「・・・好きな人、か」

　その言葉を最近ようやく平気で言えるようになったアオイは、自虐的な表情を浮かべた。

（皮肉なものね）

　本人はあまり自覚していないのだが、友人に言わせると「アオイは大和撫子を地で行っている」美人らしい。

　男子からもよく声を掛けられるが、その気が全くない為、全てにノーを出している。

　相手を傷つけないよう、断り方も堂に入ったものだ。

　好きな人がいる、いい友達でいましょう。

　でも、

　アオイが選んだ選択肢は、知らないうちに自分自身を傷つけていた。

（・・・ん？）

　背後に気配を感じた彼女は、恥ずかしさと怒りの混じった表情で言った。

「・・・誰だか知らないけど、今度から見学料とるわよ、覗き魔さん」

　一瞬、息を呑む気配がした。

　カタンという音と、パタパタ走り去っていく足音。

　何気なくそちらを向いたアオイの瞳に、白いマフラーの先が映ったような気がした。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい