第14話

 カレンダーが、二月になった。


あの日以来、アオイは直人の部屋に行っていない。


 何となく行きづらくなっているうちに、タイミングを外してしまったのだ。



(・・・ふう)

 最近めっきり多くなった溜め息を付いて、彼女は思った。


(溜め息も、付きすぎると幸せじゃなくなるのかな)

 そう思った瞬間、彼女はあの時間を思い出した。


―笑おうよ、アオイちゃん


 そうだ、こんなの私らしくない。

 まだ間に合う。

 カレンダーで日付を確認する。

 今日は2月14日。


「よし!!」

 勢い良く立ち上がったアオイは、素早く着替えると部屋を飛び出した。


 途中、何やら深刻そうな表情で電話している母の脇を通り抜けて外に出る。



 まだ間に合う。

 まだ間に合う。


 降り積もる雪の中、右足と左足に暗示を掛けるようにして、彼女は駅前へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る