第9話 ファーストミッション③疾走

「君たち!こっちだ」


別の通路から出てきた人物に声を掛けられる。

矢野ヒデトシだった。


「矢野さん!黒崎さんが動けそうになくて!」


「安心しなさい。後藤君、頼む!」


2メートルを超す巨漢の後藤ダイゴが現れた。

左脇には女子高生の篠崎ヤヨイをリュックごと抱えている。

後藤はアイに近づくと右手で抱え上げた。


(ちょっと待て。馬鹿力にもほどがあるだろう!)


女性の体重が50キロとしたら、荷物を含めると片方70キロ以上だ。

それを平然と抱えこんでいる。

後藤の顔に辛さは見えない。だがその目を見てリョウタはハッとした。


(瞳が赤くなっている?)


以前、後藤と挨拶したときは赤くなかった。

こんな特徴的な目を忘れるわけがない。


矢野が声を出す。


「何をしているんだね?急ぐんだ!」


「でも出口がどこか…。罠もまだあるでしょうし」


「心配いらない。とにかく私についてきたまえ」


矢野は一瞬目を閉じ、再び開いた。

その瞳は後藤と同じ赤色になっていた。


(な…!)


矢野が駆け出し、2人を抱えた後藤がその後を追う。

慌ててリョウタも走り出す。今は信じるしかない。


【01:03】


入り組んだ工場内を矢野は迷うことなく走り抜けていく。

それも罠の無い道を選んでだ。

リョウタは疑問に蓋をする。余計なことを考えている暇はない。


【00:30】


走る。走る。走る。


通路を曲がると、太陽の光が差し込んできた。


(出口だ!!)


最後の力を振り絞る。


いつの間にか他のサバイバーたちも一緒に走っている。


【00:09】


工場の出口を抜けた。


矢野が叫ぶ。


「まだだ!あの塀の後ろまで走れ!」


20メートルほど先に工場を取り囲む高い塀が見える。

酸素の供給が追い付かない。手足もがくがくと震えている。


「うおおおオオオッ!!」


リョウタは叫び、更に走った。

ヘッドスライディングするように塀の後ろに滑り込む。


【00:02】


【00:01】


【00:00】 ピーーーーーーーーーーーー


工場から一瞬の閃光。


ドドオオオオオーーーーーーン!!!


「ぐッ!!」


「きゃあぁぁ!!」


大気が揺れ、爆風が塀の横を吹き荒れる。

飛び散った工場の破片がガツガツと塀にぶつかってきた。


リョウタの心臓が早鐘を打ち続けている。

全力疾走の影響もあるが、下手すれば死んでいた恐怖が大きい。


深呼吸して塀から工場を覗き込んだ。

そこに工場は既に無かった。あるのは鉄骨などの残骸だけで火に包まれている。


突然タブレットからファンファーレが鳴り響いた。


【コングラチュレーション!】


【ファーストミッション クリア】


【合格者:77名 / 99名】


【上位3名発表】


【3位:ナンバー2】


【2位:ナンバー8】


【1位:ナンバー1】


タブレットに情報が表示されているが、疲労困憊で頭に入ってこない。


リョウタは荒い息を吐きながら地面に崩れ落ちた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る