第2章 脱却
第7話 ファーストミッション①デスゲーム開始
「ではこれよりファーストミッションを始めます!」
その言葉を聞いた時、数秒リョウタは理解できなかった。
(え、これから!?)
タブレットからクラシック音楽が流れてくる。
画面を見ると【ファーストミッション スタート】の文字。
それをタップすると、違う画面に切り替わる。
【ミッション内容:工場からの脱出】
【制限時間:10分】
【逸脱行為:荷物の破棄】
【参加者:99名】
画面の上部分はストップウォッチのようなデジタル時計仕様になっており、【09:59】 【09:58】 と0に近づいていく。カウントダウンの表示だ。
リョウタは慌ててリュックを背負った。
(! 重い!)
20キロはあるのではないか。
運動不足の30歳には応える重さだ。
(出口は!?)
部屋を見回すと、扉が5つある。
全てが出口に繋がっているとは考えにくい。
リョウタが悩んでいると、30代半ばの男が1つの扉に手をかけた。
「悩んでいてもしょうがねーだろ!俺は行くからな!」
男が数歩踏み出した時、その足元で「ピッ」という音が鳴る。
瞬間、男の頭が弾け飛んだ。
頭の上半分が消え去り、血と脳漿をまき散らしながら後ろに倒れこむ。
「うわああああああ!!」
「イヤーーーーーーー!!」
目の前で人が死んだのに現実感が無い。
(死んだ?死んだのか?)
パニックとなる周りの中で、リョウタはそんなことしか考えられない。
死人が出たのだ。ミッションは中止、救済プログラムもこれで終了だろう。
鈴木ハジメの姿を探す。が、いない。先ほどまでそこにいたのに。
(こんな時に何処に行ったんだよ!!)
ふとタブレットを見る。
カウントダウンは続いている。
【09:03】となるところだった。
(まさか…)
【09:00】を切った瞬間、部屋の壁に設置された空気孔からガスが噴出された。みるみるうちに部屋を充満していく。
リョウタもパニック寸前だ。試験会場の光景が蘇る。
(また睡眠ガスかよ!?)
だがこれで確定した。死人が出ようがミッションは続けるつもりだ。
「…睡眠ガスじゃない。プロパンガスだ」
その言葉に振り返る。発言したのは一条マコトだった。
(なんでガスについて、そんなに詳しい?)
リョウタが訝しんでいると、更に部屋に異変が起こった。
天井が開き、プラスチックケースが降りてくる。
その中に入っていたのは導火線に点火されたダイナマイトだった。
(嘘だろ…)
死が他人事ではなくなる。
一条の言う通り、このガスが可燃性だとしたら引火して大爆発を起こす。
リョウタだけだったら、間違いなくパニックに陥っていた。
現に周りの半数以上の人間はパニック状態だ。
だが何人かは冷静さを保っている。
一条マコト・月宮カルラ・ゴロフキン兄弟・黒崎アイ・矢野ヒデトシ。
一桁台のサバイバーたちだ。
そんな彼らを見て、リョウタも少しだけ落ち着きを取り戻した。
(落ち着け。まずは状況をよく見るんだ…!)
すぐに爆発を起こすと思ったダイナマイトも、よく見れば導火線は長い。導火線の長さと火の進み具合から判断するに、ミッションのカウントダウン終了と爆発がリンクしている可能性が高い。
タブレット画面を確認する。
【07:52】
残り8分近くだが時間はある。
リョウタは次に死んだ男とその周辺を観察した。
男が死ぬ直前、その足元で音がした。
地面近くの壁を見ると、微かに赤い線が地面から30センチほど上で横切っている。その両端には小さな装置。
(赤外線センサーか!)
だが直接的な死因が分からない。
「クレーンだよ」
驚きながら声の主を見ると、矢野ヒデトシだった。
「先ほど遺体の近くで死因を確認した。この場所からは壁が邪魔で見えないが、あの扉の先の頭上ではクレーンが揺れていた。センサーに作動して、罠のクレーンが猛スピードで頭に直撃したのさ。即死だったのが、せめてもの救いかな」
「…なぜ確認を?」
「私は医者だからね。まあ訳アリだが。職業病みたいなものさ」
矢野の独白に質問する時間もない。
これでとりあえずミッションにおける分からないことは無くなった。
あの罠も1回限りということも判明した。
リョウタは冷静さを取り戻した。
だがカウントダウンが焦燥感で頭をじりじりと焼いてくる。
【06:30】
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