第3話 選定試験

指定された場所の前にリョウタは立っていた。


施設というよりも体育館のようだ。

体育館の横には5階建てのビルが併設されている。

思っていたよりも遥かに大きい。


意を決して中へと入る。


人・人・人。


何百人いるんだろう。

あの男が言っていた『社会的弱者及び違反者救済法』。

その対象者ということは、ここにいる全員がアウトローということになる。


確かに死んだような眼をしている中年やカタギには見えない人物が目に留まる。


(……)


リョウタは時間が経つのを待った。


しばらくして奥の壇上に男が立った。

リョウタが会ったあの男だ。


「みなさん、お待たせしました。わたくし、厚生労働省職員の鈴木と申します。本日は救済プログラム試験会場にお越しいただきありがとうございます。みなさんにはこれから救済プログラムの対象者となるかの選定試験を受けていただきます」


会場がざわつく。

1人の男が声をあげた。


「待ってくれ。救済の対象になったから集められたんじゃないのか?」


「おっしゃる通りです。ですが、助けてほしい人間を全員助ける余力も財源も国にはありません。ですから試験で選定させていただくのです。ご不満なら帰っていただいて結構ですよ?」


発言した男は押し黙った。


「この場には706名が参加されています。このうち選ばれるのは99名です。なぁに、試験といっても大したものではありません。身体検査、体力測定、筆記試験の3つです」


(600人以上が脱落するのか)


リョウタは気を引き締める。

借金が帳消しになるのも望んでいるが、全てを失った人生からの脱却がここにはあるかもしれない。


「試験が終わったら、すぐに合格かどうか分かります。全員参加ということでよろしいですね。それでは身体検査から始めます」


体育館から出て隣のビルに誘導される。


男女別に分かれ、それぞれ検査室に入っていく。


身長・体重・血液検査・脳波測定。果てはMRIのような大型の機械検査まである。


それが終わると体育館に戻り、体力測定。


腕立て・腹筋・背筋・スクワット・反復横跳び・縄跳び・握力が記録されていく。なぜかパンチングマシーンもあり、測定される。


運動神経が悪く、体力もないリョウタにはキツイ内容だった。


再びビルに戻り、教室のような部屋に案内された。

教室は30人ごとに区切られていて、自分の席に座る。


最後は筆記試験だ。

リョウタは体力測定の悪さをカバーするべく、意気込みながらペーパーに目を走らせた。


(なんだ、この試験…)


計算問題や論文などなら自信があったが、全く想定外だ。

まるで心理テストやストレスチェックのような内容だった。


質問があり、回答は『当てはまる』、『やや当てはまる』、『どちらでもない』、『やや当てはまらない』、『当てはまらない』の5つから選ぶというもの。

それゆえ回答は千差万別であり、正解が無いのだ。


質問は100に及んでいる。

リョウタは溜息をつきながら、試験に取り組んだ。


試験終了後、受験者たちはそのまま席での待機を指示された。

周りの人々の多くはスマホを弄っている。

スマホを解約して持ってないリョウタは手持ち無沙汰に待ち続けた。


1時間ほど経過した。時刻は日付が変わろうとする深夜。

ようやく試験官が入ってきた。4人いて、そのうちの1人が話し始めた。


「試験お疲れさまでした。結果が出たのでお知らせします。この部屋から出た合格者は4名です。今から名前を呼ぶので、その方は試験官の誘導に従って移動してください」


緊張が辺りを包む。


「一条マコトさん」


「……」


無言のまま黒ジャケットを着た20代後半の男が立ちあがった。

端正な顔立ちで切れ長の目、身長は180センチ以上ある。

試験官に連れられ部屋を出ていく。


「黒崎アイさん」


「はい」


続いて20歳くらいの女が手をあげる。

黒髪をアップで纏め、白いワンピースを着ている。

目がクリクリと大きく、庇護欲を掻き立てられる美人だ。


「まさかわたくしが合格するなんて思いませんでしたわ」


ニッコリと微笑むと優雅に歩き、教室を出ていった。


リョウタに焦りが募る。


「矢野ヒデトシさん」


「私だね」


白髪の混じった初老の男だった。

七三に分けた髪型に眼鏡をかけている。

カツカツと教室から出ていき、残りは1名。


周りには両手を組んで祈っている者、諦めたのかスマホを見ている者、ブツブツと言っている者、様々だ。


「それでは最後の合格者です。…城戸リョウタさん」


「俺!?」


思わず叫んでいた。

周りから「ああ…」という声が聞こえる。


「そうです。こちらへどうぞ」


試験官に連れられ、廊下を歩いていく。


(合格したんだ…!)


この時のリョウタは、まだそんな考えしか持てないでいた。

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