たぶんお姉ちゃんも一緒。」
そうなんだな。
「イトは第五層でハニワになってたな。お姉さんはどこにいるかな?」
「たぶん二十層。そこは、常闇の洞窟とつながっているから。 もちろん、十五層とか十層でハニワになっている可能性もあるけど。」
黄泉の洞は、5層ごとに階層主がいる特別な構造になっている。イトはそれを知っているんだな。
どっちにしても、戻るなら二十層まで行かなければならないな。
「イトを助けたように、お姉ちゃんも助けてほしい。」イトが真剣な顔でいう。
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ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
やっと和風ダンジョン冒険活劇っぽくなってきた…かな?
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