第2話 葬式が娯楽のわけがないと思ったのに

第2話

葬式が娯楽のわけがないと思ったのに


密封された祖父の手紙を開けた。


ふむふむ。

「創へ。お前がこれを読んでいるということは、儂(わし)はもう亡くなっているるということだ。」


その通り。


「であれば、こんなものを読んでいないで、まずは物置にある「黄泉の洞(よみのほら)」の入口に行き、中のの一段目の両側に盛り塩をせよ。塩は物置に入っている。急げ。」


こんなものを読んでいないで、って言われてもこんなものを読まないとそれもわかんんええだろ!と内心突っ込みつつ、創は急いで物置に行く。


たしかに物置の棚に塩の袋がある。その横に小皿も二枚あったので、塩をそれぞれに盛って、穴の一段目の両側に置く。


こんなもの効くのか、と思ったら中からハニワが上がってきた。しかし、途中で盛り塩を見て、引き返していった。確かに効果があるようだ。


これなら、華奢な物置でも、とりあえずハニワを追い返すことができる。あとで蓋も作ったほうがいいだろうか?


とりあえず俺は母屋に戻り、手紙を読む。


「お前に言う機会が無かったのだが、我が羽庭家は代々ハニワを操る能力を持つ家系だ。ただし、当代に一人しかその能力は発現しない。


今、儂の子孫はお前だけなので、お前は能力を継承できるはずだ。とくに、儂が死んですぐにこの家に入っているなら、残っている幽体が取り込まれるので、お前のものとなるだろう。」


…何か、すごい話になってきたな。


と思ったところで、防災無線が鳴った。


役場の爺さんだ。清水次郎さんというらしい。次郎長かよ?

葬儀の段取りがついた、という連絡だ。

明日10時に来てくれるという。それでも、向こうを朝7時には出ないといけないはずだ。大変だな。何もわからないこちらとしては、とてもありがたい。


俺のすることは、とりあえず三日分の着替えと、祖父と俺の通帳とハンコだという。なんで俺の通帳とハンコなのかよくわからないが、まあ当日わかるだろう。

とりあえず、三日間は泊まり込みになるんだろうな。


一張羅のスーツを出す。工場では、入社式以外にそんなもの着た事ないから、久しぶりだな。ワイシャツはあるが、ネクタイは葬儀用のものはない。まあ、課してくれるだろうな。j十年間、ろくな食生活じゃなかったので、体形も変わっていない。


あとは通帳か。ちょっと探すと、タンスに大きな封筒があり、その中に彼の資産目録と書類が全部あった。さすが几帳面だ。通帳は郵便貯金と農協だな。この通帳、JAじゃなくて農協って書いてあるぞ。いつのだろう?あ、もちろん今の通帳もあった。貴重品だし、全部持っていくことにする。


不動産はこの家と周りの土地、主に畑と荒地だ。かなり広いけど、何もないところだ。

郵便貯金の通帳からは、いろいろなお金が引き落とされている。NHKに電気代、健康保険に固定資産税とか。互助会とかいうのもある。何だろう。まあいいや。


両方足すと、俺が見たことのないような金額になった。だけど、固定資産税も払わないといけないしな。

相続手続きにもお金がかかりそうだ。


で、やっと遺書に戻ろうかと思ったが、今日一日が忙しかったのでもう眠い。

これからじっくり時間もあることだし、明日にしよう。 ということで、爺さんが寝ている布団の横に自分の布団を敷いて寝た。



翌朝、簡単に食事を済ませ、出発の準備をする。ハイエースに詰め込んだ荷物はおろしてある。祖父の枕元にお線香を立てた。


準備といっても着替えくらいで、あとは実は特にない。


役場の清水次郎さんがやってきた。郵便局にいた同級生の清水かおりさんが、役場のワゴンを運転してきた。片道三時間ご苦労様。


清水さんはアラサー、というか俺と同級生なので、今28-9ということになる。ちょっと目元に年齢が出ているかな。まあ俺にはばれてる話だからどうでもいいだろう。だいたいバツイチなんだし。


清水かおりさんは、動きやすいパンツスーツ姿だ。


「この度はご愁傷様です」といって二人が家に入ってきた。

二人は祖父の亡骸にに手を合わせた。


そのあとすぐにストレッチャーで遺体を運び出し、乗ってきた車に収容した。

棺桶はかさばるので載せていないそうだ。棺桶は葬儀場にあるという。清水さんたちは慣れた感じだ。たぶん、村で葬式があるときにずっと取り仕切ってきたのだろう。


でも、毛布がかかっているとはいえ、死体と同じ車に乗るのって大丈夫なんだろうか? ああ、死体の横でぐーすか寝ていた俺には言われたくないだろうな。


持ち物を確認し、戸締まりをして、また三時間山を下る。 俺は帰りのことがあるのでハイエースで行くことにした。


葬儀の場所になる公民館に行くと、もうかなり準備ができていて、黒のスーツ姿のちょっとくたびれた中年男が挨拶に来た。


「この度はご愁傷様です。互助会の久米田(くまいでん)と言います。」そういって名刺を出してきた。ちゃんとフリガナが振ってある。普通ならくめだ、と読みそうだ。


村での葬式の標準コースで行うらしい。祖父は毎月互助会にお金を出していて、それが葬式代に当てられるそうだ。会員が長かったので、参列者80人までなら追加費用なしだそうだ。追加費用っていっても香典t返しのお茶だそうで、それほど高いものじゃない。

あとは坊さんのお布施は別だそうだ。ピンキリらしいが、とりあえずよくあるという20万円でお願いしようかと思ったら、ここは30万がいいと言われた。何が違うんだろう。


別に葬式代でもめる気はないので、言われるままに書類にハンコを押した。どうせ祖父の金から支払うのだ。人並みにはしてやりたい。

この日の晩にお通夜、明日が告別式と火葬になるという。


久米田は、役場の人と一緒に棺をワゴンまで持っていき、祖父の遺体を収めて定位置においてくれた。俺はその上から少し花を入れておく。ドライアイスなどが入れられていく。


田舎の葬式は数少ない娯楽らしい。

祖父の死亡は、村内で放送がなされ、その際に葬儀の情報も発信されていた。



結構入れかわり立ち替わり人がきた。通夜だけで香典返しが無くなってしまったくらいだ。

互助会の人が追加を持ってきてくれた。


ちなみに、葬儀の控室には酒食も少しおいてある。一部の連中はそこで盛り上がっている。俺はまったく知らない人たちだ。


ちょっと意外だったのは、小中学校の同級生が5人も来たことだ。そんなに地元に残っているのが不思議だった。 ただ、話を聞いてみると、子供が小学校に入るときには引っ越すとのことだった。高卒で役場に勤める奴なんかは、すぐ子供が生まれたので、もう隣町にいるらしい。


俺のときは、祖父の家からこの村まで小学校に入るために引っ越してきたが、今はこの村でも小学校がなくなってしまったようだ。子供が少ないと、なかなか財政的に学校を維持できないらしい。まあわからんでもないのがなんだか悔しい。子供にとっても、同級生は沢山いるほうがいい。


同級生は、農協に勤める外原明夫と明子の夫婦。土建屋に勤める堂庭恵一と恵子の夫婦、あとは清水かおりだった。


清水かおりは葬儀を手伝ってくれたので、実質は4人と会ったということになる。

俺はもともと母子家庭だったが、同級生の連中は何も分け隔てなく接してくれて感謝している。


というか、当時は気づかなかったが、隣町の高校の寮に入って初めて、母子家庭が差別されるんだ、ということを知ったというべきだろう。


母親は俺が高校卒業前に死んだ。父親はいない。俺は、高校を出てすぐに近所の工場で働き始めた。祖父は帰ってこないかと言ってくれたが、山の中で何もないところにすぐには帰りたくなかったので、工場勤めをした。大学に行く気はもともとなかった。そこまで金が無い。


高校の奨学金だけで200万円以上になったのに、大学なんか行ったら返済するめどが立たないのだ。奨学金って、ただの借金だからな。


実際、工場で10年働いたが、まだ奨学金残高がある。もちろん貯蓄もちょっとだけあるから、返すことはできないわけではない。しかし、手元にまったく金がないのは不安だから、とりあえずゆっくり返すことにしている。そのうちにハイエースがくたばりそうだし、金は手元にあったほうがいい。


通夜に来てくれた同級生は男女とも仕事をしている。小さい子供もいるが、それぞれ自分の親に預けているという。独身で、先の見えない俺からすれば、家庭をもって子孫を、というか子供を残しているのはすごいと思う。清水かおりも結婚したこともあるわけだし、俺一人取り残されている感じだ。


深夜になって、通夜の客も帰り、一人になった。

俺は、祖父の遺書(?)を取り出し、読み始めた。


読み進めると、内容があまりに衝撃的なため、途中で力尽きてしまった。

なお、これで全部ではなく、家のどこかに、超大作の続編というか、本編があるらしい。


翌日は告別式と火葬。

坊さんがお経を読んでくれた。30万円は高いかなと思ったが、坊さんも田舎ではあまり金がないらしいし、どうせ祖父の預金から払うのでそのまま払った。


俺はお骨を持って、公民館に戻った。ここからは、各種の手続がある。

ただ、清水次郎さんとかおりが全部やってくれた。


田舎だけに、あちこちを回る必要はない。訪問するのはどうせ郵便局と合同庁舎くらいだ。

「いいのよ。どうせ手続きするのは半分以上私なんだから。」清水かおりがいう。


彼女は普通の黒髪でセミロングヘアだ。あまり髪型を作っている感じはないが、きれいにまとまっている。目元にちょっとしわがあるが、まあ中の上という感じの外見だろう。


ただ、田舎なのであまり盛っても仕方ない、ということのようだ。


彼女は郵便局の職員だけでなく、役場でもパートをしているようだ。若い労働力が少ないので、彼女はひっぱりだこだという。しかもIT企業に勤めていたとかで、作業の効率化がうまいらしい。RPAとか言ってたけど意味はわからない。次郎さんがワンストップでやってくれたのは、実はかおりが全部お膳立てっしてあるからなんだな。


俺の通帳が必要だったのは、電気その他の名義書き換えがあったからだ。俺の口座から今後は電気代やNHKの受信料などが引き落としになる、ということだ。


その日の晩飯は、清水家でごちそうになった。次郎さんの話が面白かった。長男の太郎さんっはもと村長と特定郵便局長。次郎さんは元助役。弟の三郎さんは農協の協会長という、村の重要な組織をまとめる一族のようだ。


酔ってきた次郎さんは、かおりを嫁にしてくれないか、とか公務員にならないか、とか言う。試験受けられないよね、というと、最初臨時職員で入れば、あとから正式に公務員になる道があるらしい。ちなみに次郎さんは、定年になってずいぶん経つが、普通に働いている。


この辺は、少子化が進む田舎のノウハウのようだ。まあ、当面は祖父の家で農業をやるつもりなので、丁寧に辞退した。農協の組合員にもなったしね。


俺は、次郎さんに聞いてみた。


「ところで、この辺でハニワが採れることがあるって聞いたんですが本当ですか?」


「それに詳しいのはあんたのじいさんだったが、もう亡くなったからなあ。あんたの家の近所には、ハニワのかけらが結構落ちてるよ。まあ、わざわざあんな遠いところまで探しに行くやつもいないけどな。」


そうか。野良ハニワを退治した残骸かな。それとも何か儀式でもやってたんだろうか?今となっては確認のしようもない。


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ハニワは敵か味方か?どっちでしょうね。


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第8話までは毎日更新予定です。










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