第23話

「理美(さとみ)さん、これどこに置きます?」

「あ、こっちにお願い」

「はーい」

 窓際の棚に、アオイは水を取り替えた花瓶を置いた。

「次は床の掃除ね」

「了解」


 二人が綺麗にしているのは、直人が数日前まで居た一般病室。

 本人は集中治療室に居る為、現在は利用していないが、必ずここに戻って来るという思いが、二人を動かしていた。


 直人の母親は、アオイに自分の事を『お母さん』ではなく『理美さん』と呼ばせていた。

 息子が一人だった事もあり、女の子からそう呼ばれるのは照れ臭いそうだ。



 12日になると、直人はもう目を開ける事も無くなって来た。


 それでも二人は変わらない。


 掃除をして、花瓶の水を取り替えて、彼に話しかける。

 今はそうする事が、一番いいのだ。


 残される理美にとっても、直人にとっても。



 そして、アオイにとっても。

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