第47話 サードミッション⑤準決勝

2回戦終了


48人いたサバイバーも準決勝である3回戦に進めたのは12人。


サードミッションで既に10人ほどが死亡。制限時間オーバーで2人とも死亡したのが2組。それ以外は対戦相手に殺された。特に危険なのはゴロフキン兄弟。ガルシアとロジャーは対戦相手を殺害するか、再起不能にしている。この2人の試合はデスマッチの様相を呈していた。


準決勝に進出したサバイバーのランキングは総じて高い。


その中でリョウタの『ナンバー99』は、ひと際注目を集めていた。

最早、その実力を疑う者はいない。


そんな視線にカルラは満足そうだ。

そしてリョウタに顔を向けた。


「ダメージはどう?」


「ゴホッ、…頭のダメージはほとんど無くなった。首はまだ痛む。ようやく呼吸が元通りになってきたところだ」


「完璧にカウンターをぶち込まれていたものね。でも、やるしかないわ」


「分かっているさ。次の試合、一条と当たる可能性も高いけどな」


そう、残り2試合。当然のように一条は準決勝に駒を進めている。


リョウタは短い休憩時間を回復に専念した。



3回戦 準決勝開始


リョウタとカルラのタブレットが同時に鳴った。


「お互い第一試合ね。もうアドバイスできないわよ」


「ああ、観察と思考と行動、だろ?自分ひとりで何とかやってみるよ」


リョウタとカルラは拳を突き合わせた。



リングに入ったリョウタ。


まだ対戦相手はいない。その時、金網の外から甘い女の声がした。


「ケンジ君、優勝してレアアイテムをゲットしてねぇ」


豊満な肢体を惜しげも無く晒している如月クレアだった。


「任せてくださいよ!無敵なんで。俺様は」


リングインしてきたのは常にクレアと一緒にいる金髪の男だった。


須藤ケンジ。そのナンバーは13。


年齢は20過ぎ。身長が185センチはある。リョウタよりも10センチは高い。短髪を金色に染め、耳や鼻にいくつもピアスを入れている。禍々しいドクロがプリントされたロングTシャツにダメージジーンズを履いている。どう見てもヤンキーだ。


観察する前にリョウタの本能が告げた。


(―――!こいつ、場慣れしている!)


ニタニタと須藤がリョウタを眺め、言った。


「おいオッサン、負けを認めるならOKしてやってもいいぜ?土下座して俺様の気分を良くしたら、だがなあ~」


「…断る」


「んじゃあボコられるしかねーな!サラリーマンごときが粋がるなよ。言っとくが、今まで喧嘩で負けたことねぇから。もうギブアップしても認めねーぜ」


ハッタリでは無いことは肌感覚でリョウタにも分かった。


ビーーーー!


ブザー音が鳴る。


同時に須藤の瞳が赤く染まった。


(こいつも異端者!どうする?先制か様子見か…。悩んでいても仕方ない。先制だッ!)


距離を詰めるリョウタ。一方の須藤は動いていない。しかもポケットに両手を突っ込んだままだ。


間合いに入ったリョウタは左正拳突きを繰り出す。


ゴガッッ!


須藤の鼻先にまともに入った。手ごたえも十分。


「な……?」


リョウタは信じられなかった。


須藤は何事も無いように平然と立っている。ダメージを受けた様子もない。


「へえ。外見からは想像できない威力じゃん。俺には関係ねーけどよ」


ドガッ!


「ぐッ!」


須藤の回し蹴りが炸裂。

なんとか腕のガードが間に合った。


(雑な蹴りだけど、重い!!)


空手やキックボクシングのような技術は無い。

だが須藤の恵まれた体格を存分に活かした蹴りだ。


「バァーカがよ!」


ザシュ!


「ぐああァ!!」


蹴りは布石だった。目潰しを入れるための。虎爪(こそう)にした須藤の左指がリョウタの右目を抉ったのだ。その目からは血が滴った。


「ハハハッ!もう勝負ついたんじゃね?ここでやめる気はねーけどよォ」


事実、この展開は須藤ケンジの必勝パターンの一つだ。彼は数えきれないくらい喧嘩を繰り返してきたが、負けたことは一度もない。喧嘩無敗の男。


リョウタの利き目が潰された。遠近感が無い。だが相手は目の前にいる。攻撃が当たる距離に!


「ハァッ!」


リョウタ渾身の右正拳突き。


ドボオッ!!という音とともに急所である鳩尾に突き刺さった。


(やった!)


喜びも束の間、須藤の顔を見てリョウタに戦慄が走る。苦痛に歪むどころか、ニヤニヤと笑みを浮かべていたのだから。


「効かねーなぁ!俺様に打撃は効かねえよッ!」


言いながら再び虎爪で左目を狙ってきた。


必死に躱すリョウタ。左目を失えば、もう何も出来なくなる。ガードを上げ、顔を中心に守る構えに変える。


(くそ!打撃が効かないだとッ!?能力で間違いない!どうする?どうすれば勝てる!?)


【衝撃吸収】


それが須藤ケンジの能力。


異常に柔軟な皮膚と筋肉が打撃を無効化する能力だ。金属バットで胴体を殴打されても、ほとんどダメージを与えることができない特殊体質。喧嘩無敗の歴史は、その能力によるものだ。


【4:27】


そこからは一方的な展開が続いた。


須藤は攻撃箇所を変え、ボディブローや蹴りで執拗にリョウタの腹部を狙ってくる。だが時折目を狙う素振りをしては横顔にパンチを撃ち込んでくる。リョウタも反撃するが、能力によって目立ったダメージを与えられない。


能力もあるが、実戦経験に天と地ほどの差がある―――


【1:03】


「おっ、もうこんな時間かよ…。そろそろ終わらせるか」


その頃には、リョウタは立つのがやっとの状態だった。


顔は腫れ、右目は失明した可能性が高い。全身に深く刻まれたダメージ。腕が上がらない。打撲ではなく上腕骨にヒビが入っていた。肋骨は左右ともに何本か折れている。吐血もしている。内臓を損傷しているかもしれない。まさに半殺しの憂き目にあっていた。


「ぐッ。ハァハァ…。クソッ…!」


「おめえ、根性だけは大したモンだわ。ま、俺様の方が強かったと思って諦めな。…死ねやッ!」


死に際の集中力。


アドレナリンが大量に分泌されたリョウタは、迫りくるパンチをスローモーションのように見ていた。これが腹部に突き刺されば、骨折しているアバラを粉砕し致命的なダメージを与えるだろう。


ふと、場違いな記憶が蘇った。


『…絶対に、死なないで、くださいね』


レナの最期の一言が。


(死ねるか!最後まで足掻けッ!!)


ドキュッ!!


須藤渾身の一撃を、クロスした腕でガード!


「なんだとッ!?」


今度は須藤が驚く番。


リョウタの左の瞳が赤く燃え上がっていた。


急速に痛みが引いていく。その中でリョウタは思い出していた。彼女の言葉を。


『空手は一撃必殺。でもそれは的確に急所を狙わないと出来ない。人体の急所は正中線にあるの。目・人中・顎・喉・鳩尾・金的が代表的ね』


リョウタはガードしたまま、サッカーボールを蹴る要領で脚を真上に振り上げた。


ゴチュッ!


嫌な音とともに須藤の金的を蹴り上げる。


「ぐおッ!てめえ!ふざけやがってッ」


ダメージはあるが能力で軽減されている。

なにより須藤は喧嘩で金的には慣れていた。


【0:38】


(ここだッ!!)


リョウタの右目が再生され、開かれた。


カッ


「~~~~~~ッッ!?」


言葉にならない激痛が須藤を襲う!


撃ち込まれた箇所は唇と鼻の間にあるへこんだ部分、人中。


人体急所を中指の第二関節だけを曲げた中指一本拳での局所攻撃。


【衝撃吸収】でも吸収しきれない。そして―――


ガコッ!


決着の一撃だった。


リョウタの左正拳突きが須藤の顎先を撃ち抜いたのだ。その部分の衝撃が緩和されようが、脳が大きく揺さぶられ意識を刈り取った。


須藤はゆっくりと前のめりに倒れていった。


リョウタも倒れこむ。


全ての力を出し切った死闘だった。


そして勝利を告げるファンファーレが鳴り響く。


【0:26】


【勝者:ナンバー99】


倒れこみ、荒い息をしているリョウタは、大きな歓声に包まれるのだった。

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