第6話 朝チュンなんてのが自分に起こるわけがないと思ったのに


朝の光で、俺は目を覚ました。


…いつもと、何かが違う。

そこはかとなく甘い香りがする。


胸元に、何か柔らかいものが当たっている。


俺の腕に、何か重みがかかっている。


そして、外からはチュンチュンと鳥の声がする。。


まさか…俺は胸騒ぎがして、掛け布団をそっとはがしてみた。


すると…やはり、イトが俺の左腕を腕枕にして、俺に抱き着くように眠っていた。

彼女のTシャツはちょっとめくれあがっていて、俺のトランクスが見える。


俺のほうは、Tシャツとトランクスとデザインステテコだ。ちゃんと、ステテコも履いたままだ。


朝の生理現象が起きている。


…ということは、きっとまだ大丈夫だ。セーフだ。未遂だ。俺は無実だ!

羽庭創、二十八歳。童貞のままであります!



もちろん、第三者が見たら、10人が10人、ギルティ!と言うだろう。


イトが目を覚ました。


「ソウ…」彼女は一言そう言って、また俺に抱き着いてきた。

俺は焦る。

とりあえず、態勢を立て直さないと。

俺のマグナムが暴発していまうかもしれない。


え?水鉄砲?うーむ。まあいいや。


俺は、イトをそっとはがす。「イト、いったん離れようか。」


「★〇x…」

寝ぼけたせいか、まったくわからない言葉になった。

翻訳勾玉、何とかしろよ。


とりあえず俺は起きて、洗面所にイトを連れていく。

俺は顔を洗い、イトにも促す。


イトもうなずいて、顔を洗う。

タオルを渡すと、そのまま顔を拭いた。この辺は、言葉が通じなくても問題なく意思疎通できるな。


ついでに鏡の前に立たせて、少し櫛で髪の毛を撫でつける。ちょっとやったところで、櫛をイトに渡す。


「あとは自分でやれよな。」俺は言う。イトは、櫛よりも鏡が珍しいようで、にらめっこしている。


そして今度は歯をみがく。

イトが櫛を持ったままで、不思議そうな顔で俺を見る。


俺は、新しい歯ブラシを出してイトに渡す。

歯磨きをつけてやり、コップに水を入れて渡す。


そして、俺は歯ちょっと磨き、そのあとコップの水で口をゆすいで吐き出す。


「こうやって、歯を磨いて、口をゆすぐんだ。飲むなよ。」

俺はそう言って、歯磨きを続ける。


イトも、櫛を終わらせて歯磨きをする。おそるおそるだが、何をするかはわかったようだ。


俺は歯磨きを終え、コップに歯ブラシを立てて洗面所に置く。

イトも、真似してコップに歯ブラシを立てる。

二つのコップと、赤青の歯ブラシが並ぶ。


(なんか、新婚家庭みたいだな…)俺はちょっとほっこりした。



…いやいや、いかんいかん。相手は未成年だ…たぶん。


俺は、邪な気持ちをとりあえず抑え、朝食の準備をする。


もう今日は普通に食べても大丈夫だろうと思い、昨夜のうちに米はといであった。

電気釜のスイッチを入れる。時間は「おいそぎ」だ。



鍋にかつおと昆布を入れて、出汁をとり、みそ汁を作る。

ある程度煮立ったら、かつおと昆布を取り出し、豆腐とわかめ、味噌を入れてひと煮立ち。


その横でフライパンを火にかけ、二人分のハムエッグを作る。とりあえず味つけは塩コショウでいいだろう。


ハムエッグが焼けたら、めいめいの皿に載せ、キャベツを刻んで添える。

キャベツには軽く和風のドレッシングをかける。



そうこうしているうちに、みそ汁が出来上がる。火を止めて、ネギを入れる。

あとは、漬物を少し刻んで小皿に載せる。


ご飯が炊きあがったので、ちょっとむらしてから茶碗に盛る。

他のものもすべてお盆に載せ、ちゃぶ台に行く。


実は台所に小さなダイニングテーブルもあるが、狭いし暗いので、居間のちゃぶ台で食べることにした。


食事を並べて、「いただきます。」と言う。イトが不思議そうな顔をするので、「イトも言いなさい。食事をおいしく食べるためのおまじないだよ。いただきます。」


と促すと、軽くうなずいて「イタダキマス」と言った。

俺は箸を使う。


イトには、箸とスプーン、フォークを用意した。

「どれを使ってもいいぞ。箸が食べにくいなら、スプーンでもフォークでもいい。」


なんとなく通じたようだ。イトも、箸とスプーンでゆっくり食べ始めた。とりあえず、口に合わないということはなさそうだ。


イトが食べ終わったところで、お茶を入れる。

「熱いから気をつけろよ。」そう言って、ふうふうしながらお茶を置く。


イトは、湯のみに触り、熱いことを確認してから、ゆっくりと飲みだした。

結構賢いし、態度にも品がある。


それなりにいい一族の育ちかもしれない。


…その割りに夜は大胆だったが。



今日は、イトと一緒に居よう。様子を見て、あと必要なものを考えないと。

村のよろず屋で買うか、そうでなければネット通販だ。


よるず屋で女性もののパンツとか買ったら、すぐに噂になりそうだしなあ。

とりあえずここではネットもつながらないので、村へ行く途中で携帯がつながるところを探そう。


まあ、それは明日以降の話だ。


俺はイトに言う。

「今日は、家の中にいなさい。」


イトは不安そうに聞いてくる。

「ソウ、いずこ」


どこへ行くのか、という聞いているんだろう。まあ、俺が居なければ不安だろうしな。


「遠くにはいかないよ。庭か、畑にいる。用があったら呼んでくれ。お昼には戻るから。」


俺はそう言って、テレビをつける。チャンネルは教育チャンネルだ。

「俺がいないときは、これを見ていなさい。 勾玉が、言葉を覚えるはずだ。」


そういいながら、イトの首にさげた勾玉型のものを指さす。


食器を片付け、風呂の残り湯で洗濯をする。シーツと布団カバーは洗濯機、その他の服は手洗いで手早く済ませる。昨日のイトの服も合わせて庭に干す。 一連の作業を、イトがじっと見ていた。


「じゃあ、待っていなさい。」

着替えた俺は、首にタオルを巻き、麦わら帽子をかぶって軍手、長靴で外に出る。


トマトとなすの畝を見て、驚いた。沢山の苗がが育ち、すでに花が咲いているのだ。


一晩でこんなことは普通あり得ない。これはやはり勾玉のせいだろう。いや、おかげだろう。

これは凄い。


となると、出荷もできる、というかしないと、余らせてしまう。これでは、むやみやたらに作ることができない。栽培にも作戦が必要になった。


農協で、出荷の仕組みとかも調べなければいけないな。やることが増えた。


とりあえず、別の場所を耕し、じゃがいもの種芋を切って埋めた。そして、端のほうに曲がった間を埋める。

これもテストだ。一週間くらいできるかな?


一段落したので、昼飯を食うために家に戻ることにした。

イトは大丈夫かな。


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