第2話

 教壇の上では、中年の女教師が英文のリーダーをやっている。

 相変わらず、LとRの発音が微妙にズレている。

 英語は得意なはずだったが、内容が頭に入ってこない。


 普段の自分ならすぐ分かるはずなのに。

 やはり、ここ何ヶ月か「普段」というものをやっていないからだろうか。


 3か月前、高校一年生の終わりに経験した出来事。

 それが、生稲アオイを変えてしまった。


 思い出すたび、涙腺がじわりと自然と緩んでくる。

 だから、涙を誤魔化す為にはじめたタメ息が、今や定番となってしまった。


(・・・ふう)

 今日も何回目かのそれを付いてみる。


 その時、

彼女の首筋に鋭い視線が刺さった様な気がした。



(?)

 振り返ると、白いマフラーの少女がこちらを見ている。

 咎めるでもなく、ただ「視て」いる感覚だ。

(なに?)

 不躾な視線に非難の意味で視線を返したが、彼女はまったく気にしていない。

(・・・変な奴)


 その時、チャイムが鳴った。

 アオイは思考を切り替え、号令を掛けるべく立ち上がった。

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