第16話 集う人々

「あ!忘れてた!」


リョウタの声にレナが首をかしげる。


「リョウ兄さん、どうしたんですかぁ?」


「矢野さんっていう知り合いに声をかけようと思っていたんだ」


矢野の姿を探す。

100メートルほど向こうに矢野の姿があった。

後藤やヤヨイと話している。


「……」


少しだけ考えたリョウタはレナに顔を戻す。


「よかったら、一緒に挨拶しないか?」


「え、いいんですか?あたしは初対面ですけど…」


「だからこそだよ。こんな状況なんだ。知り合いは多い方がいい。それに、良い人なのは保証するよ」


「そういうことなら喜んでっ」


「よし、行こう」


2人は一緒に歩き出した。


距離が近づくと、矢野はリョウタたちに気付いて手を上げた。


「やあ、城戸君じゃないか」


「矢野さん、言うのが遅くなりましたけど、先ほどはありがとうございました」


そう言ってからリョウタは頭を下げた。


「はは、いいよいいよ。困ったときはお互い様だからね」


矢野は何でもないことのように言う。続けて話す。


「ところで、そちらのお嬢さんは?」


「あ、先ほど知り合いまして。紹介出来たらな、と」


「ええと、中川レナと言います。リョウ兄さんにはですね、テントを―――」


「「「リョウ兄さん!?」」」


矢野と後藤とヤヨイの声が見事にハモる。


(おいレナ…。初対面の人にその呼び方しちゃダメだろ)


リョウタは心の中で溜息をつく。


「え?どーゆうカンケイなの?」


口火を切ったのはギャルのヤヨイだった。

その姿を見たレナがビックリした。


「え、何この子!すんごい美少女!しかもJK!?」


一瞬だけヤヨイはポカーンとしていたが、体をクネクネしだす。


「ええ?そんなこと…、あるけど!なんだぁ凄くイイおねーさんじゃん!」


「あたし、レナね。レナって呼んでね」


「じゃあ、レナちゃんだねっ。あ、ウチは篠崎ヤヨイ。ウチのこともヤヨイでいいから!」


「ヤヨイちゃん、よろしくねー」


男性陣は入っていけない。女子特有のキャピキャピした空間に。


「オホンッ」


矢野が咳払いして、場を戻す。


「さて、私は矢野という者だ。矢野ヒデトシ。こちらの彼は後藤ダイゴ君だ」


後藤を見たとき、レナはまたしても反応した。


「でかっ!筋肉すごっ!!」


「おいレナ、ちゃんと挨拶しないと。2人にも」


たまらずリョウタが耳打ちした。レナは慌てて頭を下げる。


「あ、すみません。中川レナです。よろしくお願いします!下の名前で呼んでくれると嬉しいです」


「レナくん、だね。こちらこそよろしく」


思っていたよりもだいぶ騒がしくなったが、目的は果たした。

リョウタが安堵していると、ヤヨイが近づいてきた。小声で話しかけてくる。


「ねぇ、レナちゃんとはどーゆうカンケイなの、城戸ちゃん?」


(城戸ちゃんって…)


これがギャルの距離感なのだろうか、そう思いながらリョウタは返答する。


「どうもこうも、話したようにさっき会ったばかりさ」


「えーマジで?めっちゃ仲良さげじゃん。思ってたよりもやるねぇ、このー」


「いや、そんなんじゃないから」


きっぱりとリョウタは言う。


「またまたー。それにアイちゃんともイイ雰囲気だったよね。意外とモテんの?」


アイとの一幕を見られていたらしい。


「…ノーコメントで」


「あはは、照れてんの?いいトシしてんのにさぁ」


噂をすれば、当人の黒崎アイがやってきた。

矢野と後藤の前に立ち、深々と頭を下げる。


「矢野様、後藤様。その節はありがとうございました。御礼を申し上げたく、伺いました」


そう言うと、微笑みながらリョウタに顔を向けた。


「リョウタさん、こちらのお方は?」


「ああ、中川レナさん。さっき知り合ってさ」


レナはアイを見て放心している。

やがてポツリと呟いた。


「美女多すぎでしょ…」

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