第5話 俺の家で可愛い女の子が風呂に入るわけがないと思ったのに

少女は、目を覚ました。

もうあたりは暗くなっているので、蛍光灯をつけてある。


開口一番、「知らない、天井だ。」とは言わなかった。


とりあえず、彼女は布団から上半身だけ起き上がり、あたりを見回し、理解できない、という顔をする。

そして、俺を見て言う。


「な、たそ」


たぶん、あなたは誰、という意味だろう。俺は返事をする。


「俺は創(そう)だ。ここは俺の家だ。」身振り手振りで伝える。


少しは伝わったようだ。


「君の名前は?」女の子に手を向けて言う。

もう一度、自分の胸に手を当てて言う。


「俺は、創。君は?」そういって彼女に対して手の先を向ける。



「…わ、いと。」彼女が答えた。


「おお、イトさんか。よろしくな。」俺は答える。

なんとか伝わったようだ。


「腹減っただろう。食べなよ。」そう言ってちゃぶ台を指さす。

そして食べるジェスチャーをすると、理解したようだ。

だが、たぶん警戒している。無理もないけど。


「大丈夫だよ。大丈夫。」俺は、スプーンをもう一つ持ってきて、御粥をすくい、自分の口に入れた。


「ほら、大丈夫だよ。食べなよ。」彼女に促した。


彼女はうなずいて、布団から立って、ちゃぶ台に行って胡坐をかいて座る。

すぐに、お椀を持って、さじで食べ始めた。 俺は席を立ち、風呂を沸かす。


戻ると、彼女はちょうど食べ終わって、今度は正座でちょこんと座っていた。


そして、俺が戻ってきたのに気づくと、部屋の隅の段ボールに入れてある勾玉を指さす。


欲しい、というのだろうか。

「ああ、こんなものならいくらでもやるよ。必要ならまた採ってくるし。」

俺はそう言いながらうなずいた。


彼女は、勾玉を4つくらい手に取ると、一つずつ、首にかけている大きな勾玉のようなものにかざした。するとかざした勾玉が光ってそのまま消える。不思議な光景だ。


かざし終わると、彼女は口を開いた。


「ありがたし。わ、いとなり。」

なんだか古い言葉のようだ。でもこの勾玉ペンダントは何だろう。もしかして、翻訳機能でもついているのかな。自分でしゃべってるけど。


まあ、とりあえずいいや。

俺は、手ぬぐいとバスタオル、俺のTシャツとトランクスを出してきた。ちなみに、トランクスは新品だ。


彼女を手招きする。

不思議そうについてくる。まあ、この家にしても珍しいだろうな。


まずは、トイレを教える。

「これ、かわや。」  祖父の家は山の中だし、うちのは由緒正しきぽっとん便所だ。まあ、匂いでわかるだろう。蓋をあけて、またがる真似をし、横にある紙で尻をふいて中に捨てるジェスチャーをする。


たぶんわかってくれただろう。


俺は便所を出る。彼女はそのあとにトイレに入った。 ま、大丈夫そうだな。


出てきたところで、今度は風呂に連れていく。こちらもわかったようだ。

バスタオルとTシャツとトランクスをかごに入れ、手ぬぐいを渡す。


そして、服を脱ぐ真似をし、中に入るように言って、風呂場を出ていく。


お湯はちょっとぬるめのはずだ。まあ、ちょうどいいだろう。ただ、湯舟に入るかどうかはわからないな。 そこは彼女にしても風呂の習慣があったのかどうかわからないしな。


むしろ、あの肌着のままで湯舟に入らないでくれればそれでいいや。まあ、入ってもいいけどさ。



俺は、彼女の食事を片付け、自分の分の肉野菜炒めをさっと作って買い置きのパンとともに食べる。


御粥は、彼女のために残しておく


イトが風呂から出てきた。俺のシャツを着ている。あと、シャツのすそから俺のトランクスがちらちら見える。


女の子のパンツ姿だ、とも言えるが、俺のトランクスだし、べつになんとも思えない。

胸のほうは、発展途上だな。



「ソウ、ありがたし。」

彼女は言って、頭を下げた。これは昔からお礼なんだろうか?


俺は、イトに湯呑を渡し、水道から水を出す。

「こうやって、いつでも水が飲める。やってみろ。」


そういって、手振りで彼女にやらせる。


イトは、おそるおそる蛇口を動かし、水が出るので驚きつつ、すぐに意図を察して水を入れ、蛇口を締めた。


「飲みたいときに飲んでいいよ。あと、御粥も冷めてるけど、いるなら食べてな。」

そういって、御粥の入った鍋の蓋を開け、汁椀とさじもおいておく。



「ゆっくりしててくれ。俺は風呂に入る。」


俺はそういって風呂場に行く。彼女の着ていた服というか肌着は、洗ってタオルかけに干してあった。


湯舟には入った形跡はない。まあ、いいか。


彼女にシャンプーや石鹸のことをも教えないとな、と俺は思った。



俺も風呂からあがり、水を飲むと、イトの寝ていた俺の布団のシーツと布団カバーを手早く代え、枕に新しい手ぬぐいを巻いた。


「今日は、疲れているだろうし、もう遅いから寝よう。俺は、隣の部屋で寝るから。台所の電気と廊下、便所の電気はつけておくぞ」


そうして、居間の電気を消し、「おやすみ」と言って、俺は隣の部屋で布団を敷いて寝た。 

夜這い? するわけがない。俺は疲れていたので、布団に入ったと思ったら、そのまま泥のように眠った。。


イトが夜中に粥を食ったのかどうかなんてまったくわからない。まあ、水道もトイレも教えてあるから、家にいる限りは大変な事故にはならないだろう。


…と思ったのだが。


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