第49話 サードミッション⑦決勝戦

サバイバーの誰もが思いもしなかった決勝戦のカード。


1位 vs 最下位


リョウタ自身もそうだ。


もしタイムマシンがあって、デスゲーム開始直後の自分にこの展開を話しても、信じてもらえないに違いない。


Aブロックのリングの中でリョウタと一条は向かい合った。


「…試合の前に聞いておきたいことがある」


誰にも関心を持たなかった一条が、そんな発言をした。


「お前の父親は城戸ヨシヒロさんか?」


「!!」


城戸ヨシヒロ。


リョウタの実父だ。通り魔を逮捕しようとして殉職した警察官。リョウタの道標となっている存在。


「父さんを知っているのか?」


「…やはりか。どこか面影があるし、ヨシヒロさんから息子がいることは聞いていた。俺はヨシヒロさんの元部下だ」


「父さんの…。どうして今頃になってそんな話を?」


「…確証が無かった。こんな場所にいるなんて思いもしなかったしな」


ビーーーーー!


その時、試合開始の合図が鳴った。


「…恩人の息子相手だが、手加減するつもりはない」


そう言って一条はファイティングポーズをとった。

左手を前にしたオーソドックススタイル。その構えは堂に入っていた。


ナンバー1の元刑事。セカンドミッションでリョウタは一条の凄さを嫌になるほど思い知っている。だが対峙して初めて分かるものもある。


(これが一条のプレッシャーか…!)


これまでの試合でリョウタは相手を観察し、付け入る隙を探ってきた。一条相手でも同様に観察を続ける。だが隙など無い。微塵も。


フットワークを使い、一条が飛び込んできた。


バシィ!!


「ぐあッ!」


一条の右脚のローキックが炸裂。

リョウタの左脚の外側にビリビリッ!とした痛みが走る。


バチィッ!!


次の瞬間、左脚のローキックがリョウタの左脚の内側を襲う。

激痛のインロー。電光石火の連撃ローキック。


「~~~~~ッッ!!」


たまらず距離を取るリョウタ。


(なんて蹴りだ!!威力もそうだが、予備動作がほとんど無いッ!)


シャオも須藤ケンジも強敵だった。だが2人ともに格闘技経験者ではなかった。

しかし一条は―――


(キックボクシングか。呑まれるな!自分から攻撃するんだ!どの道、今の体力で5分間闘うことは出来ない。短期決戦だッ!)


リョウタは右拳を脇下で構えた。利き腕による正拳突き。最も信頼する武器による一撃に賭けるしかない。だが、いきなり出しても当たるとは思えない。遠い間合いなら一条はまた蹴りで来るだろう。そこを狙う。


ドオッッ!!


リョウタの予想通り、蹴り。

だが軌道が違う。右脚によるミドルキック。


なんとかガードしたリョウタ。

ミシミシと左腕が悲鳴を上げている。


(今だ!)


ドン!と地面を蹴り、正拳追い突きを繰り出す。

ジャストタイミング。一条の顔面に拳が肉薄する―――


グルン


「な―――…!?」


インパクトの衝撃がまるで無い。


一条は首をひねって正拳の衝撃を逃がしていた。


スリッピングアウェー


ボクシングなどで見られる超高等技術。


ドッドドッッ!!


ワンツースリーのコンビネーションがリョウタにクリーンヒットした。

顔面への左ジャブ・右ストレート、ダメ押しの左ボディフック。

攻撃の継ぎ目が無く、非の付け所がない流水のような動きだった。


膝をつき、ダウンするリョウタ。


(強い!やはり一条は―――ハッ?)


ブオンッ!と空気を切り裂き、一条の蹴りがリョウタの視界に近づいてくる。


「うおッ!?」


ギリギリで避けることができた。


(あの体勢であの蹴りを顔に撃ち込まれていたら…!死ぬぞ)


その思いとともにリョウタは我に返った。


(馬鹿かッ!何をぬるいことを!これは試合じゃない。喧嘩であり殺し合いだ!カルラが言っていたじゃないか)


『そう、覚悟。どんな手段を使ってでも相手を倒すという覚悟。喧嘩に、殺し合いにルールなんて無い』


「オ!アアアァァ!!」


リョウタの咆哮がビリビリと空気を揺らした。


立ち上がり、距離を詰める。


シュドドドドドッ!!


正拳 連撃


一条 ガード


鉄壁の守りだ。有効打が入らないが、リョウタの本命は別。


足を真上に蹴り上げる。

狙いは金的。


ガシッ!


だがその蹴りは一条の左手で止められてしまう。そして―――


ズギャァ!!


一条のアッパーカット。リョウタの顔が跳ね上がった。


ドオッと大の字でダウン。ピクリともしないリョウタ。


誰が見ても決着の一撃だった。


(――――――……。…あれ。前にもこんなことがあったような…。いつだっけ…?)


ままならない思考の中、記憶を探る。


(たしか夜で…。場所は…?ああ、そうだ。駐車場だった…。…思い出した!

そこで俺はカルラに―――)


「ぐ、おおおッ…!」


気絶寸前の身体を奮い立たせる。

痙攣する足と腕で、それでもリョウタは立とうとした。


一条の切れ長の目が驚きに染まった。

手応えは十分だった。立てる訳がない!

攻撃することも忘れる光景だった。


「ゼェ…ゼェ。立て…!あああッッ!!」


それでもリョウタは立ち上がった。脚を震わせながらも。


「…馬鹿な。何故立てる!?」


「ハアハア…。さあね。でも、立っちまった…。まだ、終わりじゃない」


あるいはあのまま寝ていた方がよかったかもしれない。


満身創痍。背水の陣。絶体絶命。


彼我の戦力差は誰が見ても明らかだ。


これは決別だ。あの駐車場で無力だった自分との。

だからリョウタは立ち上がった。


「来いよ、一条」


リョウタはもう動けない。脚を踏み出すことができない。押せば倒れる状態だ。


残っている余力は一撃分。


「…ああ」


一条の左ストレートが放たれた―――


決勝戦でリョウタはそれまでの試合を振り返っていた。

どうやって相手を倒してきたかを。


だが違った。


一条攻略のヒントは自分ではなく、対戦相手が持っていた。


ドガガッッ!!!


「城戸、お前…!」


相打ち!


一条の左ストレートは見事に決まったが、彼の左側頭部にはリョウタの右拳がクロスカウンターで撃ち込まれていた。


「ハハッ」


血に染まった顔でリョウタは笑った。


そのまま白目を剝き、リングに昏倒する。


数秒してモニターに映し出された。


【3:12】


【優勝者:ナンバー1】


そして決着のファンファーレが降り注いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る