第8話

 説明会場には、学生食堂の一角が選ばれた。


「『ためい気』とは、溜め息の中でも、後悔・心残りなどが色濃く反映されているものを指します」

 有夢は、淡々と口を動かした。


「通常の溜め息とは違い、回数を重ねると本人の精神を蝕んでいく危険があります」

 そして、自分を指差して言った。

「『ためいき泥棒』は、溜め息から発するエネルギーを収集する者のことです」

 ちょっと後ろめたい表情を見せる。

「摂取する時には当事者への断りをあまり入れないから『泥棒』と呼ばれています」



「じゃあ、私は知らないうちに有夢にエネルギーを吸い取られてたんだ」

 カップコーヒーを前に、アオイは無表情で言った。

 隣の少女が、慌てて反論する。

「それは違います、身体に影響を与えるのは『ためい気』だけです」

「ややこしいなあ」

 有夢に渡された「ためいき泥棒の心得」と書かれたA4の紙を眺め、アオイは頬杖を付いた。


 学生食堂の放課後は昼間ほど混雑しない為、二人は窓際奥の特等席に腰掛けている。

「とにかく、有夢はためいき泥棒なのね、それは理解する」

 普通の人だと到底理解出来ない事だが、アオイはあえて自分を納得させた。


 いまの彼女も、普通の人ではないのだ。


「で、どうしたいの?」

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