第51話 サードミッション⑨Cブロック決勝
Cブロック決勝戦
ガルシア・ゴロフキン vs 月宮カルラ
「フッ まさか貴様と当たるとはな、ソフィアの娘よ。まぁ同じブロックになった時点で、この決勝は予想していたがな」
「最高の演出よね。アンタが死ぬには」
試合開始前、因縁深い2人は話していた。
余裕気なガルシアとは対照的に、カルラは今にも飛び掛かりそうである。
「しつこいヤツだ。返り討ちになったのを忘れたのか?」
「何年前の話をしているの?あたし、この瞬間だけはクソッたれの救済プログラムに感謝している。アンタを刑務所から出してくれたんだから」
ビーーーーー!
試合が始まった。
「殺してあげる」
そう言うと、カルラは殺気をまき散らしながらガルシアに近づいた。
ガルシアは笑みを浮かべながら、後ろに下がる。
だが、すぐに金網フェンス間際に追い込まれた。
ドガシャアァ!!
凄まじい金属音。
カルラから放たれた後ろ回し蹴りが金網に激突。
頑丈な金網が20センチもひしゃげた。
「ほう…」
避けたガルシアが感嘆の声をあげる。
2年前に闘った時とは別人のような威力だ。
「フッ!」
喉を狙ったカルラの平拳(ひらけん)。
ミシミシッ!という音とともにガルシアの腕でガードされた。
横にステップし、距離を取るガルシア。
「素晴らしい攻撃だ。威力、タイミングともに申し分無い。タイセイと比べても遜色がないほどだ」
「パパの名を出すなッ!パパはあたしよりもずっと強かった!!」
「だが俺に殺された。だろ?」
「だから今度はあたしがアンタを殺す…!」
「いいや、無理だな。その程度では、とても」
その瞬間、ガルシアの瞳が赤くなる。
「!」
カルラの警戒心が一気に上がった。
(やっぱり能力を持っていたか。前回闘った時も、このミッションの試合でも、この糞野郎は能力を見せていない。ここからが本番ね…)
「…どうした?殺すのだろう、俺を」
そう言いながらガルシアが不用意に近づいてくる。
そのままカルラの制空圏内に入った。
「破ッ!!」
ゴオッ!と雷のような上段回し蹴りが唸りをあげる!
だが―――
「ッ??」
蹴りはガルシアの顔面15センチのところで止まっていた。
カルラが力を加えても微動だにしない。
ドンッッ!!
吹っ飛ばされたのはカルラだった。
5メートルほど地面と平行に飛ばされ、ガシャッ!と金網に身体が食い込んだ。
「がはッ!」
カルラの口から血が流れる。
ダメージは大きい。自動車に衝突されたかのような攻撃だった。
だがダウンせず―――
気力は1ミリも衰えていない。
「信じられんな。どんな鍛え方をしている?」
ガルシアの言葉をカルラは睨みつけることで返事をした。
(打撃、じゃない。あたしが見逃すわけがない。こいつは動いていなかった。ピンポイントというよりも、身体全体に衝撃があった。まるで衝撃波のように。…衝撃波――)
「…アンタの能力、分かっちゃった。衝撃波を撃つことができるのね。いや、念力と言った方がいいかしら」
「ほぼ正解だ。正確には【サイコキネシス】だがな」
「……。フゥ、反則よね、こんなの。普通の人間が勝てる訳無いじゃない」
「反則ではないさ。この能力は神からの恩寵だ」
「…そうね、殺し合いにルールは無い。だから、あたしも反則を使わせてもらう」
ギンッ
カルラ、能力を開放―――
「くふ。クックック。アハハハハッ!」
彼女は狂ったように笑い出した。
「アッハッハッハァー-!!」
ドンッッ!
異常な跳躍力で舞う。
ボッ!と空気を切り裂きながら踵落としを繰り出す。
が、直前で見えない壁に阻まれる。その直後―――
ガシイィッ!!
カルラの肘撃ち落としが決まったかに見えた。
しかし、ガルシアによる『素手の』ガードにより不発。
「アッハ!【サイコキネシス】なんてカッコイイ能力持っているけど、自動で発動しているわけじゃあないみたいねぇ!アハハハハハッ!!」
カルラ変貌。力もスピードも増している。
【脳内麻薬生成】
カルラの能力であり、アドレナリンやエンドルフィンを自在にコントロール。能力発動中は興奮状態となり、火事場の馬鹿力を発揮できる。
「調子に乗るなよ」
ガルシアの衝撃波による攻撃。
見えない―――
が、カルラは横に跳び、躱した。
「何ッ!?」
「アハハッ!ざ~んねん」
躱したのは能力のおかげではない。
カルラに元々備わっていた野生の勘によるもの。
「ああッ!楽しい!バトルはこれだから、やめられないッ!!」
陶酔したようにカルラは舞った―――
戦況は互角。いや、ややカルラが押している。ガルシアのガードが間に合わなくなってきている。人外の決戦にギャラリーは唖然としながら息を飲むだけ。
残り時間1分を切った。
(もうちょっと!パパ、見ててね)
必殺の正拳突きを出そうとした瞬間だった。
ガクンと電池が切れた玩具のようにカルラの動きが止まった。いや、止められた。
(動けない―――!)
ドンッッ!!
衝撃波が襲う!
再びカルラは金網まで吹っ飛ばされた。
「終わったな」
相手の動きを止めるのはエネルギー消費が大きい。
ガルシアの奥の手の一つだ。
だが―――
「…何故立てる?」
奇しくも、一条がリョウタに言ったのと同じセリフだった。
カルラは脳内でエンドルフィンを生成し、痛みを消していた。
だがそれはリョウタと違い、ダメージ自体を無くしたものではない。
「アンタを…殺すためよ」
言葉とは裏腹に、カルラはリョウタの言葉を思い出していた。
『でも俺はカルラには死んでほしくないんだ。絶対に。生き残るって約束してくれないか?』
(あの時、あたしはなんて答えたっけ…?…そうだ、約束した。生き残るって、リョウタに。ああ、本当に嫌になるわね。こんな土壇場にならないと自分の気持ちに気付かないなんて)
ガルシアを殺すためなら死んでもいいと思っていた。
だが今は―――
その時
(―――ッ!上!?)
咄嗟に両腕で頭をガードするカルラ。
ドンッッ!!
真上から衝撃波が襲ってきた。
「あっ…」
薄れゆく意識の中でカルラは思う。
(ごめん、パパ。死んでないよね?リョウタ…)
こうして、サードミッションは全試合が終了した。
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