第25話 セカンドミッション⑤クレイモア
ドオォン!!
突然、足元から爆発音が鳴る。
(え!?)
その音の方向にリョウタは顔を向けた。
進行方向の右斜め前、距離およそ8メートル。
「アッ!!がッッ!ぐうゥゥゥ~~~……!!」
誰かが地面でのたうち回っている。
前髪が長い20歳ほどの男、ナンバー63だった。
彼の左足は膝から下が無くなり、血が噴き出している。
「ちょっと!?大丈夫なの?」
一番近くにいた女性が声をかけ、駆け寄る。
地味な出で立ちの30代女性、ナンバー42だ。
ドォォン!!
その瞬間、爆発音とともに彼女の右足が吹き飛ぶ。
「ギャアアああああぁぁ!?」
爆発に巻き込まれ、彼女は砂浜に崩れ落ちていった。
(な……!なにが…!?)
リョウタは茫然と立ち尽くすしかない。
「ひ、ひいいいイイイィィィ!!」
髪の毛がだいぶ後退している50代男性、ナンバー70がパニックを起こし、爆発の反対側へ走り出そうとした瞬間だった。
「動くな!!」
リョウタは一条の大声を初めて耳にした。
物凄い迫力であり、ナンバー70もビクッとして立ち止まる。
ナンバー63の呻き声だけが砂浜を揺らしている。
「…地雷だ。この砂浜は地雷原になっている」
「ッ!!」
一同の顔色が変わる。
地雷原―――!!
ゴクリと誰かが唾を飲む音が聞こえる。
ハアハアという荒い息遣いも。
リョウタも呼吸を早めながら、目の前の砂浜を凝視した。だが、いくら目を凝らしてみても、どこに地雷が埋まっているかは全く分からない。
「…おそらく、クレイモアと呼ばれる地雷だ。一定の重量もしくは衝撃を受けると爆発する圧力式対人地雷。下手に動き回ると吹き飛ぶ」
動けない。一歩さえ。
一行はまだ、砂浜に入ったばかりだ。
砂浜は少なく見積もっても、あと300メートルは続いている。
【00:56:59】
まだタイムリミットまでは1時間ほどあるが、余裕は完全に失われた。
砂浜の先は道路になっており、そこからゴールまでの距離は500メートルほど。つまり、砂浜の距離と合わせても、行程は残り1キロを切っている。普段であれば、15分もあればゴールへ到着できるであろう。
地雷さえ無ければ―――。
「ガッ!あううううッッ!」
リョウタが獣のような声の方向を見ると、ナンバー63が匍匐前進でゴールの方向に向かっていた。砂浜に彼の左足の血痕が残されていく。彼は今、どんな状況なのか理解していない。無我夢中の行動だった。
ナンバー42の女性は爆発に巻き込まれてからピクリともしていない。どうやら気絶しているようだ。右足からは大量の血が流れ続けている。
ナンバー63が3メートルほど進んだところで、微かな音が聞こえてきた。
カチリ
一条が叫ぶ。
「お前!そこから動く―――」
ドオオォン!!
ナンバー63の胴体の真上で起こる爆発。
彼は十数秒ビクリビクリと痙攣していたが、やがて力を失った。
「…クソッ」
そう一条は呟いた。
(……ッ!何か、突破する方法は無いのか!?)
リョウタは頭をフル回転させる。
このまま動かずにいたら、カウントダウン終了を迎えてしまう。時間切れになったらどうなるか、鈴木の具体的な説明は無かったが、間違いなく首輪を起爆されるだろう。この2日の経験上、それは断言できる。
しかし打開策が思い浮かばない。地雷原を突破するシミュレーションなんて、戦場でもなければしたことがある訳がない。リョウタは一条を見て、言った。
「一条さん!どうやったらここを…。何か方法は無いんですか!?」
一条は押し黙っている。流石の彼でも駄目なのか――。リョウタがそう思った時、一条はポツリと呟いた。
「…ある」
(え?)
リョウタも他のサバイバーも驚いて声が出ない。
「ある、んですか…?」
リョウタはようやく声を振り絞った。
「…ああ。クレイモアは、一定の重量もしくは衝撃を受けると爆発する。…さっき説明したな?だが対人地雷として設計されているため、『一定の重量』に満たない場合、爆発はしない」
「…つまり?どういうことですか?」
リョウタの質問に答えず、一条はリュックを肩から降ろし、中身を探る。そして一本の棒を取り出した。組み立て式テントのパーツだった。
「…こういうことだ」
そう言うと這いつくばり、棒を砂の地面に突き刺した。棒を抜くと30センチほど前に再び突き刺す。その行為を繰り返し、3メートルほど先に進んだ。そこから再度、棒を突き刺した時、棒はそれまでより地面に飲み込まれなかった。僅(わず)かではあるが、金属物とぶつかる音がリョウタの耳に入る。
一条は告げた。
「…ここに地雷が埋まっている。これが地雷の探知方法だ」
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