第4話 アウトローたち
試験官と一緒にエレベーターに乗ると最上階で止まった。
エレベーターから出ると、試験官がバインダーに挟まったペーパーを渡してきた。
「プログラム参加への誓約書です。内容を確認し、よろしければサインを」
長文だが要約すると、『自分の意志でプログラムに参加する』と『プログラムが完遂できなくても、その責任は参加者個人に帰属する』と『プログラムは途中で棄権することはできない』の3点だ。
リョウタはサインすると、試験官に返した。
少し歩き、見事な装飾がされている扉の前で試験官が言う。
「案内はここまでです。中には食事も用意しておりますので、時間までゆっくりとお過ごしください」
リョウタは1人になったが、考えてもしょうがないので扉を開ける。
中はホテルのパーティー会場のようだった。
天井にはシャンデリア、カーペットの上には丸テーブルが規則正しく配置され、それぞれ椅子が6つある。広間の奥にはバイキング形式で和洋中の様々な料理が並べられている。
広間の光景に圧倒されていたが、料理を見た途端に空腹を思い出す。
(そういや、まともな食事なんてしばらく食べてないな)
バイキングに向かい、料理を皿に盛っていく。そうしていると話しかけられた。
「やあ、合格したんだね。君が最後の合格者みたいだよ」
振り返ると同じ教室の初老の男性だった。
「あ、ええと」
「私は矢野ヒデトシだ。よろしく。立ち話もなんだから、よかったらテーブルで食べながら話さないか」
紳士的で友好的だ。そう判断したリョウタは提案に乗ることにした。
「はい、城戸リョウタです。よろしくお願いします」
矢野の後を追ってテーブルに辿り着くと、知っている顔が2人いた。
同じ教室の合格者だ。
矢野が紹介していく。
「彼は知っているね。教室で最初の合格者、一条マコト君だ」
紹介されても一条は軽く視線を寄こしただけで、興味なさそうに視線を戻した。
矢野は苦笑いを浮かべながら次を紹介しようとする。
「そして彼女だが―――」
「黒崎アイと申します。若輩ですが何卒よろしくお願い申し上げます」
アイと名乗った女性は立ち上がり、優雅に礼をした。
「若輩って!ウチはどーなんのよ」
アハハと笑いながら少女が突っ込んだ。
金髪に染め上げた髪をツインテールにしており、制服を着ている。
「美少女JKの篠崎ヤヨイでーす。ギャルだけどよろしく~!」
最後の男は圧巻だった。
身長は2メートル以上、筋骨隆々としている坊主頭。
「あ、えと、後藤ダイゴです…」
姿に似合わない小さく優し気な声にリョウタは転びそうになる。
会場内においてもひと際目立つ体躯をしているというのに。
「城戸リョウタです。皆さん、よろしくお願いします!」
食事を胃に収めると、ようやく人心地ついた。
タイミングを計ったように矢野が聞いてくる。
「城戸君、どう思う?」
「どうとは?」
「この救済プログラムだよ。変だと思わないか?対象者の選抜試験合格でこの好待遇だ。法案が通過して初めての試みなんだよ、これは。だから誰もその内容は分からないんだ」
「でも弱者を救うための法律なんですよね。そう考えれば、あながちおかしいとも思えませんが」
「そんなことして国に何のメリットがあるんだい?それに弱者だけじゃないよ。あのテーブルを見てごらん」
矢野の目線の先にあるテーブルには、2人の男しかいなかった。
どちらも一目で外国人と分かる顔立ちだった。1人は赤みがかった髪を逆立てている。もう1人はスキンヘッドだが、お互い顔が似ている。2人からはどす黒い雰囲気が放たれており、誰も近寄ろうとしない。リョウタも以前にニュースで見たことがある顔だが、思い出せない。
「ゴロフキン兄弟さ。兄のガルシアと弟のロジャー。君も知ってるだろう?」
リョウタの記憶が蘇る。
ゴロフキン兄弟!世間を騒がせた連続テロ事件の首謀格。髪を逆立てているのが兄のガルシア・ゴロフキン。テロ組織のリーダーであり、カリスマ性を持った人物。スキンヘッドが弟のロジャー・ゴロフキン。爆弾を設置した実行犯であり、それとは別に連続婦女暴行事件でも有名だ。
「なんでここに!?逮捕されて刑務所にいるはずなのに!」
「さてね。彼ら以外にも見覚えのある犯罪者が何人もいるよ、ここには。私も含めて社会からつま弾きにされたアウトローばかりなんだよ。これでも『普通』の救済プログラムと言えるのかな?」
「ッ!―――…」
(どういうことだ?)
「顔色が悪いね。顔でも洗ってきたらどうだい」
矢野の言葉に頷く。
「そうさせてもらいます」
リョウタは扉から出てトイレに向かった。
水道で顔を洗うと幾分気分が落ち着く。
鏡に映るのは痩せ型の自分の姿。不安が募る。
(これからどうなるのか…)
物思いに沈んでいたリョウタは、扉を開けたときに目の前にいた人物とぶつかってしまった。
「あ、すいませ―――」
振り返ったその人物の姿は大きめのグレーのパーカー、スキニージーンズ。目立つ銀髪はミディアムショート。瞳の色は吸い込まれそうな緑。
「君はっ!!」
あの夜、リョウタを救った美少女だった。
「あぁ、あの時のザコオッサン。こんなところで会うなんてね」
相変わらずの毒舌だ。
だが心なしかソワソワしてるように見える。
彼女はすぐに視線を戻した。その先にいるのはガルシア・ゴロフキンだった。
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