第50話 サードミッション⑧Bブロック決勝

Bブロック決勝戦

黒崎アイ vs ロジャー・ゴロフキン


【3:57】


試合開始1分経過


「オイオイ、その程度かァ、ナンバー4の小娘がよおッ!」


スキンヘッドを撫でながらロジャーが馬鹿にしたように聞いてくる。


ここまで、攻撃らしい攻撃をロジャーはしていない。

アイの肘を主体としたヒットアンドアウェイの攻撃を敢えて受けていた。


性別差と体格差による判断だ。アイの身長161センチに対してロジャーの身長は188センチ。体重差はおよそ2倍に及んでいる。ボクシングなどの階級の壁があれば、絶対に実現しないカード。


「…気にいらねーなあ。その余裕ぶった顔がよォ。切り札があるなら、早めに出した方がいいぜぇ?」


そう、アイは微笑みを浮かべたままだ。


「ご不快ですか?ですが、それはわたくしも同じことです。あなた様のような粗野で下品な方に触れるのもおぞましいのですから」


「ああッ!?」


アイの言葉にロジャーが沸騰した。


「ですから『わたくし』はここまでとさせて頂きます。選手交代です」


「あ?何言ってんだ、てめぇは。頭オカシイ―――」


話すのをやめて、ロジャーが迎撃態勢をとった。

アイの瞳が赤くなったからだ。


刹那―――


ザシュッ!


空間を飛び越えるようなスピードのアイの貫き手一閃。


ロジャーの頬が切り裂かれた。


「ヒャハッ!やればできんじゃねーか」


嬉しそうにそう言って、ロジャーは血を舐めとった。


ゴオッ!とロジャーの拳が唸る。


上体を逸らして避けるアイ。


「オラオラオラァッ!!」


剛腕を繰り出し続けるロジャー。

だが力任せではない。小さく、速く、そして重い。


そんな連打もアイには当たらない。華麗に避けられていく。


しかし、コンビネーションはロジャーの布石。


ドッ!


重心を低くした弾丸のようなタックル。


ロジャーが身につけているのは総合格闘技。タックルしてテイクダウンをとれば、あとはパウンドで痛めつけることができる。そうなれば体重差により逆転の芽はない。


(…は?)


ロジャーは目を疑った。


目の前にいた対戦相手が消えたのだから。


ザシュッ!ザシュッ!


「うおッ!?」


直後に鋭利な何かで切られたような音と痛みがロジャーの背後で発生。


睨みながら振り向くと、消えた相手が立っていた。


「カッ…」


「ああ?」


「カカカッ!オイオイ、その程度か?ナンバー5のお坊ちゃんよお。随分と失望させてくれんじゃねーか!カッカカッ!」


ロジャーの挑発の意趣返し。


アイ、いやレンの歪んだ笑み。見下した目。

全てがロジャーを苛立たせた。


「ハッ!こっちが本性かよッ。面白え!」


「面白くねーよ。傷跡で気付いてねーのか、マヌケが。落第なんだよ、テメーは」


ロジャーの背中には大きく『×』が刻まれていた。


憤怒がロジャーを満たしていく。


(ぶっ殺す!!俺の能力でよお!)


ロジャーの瞳の色が変わった。


「本領発揮ってか?ハゲ。じゃあ…行くぜ」


セリフを置き去りにするスピードでレンが迫る!


(小娘が!死ね!!)


殺意とともにロジャーは右手を開いてレンに向けた。


ゴオオオオッッ!!


放たれたのは巨大な炎。


【パイロキネシス】


それがロジャーの能力。だが―――


「カカカッ!」


炎が発射される直前に、レンは跳躍していた。

体操選手の着地前のように、身体を捻りながらロジャーに肉薄する。


ズプッ


頸動脈を狙った手刀は、ロジャーの腕でガードされた。腕から舞う鮮血。


「カカカッ!」


「ハッハハハッ!!」


そこからは死闘だった。


レンの攻撃は当たるが、ロジャーの攻撃は当たらない。【心を読む】能力によって、どんな攻撃でもレンは察知できる。だがロジャーの攻撃も緩くはない。一撃の重さは圧倒的にロジャーが上だ。対してレンの耐久値は低い。一撃でも入れられれば、決着となる。


ロジャーも時間が経つごとに修正を行い、精度を増してきている。


ギリギリの攻防が続いていた。



「やーめた」


死闘の幕切れは、そんなレンの一言で訪れた。


「ああッ?ふざけるなよッ!勝負はついてねえ!!」


怒鳴るロジャー。


「これだから脳筋は…。ハゲ、時間を見てみろよ」


【0:27】


「チッ、だから何だってんだァ」


「頭わりーのな。このまま続けても2人とも死ぬっつてんだよ」


「…だから?」


「ハア…。もーいいや。オレの負けでよ。さ、認めるかい?認めねえと、お互い死に損だぜ?」


「……」


【0:08】


「…しょうがねえ。認めるよッ」


こうしてBブロック決勝戦は終了した。

ロジャーの優勝というカタチで。


去ろうとするレンにロジャーが言った。


「これで終わりだと思うなよ?この島にいる間にてめえはブチ殺す!首を洗って待っていろよ…!」


静かな声で返事が返ってきた。


「それはお断りいたします。わたくしが殺されたいと思う人は、唯一人ですので」


アイが微笑みを浮かべながら、そう言った。

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