第7話

 ひとすじの風は、教室の入り口まで達したような気がした。


 そこに佇んでいる少女の足元で、それはくるくると回りだす。


 彼女は、パチンと指を鳴らした。瞬間、風は離散した。



「・・・あなた」

 ようやく彼女の存在に気が付いたアオイは、面を上げて睨み付けた。

「今度から、見学料取るって言わなかったっけ?」

 精一杯の脅しにも、有夢は動じる様子はなかった。

 代わりに言う。


「溜め息をついても、記憶は逃げないわ」


 アオイは息を呑んだ。

 心臓を鷲掴みにされた感触に、怯えがはしる。

「・・・あなた、何者?」

 訊いた瞬間、様々な答えを思い浮かべたが、最終的に耳の中に届いた言葉は、そのどれにも一致しなかった。


「わたし?」

 海野有夢は、気恥ずかしそうに首を傾けて言った。

「わたしは、ためいき泥棒です」



「タメ息、泥棒?」

 そう言ったきり、アオイは不覚にもぽかんと口を開けてしまった。

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