第17話 初日終了
リョウタたち一行は場所を変えることにした。
レナがテントを設置したことを聞くと、矢野が「ではそっちで我々もテントを張ろう」と言いだしたからだ。ぞろぞろと歩いていく。
メンバーはリョウタ、矢野、後藤、ヤヨイ、レナ、アイの6人。
途中である人物が目に留まり、リョウタは立ち止まった。
少し悩んでから矢野たちに言う。
「すみません、すぐ戻るんで先に行っておいてください」
集団から離れ、その人物のもとへ向かい、前で立ち止まる。
「…なに?」
月宮カルラは気だるげに聞いてきた。
「あの、月宮さん。知り合いで同じ場所にテントを張ることになりまして。良かったらなんですけど、一緒にどうかなと。女性もいるので安心だと思うんですが」
そう言ってリョウタは一行を指さす。
カルラは矢野たちを見たが、やがて「フゥ」という息をつきリョウタを見つめなおす。
「アンタってお節介焼きなの?それともバカなだけ?」
「…どういう意味ですか?」
毒舌なのは分かっていたが、この返事は予想してなかった。
「分からないの?なら教えてあげる。あたしに仲間なんて必要ない。群れないと何もできない弱者じゃないの。アンタは見たでしょう?あたしの強さを」
リョウタにオヤジ狩りされたときの記憶が蘇る。
カルラは自身よりも体躯のいい男3人を全て一撃で倒していた。
その強さに疑いの余地はない。
「でもこの救済プログラムはデスゲームです。ミッションをクリアするためには、団結した方がいい。セカンドミッションは明日です。死ぬかもしれないんですよ!?」
「あたしは死なない。目的を果たすまでは絶対に!ねえ、なんであたしにそこまで構うの?アンタとは駐車場で会っただけじゃない」
「あそこで助けてくれたからですよ!死にそうだった俺を君は助けてくれた。だから君には死んでほしくないんだ!」
「何度も言っているけど、あれはアンタを助けたわけじゃ―――」
「君がどう思おうが、俺にとって助けてくれたことに変わりはない。そんなに変なことかな?恩人に恩を返すことが」
2人は強い目線でお互いを見る。
先に折れたのはカルラだった。
「…フー。見た目と違って強情なのね。でもあたしは1人がいい。気持ちだけ受け取っておくわ」
「…分かりました。じゃあ、これで」
去っていくリョウタ。
その姿を見ながら困惑した表情でカルラは呟く。
「なんなのよ…。アイツ」
一行のもとに戻ると、リョウタ以外のテントがすでに組み立てられていた。
リョウタも黙々と自分のテントを組み立てる。
それが終わるとやることがなくなった。
各自で話したり、タブレットを触ったりしながら時間が過ぎていく。
夕方近く、レナが言った。
「そろそろ食事にしませんかー?」
ヤヨイが瞬時に同意する。
「賛成ーー!レナちゃん、ナイスな提案!ウチ、もうお腹ペコペコだよぉ」
この2人は打ち解け合っている。気が合うのだろう。
確かに腹が減っている。この島に来てから何も食べていない。
最後に食事をしたのは12時間以上前、試験会場の広間だ。
各自弁当箱を取り出し、蓋を開ける。
「なに、コレ…」
ヤヨイは信じられないという顔になった。
中身はシンプル、いやシンプルすぎた。横に長方形型した弁当箱は、真ん中で縦の区切りがある。右側の区切りの中は横の区切りが入っている。左側が1/2のサイズで、右側が1/4+1/4の形状。それ自体は問題ない。普通の弁当箱だ。
問題は中身だ。左側は白、右上は赤、右下は緑の色で全てがペースト状なのだ。白米もなければ、おかずになるような具もない。一切食欲がそそられない。
「あ、でも食べられますよ」
驚いたことにレナは既にモグモグと食べ始めている。
それを見てリョウタや他のメンバーも箸をつけた。
(薄いけど味はする。しかし、美味くも不味くもないな…)
「どうやら、白色には米や大豆、赤色には肉や魚、緑色には緑黄色野菜が入っているみたいだね。必要な栄養素やカロリーはありそうだよ」
医者である矢野の言葉なら間違いないであろう。
「ええ、やだぁー!焼き肉が食べたいー」
ヤヨイが駄々をこねている。
それを見て苦笑いする矢野。
「まぁ食事が用意されているだけマシだと思わないとね、ヤヨイくん。それとも食べられる食材があるか探してみるかい?完全なサバイバル生活になるよ」
それを聞いて、ヤヨイはムスッとしながらも食べ始めた。
味気ない食事が終わる。とりあえず腹は満たされた。
リュックサックの中を改めると、2つの缶があったので確認する。1つは乾パン、もう1つには粉が入ってあった。味見の結果、プロテインだと判明。水で溶かして飲むタイプだ。リョウタはどちらも食さずに戻した。
夕日が沈み、夜になる。
街灯が一切無いため、月明かりだけが光源だ。
タブレットにはいくつかアプリがインストールされているが、娯楽性のあるものはない。
だがリョウタにとって、それはあまり苦痛ではなかった。
長い間ホームレス生活をしていたのだ。そんな夜には慣れている。
まだ20時くらいだが、猛烈な睡魔が襲ってきている。更には体の節々が痛い。筋肉痛の前兆だ。
他のメンバーもうつらうつらと眠そうにしている。
「…そろそろ寝ようか」
矢野の発言により、各自がテントに入っていく。
リョウタは用を足すため、離れた岩場に向かう。
終わって帰ろうとしたところで、男女の声が聞こえてきた。
「あん、もぉがっつかないでよぉ」
「たまんねぇ女だな。クレア」
この妖艶な声には聞き覚えがある。
リョウタは足音をたてないように移動し、岩陰から覗き込んでみた。
女はナンバー7の如月クレアだ。
男の方の顔は知らないが、金髪の若者。
やがて2人は濃厚なキスを始めた。
(うわ、マジかよ)
覗き見しているのが馬鹿馬鹿しくなり、リョウタはその場を後にした。
テントに入り、寝袋に潜り込む。
いつ寝たかもわからないくらい、あっという間にリョウタは眠りについた。
ウウーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
けたましいサイレンの音でリョウタは飛び起きる。
(なんだ!?)
辺りは暗い。まだ夜明け前の時間だ。
音の発生元はタブレットだった。
タブレットを引き寄せて画面を見る。そこにはこう書かれてあった。
【緊急事態発生】
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