第26話 セカンドミッション⑥這う者たち

【00:43:25】


這うような姿勢で砂浜に棒を刺しこみ、地雷を探知しながら進み始めてから約10分が経過した。


地雷原は全長が約300メートル。


地雷原を進み始める前、一条が提案した。


「…地雷が埋まっている場所の上に、棒で丸印をつけろ。地雷の目印だ。他のヤツが誤爆することを防ぐことができる」


何の異論も無かった。


リョウタはこの10分で50メートルしか進めなかった。

焦りが募ってはいるが、注意を怠れば死ぬ。


棒を刺しては抜く。ひたすらにその行為を続けていく。時折、棒の先端に「カツッ」とした感触がある。地雷だ。その上の砂浜に直径50センチほどの丸印をつける。その場所を避けて先に進む。それの繰り返しだ。


命を賭けた究極の単純作業。


チームメンバーはそれぞれが5メートル以上の距離を置きながら、横一列で進んでいる。もし地雷が爆発しても、他のメンバーに被害が及ばないようにするためだ。これも一条の提案だった。地雷の威力から見て、5メートルの距離があれば負傷を免れる。地雷の射程距離というわけだ。


彼らを上から見ると、左から順に、40代女性のナンバー88、ナンバー63の飯田、一条マコト、ナンバー30の水野タクミ、月宮カルラ、リョウタ、50代男性のナンバー70という配置。


地雷の炸裂により気絶していたナンバー42の女性は、先ほど死亡が確認された。失血死だった。誰もがすぐに助けに近寄ることもできない状況だった。


砂浜を進んでいるペースは各自で違うが、先に進むのが速いのはやはり一条。既に100メートルは進んでいる。意外なことに、水野の進みも速い。一条の右後ろ、5メートルほどしか離れていない。逆に一番遅いのはナンバー70だ。まだ30メートルしか進めていない。



【00:33:00】


更に10分が経過。


リョウタはようやく100メートルを越えた。


しかし、このペースでは間に合わない。地雷原は残り200メートル。今のペースのままだと、制限時間内に進めるのは150メートル。50メートル足りない。


しかも砂浜の地雷原を抜けた先がゴールではない。砂浜の先には道路が500メートルほど続いているのだ。そこに市街地の入口、すなわちゴールが見える。


(できれば、あと20分で地雷原を越えないと不味い…!そうするためには、ペースを今の倍に上げないと間に合わない。だけど、そうなると今までのように確実に地雷を見つけられないだろう…。…どうする!?)


これ以上、決断を先送りすれば間に合わなくなる。リョウタがペースを上げようとした時だった。後ろから「うわあああ!!」という叫び声が聞こえたのは。


振り返ると、ナンバー70の男性が震えながら薄毛を搔きむしっているのが見えた。彼はまだ40メートル地点。この10分でほとんど前に進めていない。


誰に言っているのか分からないまま、彼は叫び続けた。明らかに恐慌状態になっている。


「もうダメだ!このままじゃ間に合わないっ!ハァ、ハァ…!も、もう、こんな地獄には耐えられないッ!!」


叫び終わった後、彼はリュックを地面に投げ捨てる。そして進行方向から右へと這いずり始めた。彼の位置は砂浜の一番右端。10メートルも進めば平原に変わる境界線近くにいた。地雷原を回避して平原に向かおうとしている。地雷の探知もしないまま。


奇跡的に地雷の上を通過せず、彼は地雷原を突破した。平原に辿り着くと立ち上がり、大声を上げながら全速力で駆け出す。


「うわ、うわああああああああああ!!」


その数秒後に彼の命は呆気なく終わりを告げた。


バシュッ!という音とともに足ではなく、首が吹き飛んだ。


彼が投げ捨てたタブレットには【逸脱行為を確認】の文字が浮かんでいた。


(くっ…!)


このミッションの逸脱行為は『指定されたルートから外れる』こと。ファーストミッションに続いて、セカンドミッションでもルールを逸脱した者の最期をリョウタは見てしまった。やりきれない気持ちになる。


ふと、反対側の後ろを見ると、思いもしない人物の姿があった。


「月宮さん…!?」


リョウタの左後方にカルラがいた。だが、40メートル近くも離れている。


自分のことで精一杯だったリョウタは気付かなかったが、ナンバー70の男性を除けば、チームメンバーの中でカルラが一番遅かった。カルラは、戦闘力は非常に高いが、こういった細かい作業は不得手だった。


汗を拭いながら、カルラは懸命に棒を刺しながら前に進んでいる。


だが絶望的に速度が遅い。


(このままじゃ、絶対に月宮さんは…。間に合わない―――!)


リョウタがそう思った時、前方から声がした。


「おーい、ナンバー3の君!僕が通過した場所を歩いてきな。そのままじゃ絶対に間に合わないよ!」


爽やかな笑顔で、水野がカルラに呼びかけていた。蛇蝎(だかつ)が如く、カルラに嫌われていたというのに。


その呼びかけにカルラは死ぬほど嫌そうな顔をした。


「うえっ……」


二日酔いの時のような声まで出している。


カルラは数十秒間黙考したが、このままでは間に合わないというのはカルラ自身が一番分かっている。渋々ながらも左隣の水野の通り道へと方向を変える。


すぐに通り道に辿り着いたカルラは立ち上がり、水野の跡を辿って砂浜をサクサクと歩いていく。


(そうか!俺も同じように一条や水野の通り道を行けば、まだ間に合う!)


ペースを倍に上げるより、遥かに安全で時間短縮にもなる。リョウタに生き残る希望が見えた。左に向きを変え、地雷を探知しながら進み始めた。


カルラは不貞腐れた顔で歩み続ける。


水野まで残り7メートルまで近づいた時だった。


カチリ―――


右足を踏み出した先から、音が聞こえた。


「!……え?」


あのカルラの顔が驚愕に染まっている。


そこに目印である丸は描かれていなかった。

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