第18話 エマージェンシー

大音量のサイレンが鳴り続けている。


「緊急事態!?」


リョウタは寝袋から這い出した。


「痛った…!!」


起き上がろうとすると、全身に痛みが走る。

筋肉が断末魔をあげ、体が異様なほど重い。


(筋肉痛がヤバい!今までで最大級だ)


寝る前から既に筋肉痛はあったが、その時とは比較にならない。

呻き声をあげながら動き、テントの外へ出る。


時刻は午前3:48。


辺り一帯からサイレンの音が聞こえる。

既に大勢のサバイバーが起きており、騒がしい声に満ちていた。

懐中電灯を持ちながら、誰もが混乱し不安な顔を浮かべている。


サイレンは1分ほど続き、唐突に止まった。


「ねぇ、緊急事態ってどうゆうこと!?」


ヤヨイだった。

いつもの明るさは一切なく、泣きそうな顔で震えている。


「…分からない」


全員の思いを矢野が代弁する。


リョウタはぐるりと見回し、周りの人々を確認した。


ヤヨイ、矢野、後藤、アイ、レナ。全員無事だ。

離れた場所にカルラの姿も見つけ、胸を撫でおろす。


タブレットからピロンという音。

メッセージが届いている。

タップすると、【全員 工場の裏手に集合のこと】と書かれてあった。



工場の裏手には簡素なプレハブ小屋があった。


(こんなものがあったなんて…。いったい何故、ここに移動させた?まさか…、ここでデスゲームを始めるつもりか?)


リョウタはそう思ったが、鈴木は朝の9時に集合と言っていた。

何よりも【緊急事態】の説明がつかない。


小屋の周りに他のサバイバーたちが集まってくる。

誰もが小屋を気にしているが、中に入ろうとする者はいない。

「また罠なのではないか?」という思いが全員にあり、足が動かないのだ。


「…俺が行こう」


誰もが息を飲み、発言者の方を見る。


一条マコトだった。


この状況でも一条の様子は変わらない。

無表情で無感情。常に冷静沈着。

考えが読めない人物だが、これほど頼りになる者はいない。

彼はランキングトップ、ナンバー1なのだから。


「流石だな。本職なことだけはある」


語りかけたのはガルシア・ゴロフキンだ。


「……」


一条から返答はない。


「おいおい無視するなよ、刑事さん。いや『元』か」


(刑事だって!?)


驚愕に染まるリョウタと一同。


何も言わず、一条はプレハブ小屋に入って行った。



5分ほど経過しただろうか。

誰もが事の推移を見守っている。


やがて一条が出てきた。


「罠は無い。だが死体がある。矢野さん、医者だったよな。来てほしい」


(死体だと?誰が死んだ?)


リョウタは周りを見回すが分からない。

生き残っているサバイバーは70人以上いるのだ。


一条と矢野が小屋に向かう。

サバイバーたちは大勢が立ち尽くしたままだ。だが数名が好奇心を抑えきれず2人に付いて行く。リョウタもその1人だ。無意識に動いていた。


小屋に入っても真っ暗闇で何も見えない。

だがリョウタは濃厚な血の匂いを感じ取った。

心臓の音がうるさい。


「明かりをつける」


一条の声とともに蛍光灯がついた。


(眩し―――)


夜中ずっと明かりがなかったため、目が慣れるのに時間がかかった。


小屋の中にはモノが殆どない。簡素なデスクとベッドくらいだ。

デスクにはノートパソコンがある。小屋の手前に壊れたドローンが転がっている。

そしてベッドには―――


「うわッ!!」


「ひ!?」


随行してきた他のサバイバーが悲鳴を上げる。


ベッドにはうつ伏せで人が横たわっていた。

大量の血を流し、頭が腫れている。


(…誰だ?)


4メートルほどの距離しかないのに、リョウタには誰か分からなかった。

体にも目を向けてみる。服装は濃紺のスーツに茶色の革靴。


(ッ!―――!!)


信じられなかった。


変わり果てた姿になっていたのは、鈴木ハジメだった。

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