第8話 真実なんて説明して説得できるわけがないと思ったのに

俺は、とりあえず庭に出てみた。

清水かおりが乗ってきたであろうミニバンがそのままある。まだ帰ってはいなかったようだ。


近付いてみると、中で清水かおりが泣いていた。

うーん。どうしたらいいのかよくわからないが、とりあえず放っておいてはまずいことだけはわかった。



とりあえず、車のウィンドウをとんとんと叩く。

清水かおりが、俺のほうを向く。


「清水さん、とりあえず家に入ってよ。彼女のことはこれから説明するから。」


俺はそういって、とりあえず清水かおりを家に連れていくことにした。


彼女も、ここに居ても仕方ないと思ったのだろう。

「荷物を持っていくの手伝って。」

かろうじて清水かおりが言った。


車の後ろに、スーツケースと大きなクーラーボックスが入っていた。

俺はクーラーボックスを両手でかかえ、また清水かおりはスーツケースを持って家に入った。


クーラーボックスの中身は、俺への差し入れだったようだ。とくに肉とか果物、ビールなどがいろいろ入っている。正直なところ、冷蔵庫には入りきらないくらいだ。

まあ、あとで考えよう。


とりあえず、俺と清水かおりは無言で中身を冷蔵庫に入るだけ入れた。

冷蔵庫に入っりきらないものは、傷みにくいものだけテーブルに置いた。


とりあえず何とかなった。だが…


…気まずい。


そして、台所にいるわけにもいかないので、二人で居間に行く。相変わらず、イトがちょこんと座っていた。


…気まずい。


「あの…」何とか俺は話を始めようとした。


その時、突然防災無線が鳴った。


出てみると、清水次郎じいさん、つまり役場の爺さんで、清水かおりの祖父だった。


「お~い、かおりに郵便の配達に行ってもらったからな~もうすぐ着くだろう。差し入れも持たせたらかな~。」


もう着いていますよ。三時間かけて来てくれたんですね。


「ああ、清水さん。かおりさん、もう来てますよ。」俺は愛想よく答えた。


「おお、そうか。かおりには、羽庭くんの飯を作るように言ってあるから。遅くなると山道は危険だから、今夜は泊めてやってくれな。なあに、明日は土曜で休みだ。ゆっくりしてくれや。」


…完全に家族ぐるみの確信犯じゃないか。


俺が何か言う前に、防災無線は切れた。いまごろ爺さんは、してやったり、という顔をしているんだろうな。


これで、イトが居なければ、それなりに楽しい夜になったような気がするんだが、イトがいるので、どうしたらいいんだろうか。


「で、この子は何よ?」清水かおりは、俺に尋ねっる。


「イトは、ソウの女。」イトが横から言い切る。


「おい、ちょっと黙ってくれ。」俺はイトに言う。


「ソウ、このおば…」イトが続けようとしたので、俺はあわててイトの口をふさぐ。


「イト、お願いだから、当分しゃべらないでね。」俺はイトに優しく、ただしきつい感じで言う。この加減が難しい。


「まあ、時間はたっぷりあるわ。とりあえず夕食作ってあげる。そのために来たんだから。材料は三人分くらいあるわよ。じゃあ、ビールでも飲んで待ってて。」


かおりはちょっと凄みのある笑いを残して台所に向かう。

どうしよう…


28歳、彼女いない暦=年齢、童貞の俺には難問すぎるんですけど。

イトを横目で見ると、ちょっと厳しい顔をしている。これはこれで怖いな。


二兎を追う者は一兎をも得ず。イトを追う者は…?

などととりとめの無いことを考えて、ちょっと現実逃避してみる。


すぐに清水かおりが、ビールと枝豆を持ってきた。 


「とりあえず、これでのやってて。あと、これはその子に。」

彼女はそういってウーロン茶の2リットルボトルとコップを置いた。


俺はとりあえず「ありがとう。」と言う。


「別に見逃したわけじゃないからね。あとでゆっくり聞くから。夜は長いしね。」

そう言ってかおりは笑う。


だが、目が笑っていない。そうか。目が笑っていない、というのはこういう顔のことを言うんだな。


…知りたくは無かった。


いずれにしても、やっぱり、泊まる気まんまんなんだ。


独身男の家に泊まりにくる、しかも家族公認、ってやっぱり既成事実を作ろうってことだろうなあ。


彼女は素敵な人だとは思うけど、今の俺は、結婚なんてとても考えられない。

彼女がどうの、ではなくて結婚が考えられないってことね。


童貞はいろいろ考えすぎるのかもしれないが、いろんなことが頭をぐるぐる回る。

イトにしてもこれからも迫ってくるんだろうしな…まあ、イトとはもう少ししたら意志の疎通が完全にできるようになるだろうから、そうしたら大丈夫だな。たぶん。


…日本語が通じる清水かおりにすら話がうまくできないのに…どうなるんだ、これ。


俺は、やけになってビールをあけた。そして気づいて、ウーロン茶のボトルからコップにイトの分を注ぐ。


イトにグラスを持たせ、俺はビールの缶を持って、「かんぱ~い」と言う。イトもまごつきながらも「かんぱーい」と答えた。


そして俺はビールを飲む。イトもウーロン茶を飲む。俺が「ぶはー」と言うと、イトも真似して「ぷはー:と言った。可愛い。


「ソウ、何飲んでる?」イトが聞いてきた。


「これはビールだ。酒だよ。イトにはあげない。」俺は一応予防線をハル。


「え、イトも飲みたい。」まあそうですよね。好奇心旺盛なんだし。


「まだ子供でしょ。ダメだよ。」俺は一応そういってみる。


「イトはもう成人している。立派な大人。問題ない。」

イトはそう答えた。


まあ、多分それはそうかもしれない。ただ問題は、イトの世界の成人が何歳か、ということだ。

「イト、今日はやめておきなさい。まだ体調が完全じゃないんだから。」


イトは不服そうだが、うなずいた。うん、やっぱりいい子だ。


俺はイトに枝豆を勧める。

「イト、これは枝豆。からから中身を出して食べるんだよう。こういう風に。」


俺は手本を見せる。イトも同じようにやる。


「おいしい」イトが言う。この言葉はすぐに覚えたようだな。


「ソウ、あのおばさん、ソウの女?」

イトがまた危ない発現をする。


「違う。ただの知り合いだ。 それから、お願いdから、おばさんという単語はやめてくれ。」俺はイトに頭を下げる。


「誰がおばさんだって?」

ほら、デビルイヤーは地獄耳だ。


「いや、気のせいだよ。何も言ってないから。」俺は叫ぶ。

俺を人睨みして、かおりは台所に戻る。


寿命が3年は縮まったような気がする。


しばらくして、豪華な食事が運ばれてきた。

山の中だというのに、ウナギのかば焼きやらカキフライやらも並んでいる。


…なんだか意図を感じるが、気づかないふりをする。

そういえば、さっきテーブルにおいた飲み物の中に、キヨーレオピンってのがあったな。

オロナミンCみたいなものかと思ったけど、違うんだろうか?

いや、これも考えるのをやめよう。


サラダに焼肉におひたし、みそ汁に酢の物も並んでいる。

普段粗食な俺からすれば、ほとんど満漢全席のようなものだ。


「…すごいね。ありがとう。いただきます。」俺はそういって頭を下げる。



「どうぞ召し上がれ。」かおりは言う。


おずおずと、イトも「いただきます…。」という。

かおりはうなずいた。


「じゃあ、私もいただくわね。缶だからちょっと風情がないけど、まあいいよね。」


かおりはそう言って、缶ビールを開ける。


「かんぱーい」:俺とかおりは同時に言う。


ちょっと遅れて、からのコップを持ち上げてイトも「かんぱーい」と言う。


食事をはじめて10分くらいしたところで、かおりが切り出した。

「で、この子は何なの?いくつなの??」


俺は、正直に答えてみる。

「彼女の名前はイト。年齢はわからない。言葉もあまり通じなかったしな。実は、地下の洞窟みたいなところを探検していたら、ハニワの中から出てきたんだ。」


100%真実である。


かおりは怒っていった。

「あのね、言っていい冗談と悪い冗談があるわよ。私は、ちゃんとした説明を聞いてるの。

淫行で訴えるわよ。」


そんなこと言われても…。



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