第19話 凄惨なる、死
「鈴木が…死んでいる?」
誰に向けたのか分からないまま、リョウタは声を絞り出す。
「…まだヤツだと確定したわけじゃない。検死と人物の確認も兼ねて矢野さんに来てもらった」
一条はあくまでも冷静だ。
(刑事だから、慣れているのか?)
リョウタの予想は実は当たっている。
一条は矢野とともに死体へと歩いていく。
ベッドでうつ伏せになっている死体をひっくり返した。
「!!!——————ッッ!!」
「リョウ兄さーん、何がどうなっているんですかー?」
突然の声。レナだった。小屋に入ろうとしている。
「来るなッ!!」
反射的に出されたリョウタの大声に、レナは驚き立ち止まる。
「来ちゃ、ダメだ…」
小屋にいた名前も知らない男が外に出て、吐き始める。
死体は凄惨を極めていた。
頭部は肥大化し、頭蓋が割れ、脳みそが溢れ出している。顔の原型は無くなっていた。全体的に腫れあがり、顔色は紫色。ところどころから骨が剥き出し、鼻は潰れている。何よりも、両目ともに眼球が無くなっていた。木の洞(うろ)のようにぽっかりした2つの穴からは、血の涙が流れている。
「どいてくれ」
そう言うと、一条はタブレットを手に取った。
パシャ
カメラモードにして死体を撮影する。角度を変え何枚か撮影した。次に小屋の内部に向けてシャッターを数枚切る。カメラを撮り終わると矢野に目を向けた。
流石に矢野は顔をしかめたが、死体の検分を進めていった。
一条とともにスーツなどの服を剥ぎ取ると、肉体が露(あらわ)になる。身体に外傷は無い。だからこそ徹底的に破壊された顔面の異常さが際立つ。
矢野は検死を終えて話した。
「ここまで外傷が酷いとハッキリとは言えないが、脳挫傷が死因だろう。金属製の何か固い棒のようなモノで何度も殴打されている」
リョウタは疑問を持った。
「金属製のモノ?小屋にはそれらしいのは無いですし、我々も持ってないですよね?」
「工場の残骸だ。凶器になるモノはいくらでもある」
一条が答えた。そして続ける。
「そしてこの死体は鈴木ハジメということが確定した」
リョウタにはさっぱり分からない。
「どうして、そうだと?」
「左耳の下を見ろ。大きなホクロがあるだろう」
確かにホクロはある。それでもリョウタには分からない。その表情を見て一条は言葉を続けた。
「鈴木ハジメと全く同じ位置だ。人相や特徴を覚える癖があってな、仕事上」
一同は外に出た。
不敵な笑みを浮かべたままガルシアが聞いてくる。
「で?どうだった、元刑事さんよ」
「…鈴木ハジメが殺された」
驚愕する一同。
それもそのはずだ。彼は政府の代表であり、プログラムの進行役だった。彼亡き今、次のミッションがどうなるのかも予想がつかない。
「それで、この中の誰が殺ったんだ?」
笑みを変えずにガルシアは言う。晩御飯のおかずを聞くような口調だった。
ざわめきが辺りを包み始める。
ガルシアに質問したのは弟のロジャーだった。
「犯人は参加者だってぇ?なんでそう思ってんだよ、アニキ!」
「さぁな、ただの勘さ。だが他に誰がアイツを殺(や)る?動機があるのは俺ら以外にいねぇだろ」
説得力がある。リョウタも同意せざるを得なかった。
その後、一条により全員の人数が確認された。誰一人欠けていない。また身体検査とアリバイのヒアリングが行われたが、不審な人物を特定することはできなかった。
時刻は5:10
太陽が昇ってきたところで解散となった。あれからタブレットに何の指示も来ていない。こんな事件の後で今日のミッションが開催されるかも分からない。不安を押し殺すようにサバイバーたちはテントに戻って行った。
リョウタも様々な疑問に蓋をして再度寝袋に入る。とりあえず今起きていても、できることは何も無い。筋肉痛で歩くのも辛いのだ。少しでも回復しないといけない。ホームレス生活のおかげで、すぐに寝付くことができた。
ピピッピピッピピッピピッピピッ
タブレットのアラーム音で目を覚ました。
8:30
リョウタは起き上がり、身体の様子を確かめてみる。
(まだ痛みはあるが、さっきよりはマシになっている。歩くだけなら支障はなさそうだ)
テントから出ると、矢野たちは既に起きていた。正確には彼らはあれから寝られなかった。リョウタに自覚はないが、ホームレス生活のおかげで他者よりも危険な状況やサバイバルに耐性があるのだ。
しばし挨拶や雑談をしていると、道路の先からトラックがこちらに向かって来た。車の数は8台。迷彩柄した軍用のトラックに見える。
トラックはセカンドミッションの集合場所で停止する。
サバイバーたちも荷物をまとめ、その場所に集まり始めた。
8:55
頭上からバラバラバラバラ!という風切り音が響いてくる。
AH-64Dと呼称されるアパッチ型ヘリコプターが上空から近づいてきている。風を巻き起こしながら、地面に降り立った。
ヘリの扉が開き、誰かが出てくる。
「え?」
それは誰の声だっただろう。
リョウタであり、矢野であり、あるいは全員だったかもしれない。
笑顔の鈴木ハジメが、そこにいた。
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