第22話
明かりの消えたロビーの一角に、小さな湯気が立ち昇っていた。
「落ち着いた?」
ポットから注がれたコーヒーを受け取って、アオイは鼻をすすり上げた。
「ひとって、あんなに涙を流せるんですね」
なにしろ、4か月分まとめてだ。
「ホントにね」
直人の母は、少し笑顔を見せた。
その横顔を見て、アオイは強いなあと思った。
彼女の場合、直人はいきなり帰らぬ人となっていた。
それも辛かったが、生きている間、しかももう助からないと分かっていながら看病を続けるのは相当精神力がいるものだ。
現にアオイは、初日でこんな状態である。
(有夢)
彼女は久しぶりに、ためいき泥棒の名前を思い出した。
(何で5日前なの? もっと前にしてくれたら良かったのに)
念のため、有夢の姿も探してみたが、どこにも居なかった。
彼女と知り合うのは4月以降、2月に居る訳がない。
これは、自分が望んだ結果なのだ。
「きっと、直人がアオイちゃんを連れてきてくれたんだね」
ポツリを呟いた母親に、彼女は顔を上げた。
「『しっかりしな、じゃないと娘に笑われるぞ』って言いたいのよ」
(・・・あ)
自分を包む優しい笑顔に、アオイの中で何かが崩れて行った。
「頑張ろうね、アオイちゃん」
「はい」
この瞬間、
生稲アオイは、ようやく答えを見つけることが出来た。
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