第7話 修羅場なんて俺に起こるわけがないと思ったのに
家に戻ると、イトが居間にちょこんと座って、テレビを見ていた。ちょうど「おかあさんもいっしょ」をやっている。イトはテレビを食い入るように見つめていた。勾玉モドキを首にかけている。
「イト、戻ったよ。」俺は声をかける。
「もどったんだぞお!まってたんだぞお!これおもしろいんだぞお!」
何だか言葉が変だ。どうやら、子供向けのゾウのキャラクターの口癖らしい。
いかんいかん。俺は、番組が終わったところで、チャンネルを民放に変えた。
ちょうど、お昼のニュースが始まった。
首相がどうしたの、交通事故だの、火事だののニュースが流れる中、俺は昼飯を準備する。
冷蔵庫に牛肉と玉ねぎがあったので、簡単に牛丼にする。
玉ねぎを刻み、牛肉の細切れを冷蔵庫から出す。あとは、みりんと醤油と砂糖で味をつけるだけだ。
イトは、たぶん濃い味に慣れていないだろうから、砂糖は少しだけだ。
牛丼はすぐ出来た。
ドンブリにご飯を入れて、肉玉ねぎをかける。これだけだ。
あとは漬物を出してきて、牛丼の上に添えて出来上がり。 みそ汁は朝の残りを温めなおした。
スプーンと水を用意し、茶の間に持っていく。
「イト~昼ご飯だよ。」俺はイトに声をかけた。
「昼ごはん?昼にごはん?」イトはまた不思議そうな顔をする。
たぶん、一日二食の生活だったのかな。
きっとイトの出身は、そんなところなんだろう。かなり未開の地のような気がするが、あの勾玉は古代文明の遺産かな?
俺は、何となくイトは昔の日本か、昔の日本によく似た異世界から来たと思うようになっていた。
それが一番しっくりくる説明だからだ。
昔の日本の言葉に近い言葉をしゃべったので、昔の日本と関係しているんだろうな、と思う。
まあ俺も日本の古文とかよくわからないので、俺の推測が正しいのかどうかはわからない。だいたい、よくわからない言葉も発していたしな。勾玉の翻訳機能で昔の日本語にしていたのなら、もともと単なる異世界なのかもしれない。
「うちでは、朝、昼、夜と三回食事する。わかったかな?」俺はイトに言う。
イトは「がってんしょうちのすけ」と返事をした。
これも子供番組っぽいな。
民放はこれからワイドショーかドラマだから、いまの普通の日本語をインプットできるだろう。
「じゃあ、食うぞ。いただきます。」俺はイトに言う。
「イトもいいなさい。いただきます。」
イトはうなずいた。
「いただきます。」
そして、二人とも食べ始める。
「イト、うまいか?」俺はイトに聞く。
「うん、うまい。」イトは答える。うーん。日本語を俺からもインプットするなら、意図して女言葉を使うべきかもしれない。
「イト、おいしいかな? 食べられる?」俺は聞き直した。
イトは大きくうなずきながら答える。
「とってもおいしい。全部食べる。ソウ、すごい。」
「おお、そうか。ゆっくりでいいかなら。」俺はイトに声をかける。
イトはもくもくと牛丼を食べる。
イトは、昨日俺が着せたTシャツとトランクスのままだ。
髪の毛は今朝櫛でとかしている。
食事を片付けて一休みだ。
俺は、部屋の隅に置いてあるマッサージチェアに座る。
うちの田舎の年寄りの家には、必ずと言っていいくらいマッサージチェアがあるのだ。
いまは座るだけで、マッサージをするわけではない。
俺が座ったら、それを目ざとく見つけたイトが、俺のところにやってきて、チェアに座る俺の上に座ろうとする。
これはいろいろな意味でまずい。
イトの生足が俺に触れる。いや、これはたまらない。水てっ、いやマグナムが暴発するかも。
俺は慌てて起き上がる。
「イト、暑いからくっつかないでくれ。」俺は言う。
「ソウ、イトのこと、嫌いなの?」イトが悲しそうに言う。
「いやいや、そんなことはないよ。単純に暑いだけだから。さあて、また畑に行ってくるよ。」
「穴の中、行く?」不安そうにイトが聞いてくる。穴って、たぶん黄泉の洞だな。
「黄泉の洞には今日はいかない。安心していいよ。」俺は答えた。
イトが、あからさまにほっとしているのがわかる。
「じゃあ、行ってくるよ。」
俺はそういって、逃げるように畑に向かった。
午後も、畑をたがやすだけで終わった。結構広い。もしかして、祖父は、ハニワを使って庭仕事をしたのかもしれない。 だが、現在の俺にはその能力はない。能力を開発するには、たぶん二十層まで行かないといけないのだろう。まあ、どんな能力が手に入るのかはまだわからないのだが。動かないハニワに歌を歌わせる能力とかだったら、畑仕事には向かないしなあ。
休憩でちょっと戻り、作っておいたおやつのおにぎりを食べ、すぐに畑に向かう。
ちなみに、おやつのおにぎりはイトは食べなかった。
夕方、、早めに戻る。手だけ洗って、洗濯物をとりこむ。
天気が晴れていたので、すっかり乾いている。まあイトにあの布を着せる気はしないが。
俺はすぐに風呂を沸かした。
畑仕事で汗をかいている。食事を作る前にまずは風呂だな。
外はまだ明るいが、そうは言ってももう夕方だ。
俺は風呂に入った。
やはり、湯舟は気持ちいい。
寮のボロアパートではシャワーしかなかった。
風呂は遠くの銭湯に行く必要があったが、面倒なのでほとんどいかなかった。というか、工場でシャワーを浴びたらそれで終わり、という日が多かったのだ。
風呂につかり、気分よく歌いだす。
「は~ハニワだハニワだ、ハニワだハニワだ、豊年ハニワだよ~~」
何だかよくわからないが、気分がいいからこれでいいのだ。
気分よく歌っていて、風呂の戸が開くのに気づくのが遅れた。
ふと気づくと、全裸のイトが風呂場に入ってきたのだ。
湯気がいい仕事をしているので、隠れるところは隠れてしまっているが、全裸であることは間違いない。
「その中入るの?わかったよ。」そう言うと、イトは俺のいる湯舟に入ってこようとする。
「うわ~っ」俺はとりあえず、湯舟から飛び出す。脱衣所で体も拭かずに着替えのシャツとパンツを着ているうちに、イトが追い掛けてきた。
俺はとりあえず、風呂場から廊下に出る。そこへ全裸のイトが追い掛けてくる。おれはとりあえず廊下を玄関のほうに進もうとする…
玄玄関に、なぜか清水かおりが立っていた。
「ふ、ふーん。羽庭くん、その子は誰?まだ若いように見えるけど。」
視線が痛い。
全裸のイトが、俺に抱き着きながら不思議そうに言う。
「ソウの女?」
違うんだけどな。
「誰、このおばさん」
あ…アラサー女性の前で絶対に言ってはいけないNGワードだ!
清水かおりの顔が般若のようになる。
「泥棒猫、 この女狐!」全裸のイトが続ける。
午後の昼メロあたりで、こんな単語覚えやがったな。
「おじいちゃんに言われて、届け物持ってきたけど、要らないわよね。」
そういって清水かおりは踵を返した。
…まずい。とりあえず、これは追い掛けないとダメなやつだ。
「イト。服を着なさい。俺は彼女を呼び戻してくる。」
俺はそう言って、イトを風呂場に戻し、あわてて清水かおりを追い掛けた。
修羅場だ…どうしてこうなった。
「
ーーーーー
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
うーん。和風ダンジョンファンタジーじゃなかったのか、との突っ込みがありそうな…そのうち潜りますから! …きっと(をい)。
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