ため息泥棒

第13話

　言っちゃった!!

　全身に火が付いたような感触を覚えて、彼女はまっすぐ前を向いて歩いた。

　満足感と後悔が、交互に現われては消える。

　ナオ兄さん、何て答えるだろう。

「またまたー」とか誤魔化すかなあ。そのときは強引に約束しちゃおうっと。

　色々な想いを廻らせながら、彼女は直人の返事が遅い事に気が付いた。

「・・・兄さん？」

　不思議に思ったアオイは振り返った。

　すると、直人は遥か手前に立ち止まり、ショーウィンドウを眺めていた。

「どうしたのよ？」

　少し不貞腐れて戻ってきた彼女は、彼が眺めているものを見た。

　そこには、

　純白のウェディングドレスが、目映い光を浴びて飾られていた。

「ごめん」

　直人の言葉で、アオイは全てを悟った。

　二年前、彼と姉はクリスマスイブに結婚しようとしていた事。

　まだ、姉のことを想っている事を。

　心は傷ついた。

　見事なまでに。

　でも、それは見せられない。

「やだ、何いってるのナオ兄さん」

　彼女は、わざとおどけてみせた。

「軽い気持ちで言ったのよ、ノリよノリ。私だって、イブを一緒に過ごす相手に事欠くわけじゃないしい」

「アオイちゃん」

（そんな、哀しい顔をしないで）

「兄さんも、お姉ちゃんの事しっかり思い出してあげて」

　奥歯をぐっと噛み締めながら、彼女は直人を見た。

「さようなら」

　そのまま、彼女は振り返る事なく駆け出して行った。