第48話 サードミッション⑥覚醒と代償

大きな歓声が倒れたままのリョウタに投げかけられている。


「城戸ちゃん、めっちゃ強いじゃん!!」


「すげえッ!あそこから逆転するかよ!?」


「ナンバー99!最下位だろ?信じられねー!」


だがリョウタは半分聞いていなかった。急速に引いていく痛みと、治っていく傷跡を驚きとともに見守っていた。煮えたぎった鉄のように熱い『何か』が体中を巡る感覚がある。


(…【自己治癒】が発動している!!)


能力の効果を感じられ、意識できるのは初めてだ。


(今ならコントロールできるのか?)


そう考えたリョウタは、身体を駆け巡っている熱い流れを左腕に集中するようにイメージしてみた。


(……!!)


すると、たちどころに左腕の骨折が完治した。


(コントロールできるッ!部分的に治癒を集中することも可能だ!)


能力覚醒―――


死線を潜り抜けたリョウタに与えられたギフトの誕生の瞬間。


内心で歓喜していると、運営の黒スーツに声を掛けられた。


「ナンバー99、早くリングから出てください」


「え?ああ…」


痛みはほとんど引いている。歩けないほどのダメージだったが立ち上がり、リングを出ようとした瞬間だった。


「―――…ッ?」


強烈な眩暈(めまい)がリョウタを襲った。


数秒間、頭を押さえ、やりすごすと回復した。


(…なんだったんだ?)


金網のリングを出る時、一条がこちらに来るのが見えた。次の試合は一条の準決勝だ。一条とすれ違った瞬間。


「…やるな」


(…!!)


リョウタの聞き間違いではない。あの一条がリョウタを認めたのだ。嬉しさを抑えられないリョウタだった。


「リョウタ、ここよ」


見れば、カルラが手を振っていた。


「カルラ、勝ったんだな」


「とーぜんじゃない。1分で終わったわ。アイツを倒すまで、負けるわけにはいかないの。…瞳が赤くなってる。能力をコントロールできるようになったの?」


「ああ、そうみたいだ。初めての感覚だよ。正直興奮している」


「一度感覚を掴めば、まず忘れることはないわ。でも今は能力をオフにした方がいい」


「何故?まだ全快してないけど…」


「いいから!あたしはガルシアの試合を見に行く。リョウタは一条の試合を見ときなさいよ」


「分かったよ」


そうしてリョウタは能力を解除した。瞳の色が赤から黒に戻る。


カルラはCブロックのリングの方に行ってしまった。


(さて、一条の試合を見るか。決勝で当たるだろうし、攻略法を見つけないとな)


「うッ?」


歩き出そうとしたリョウタに再び眩暈が襲う。しかも、先ほどのよりも強烈だ。視界はぼやけ、ぐるぐると回り、頭まで真っ白になる。咄嗟にしゃがみこんだ。呼吸も荒くなる。


(なんだこれ…?今まで経験したことが無いぞ…!)


追い打ちをかけるように、身体がだるく重い。高熱を出した時のような倦怠感。明らかに異常だ。だが、何が起きているかリョウタには分からない。


一条の試合を観戦する余裕もない。リョウタは座り込み、呼吸を整えながら身体の回復に専念せざるを得なかった。



2分後、カルラが戻ってきた。


瞬時にリョウタの異変に気付いた。顔色が真っ青だったからだ。


「…大丈夫?」


「あまり大丈夫じゃない。凄まじい疲労感だよ。まぁ殺し合いのような実戦を3つもしたんだ。疲れて当然だな」


「それもあるけど、一番の原因は能力よ」


カルラの発言に怪訝な顔をするリョウタ。彼女は続けた。


「能力を使うと、物凄くエネルギーを持っていかれるの。『異端者』なんて呼ばれているらしいけど、あたしたちは人間よ。人間を超える能力を持っていてもね。だから無闇に能力に頼るのは危険なの。使いすぎると自滅してしまうわ。最悪の場合、死ぬと思う」


「そう、だったのか…」


「ましてやリョウタは能力初心者だからね。あたしも初めて能力が発動したあとは寝込んだもん。でも、能力の使用回数や時間も訓練すれば伸ばすことができる。これから修行に追加しないとね」


「ああ、助かるよ。カルラ」


「だけど…。今日はもう能力は使わないで。どう見ても、限界に近いから」


その時、ファンファーレとともにAブロックのモニターが変わった。


【2:58】


【勝者:ナンバー1】


そしてリングからは無傷の一条が帰還してきた。


リョウタの想定通り、決勝の相手は一条だ。


「…能力無しで、一条に勝てると思うか?」


「能力があっても難しいでしょうね」


「はは、カルラらしい回答だな」


「慰めを言っても何にもならないでしょ。ギブアップも選択肢に入れなさい」


「……。カルラの決勝の相手はガルシアだよな?」


「…そうよ」


「ガルシア相手でもギブアップを選択肢に入れるのか?カルラは」


「バカなこと言わないで!ギブアップするくらいなら、死んだほうがマシよ」


「でも俺はカルラには死んでほしくないんだ。絶対に。生き残るって約束してくれないか?」


カルラはグリーンの瞳でリョウタを見つめ続けた。リョウタも見つめ返す。


「リョウタは強情よね。あたしってこんな性格だからさ。パパ以外でこんな風に接する人、初めてよ。変な人ね」


そう言ってカルラは微かな笑みを浮かべた。


「分かった。約束する」



15分の休憩時間が終わる。


リョウタの体調も少しはマシになった。だが、コンディションは依然として悪い。


サードミッション最終局面。


Aブロック:一条マコト vs 城戸リョウタ


Bブロック:黒崎アイ vs ロジャー・ゴロフキン


Cブロック:ガルシア・ゴロフキン vs 月宮カルラ


決勝戦が始まる―――

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