第13話 レアアイテム

鈴木ハジメはハンカチを取り出し、浴びた血を拭い始めた。

それだけで血の跡が消えるわけもない。エリートサラリーマンの姿と大量の血というアンバランスな恰好になっている。


サバイバーたちの反応は多種多様だ。


絶望している者、泣き崩れている者、放心状態になっている者、何事か怒鳴っている者。一方で違う反応をしている者もいる。冷静に思案している者、他の人とひそひそと話している者、ニヤニヤと状況を見守っている者までいる。


そんな中、鈴木は話を再開した。


「とんだアクシデントになってしまいましたが、みなさんの現状認識が深まったようなので良しとしましょう。さて、私がここに参った理由をまだお伝えしておりません。ナンバー57のように自暴自棄にならないように、良い話を今から始めたいと思います」


その言葉に一同は息をのんだ。


この30分で現実は全て変わってしまった。事前情報もほとんど無いまま、デスゲームを強制されたのだ。ヤクザを含めると23名もの命がゴミのように消えていった。極めつけは監視と首輪の爆弾により、逃げ出すことは不可能なこと。常に極限状態にいる地獄のような場所だ。


そんな中で希望になるかもしれない情報なのだ。


静寂以上の無音が場を支配する。


「良い話とは、ミッションクリア上位者に対して報奨品が贈呈されるということです」


「お、それってもしかして、ワイのこと?」


関西人のシャオ・ウイリーが嬉しそうに反応した。


「その通りです、ナンバー8。『上位者』とは、ミッションのクリア上位3名のことを指します。ファーストミッションでは3位のナンバー2、2位のナンバー8、1位のナンバー1の3名です。このミッションのクリア条件は工場からの脱出であり、それが早かった者順で評価しました。この3名に贈呈します」


「よっしゃ!頑張った甲斐があったわぁ」


そう言ってシャオはガッツポーズした。


「フン」


3位のガルシア・ゴロフキンは薄く笑みを浮かべている。


「……」


1位の一条マコトは何の反応も見せていない。


シャオは興奮を隠さず、続けて発言する。


「そんで、ご褒美ってナニをくれるんや?」


「それは3名の方々に選んでいただきます。この報奨品を我々は『レアアイテム』と呼んでおります。普通の人生だと、まず獲得することができないモノばかりです。レアアイテムはミッションにおいても、この島でのサバイバルでも役に立つことは間違いありません。ひいてはプログラム完遂の確率が大幅に上昇するでしょう」


「めっちゃ期待させるやん!楽しみやなぁ。そんで?どこから何を選べばええの?」


「これから3名のタブレットのメッセージアプリにカタログを送信します。カタログの中から1つだけ選び、決定のボタンをタップしてください。恐縮ですが、レアアイテムの選択には制限時間があります。10分以内に決定してください。そうしないと獲得できずに終了してしまいます。また、一度決定したアイテムを変えることはできません。最後になりますが、カタログのデータも10分後に消去されます」


「うっひゃー、制限事項多すぎやろ!ちょっとはこっちの都合も考えてほしいわー」


全く困ったようには見えないシャオ。


「それでは送信いたします」


鈴木がそう言うと、ピロンという音が3人のタブレットから鳴った。

3人はタブレットのメッセージアプリを起動させ、画面を見つめる。


最初に反応したのは、やはりシャオだった。


「おおっ!なんやコレ!?」


ガルシアはくっくっくと笑い、ポツリと言った。


「…マジかよ」


一条は何も言わないが、真剣そうに画面を見つめスワイプしている。


他のサバイバーは羨ましそうに見つめている。リョウタも歯噛みした。


(くそ、俺たちは何のアイテムがあるのかも分からないのか!)


時間が過ぎていく。やがて鈴木が言った。


「そろそろ時間になります。選択は終わりましたか?」


「さっき終わったで」


「ああ」


「…大丈夫だ」


「選択したレアアイテムは翌日にはドローンで配送されますので、お受け取りください。みなさんもお分かりになったでしょう。全てのミッションに報奨品がついてきます。積極的に上位を狙ってください。ミッションごとにクリア条件は異なりますが、公平にジャッジさせていただきますので、ご安心を」


こうしてファーストミッションは本当の意味で終わりを迎えた。


鈴木は更に述べ始めた。


「タブレットの時計をご覧ください。現在時刻は昼前の11:47です。これより自由時間となります。食事と水はリュックサックの中に入っておりますので、各自好きな時にお召し上がりください。また、本日はこの平野にテントを張り、寝袋で睡眠をお取りください。まあミッションではありませんので、強制はしません。どうするかは皆さんの自由です」


安堵して弛緩した空気が流れ始める。

そんな空気も鈴木の次の言葉で凍り付いた。


「明日の朝9時からセカンドミッションを開始します。この場所に時間厳守でお越しください。お越しにならない場合、どうなるかは説明するまでもないですよね?」

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