ため息泥棒

黒珈

第1話

 ため息をつくと

 幸せが一つ逃げて行くって言うけれど

 逃げた幸せは、一体どこに行ってしまうんだろうね。




(そんなに寒いのかな?)


 生稲(いくいな)アオイが、クラスメイトである海野有夢(うみのゆめ)に抱いた最初の印象はこうだった。

 高2の女子として平均的な身長のアオイより、彼女は頭一つ分背が低い。


 短く刈り込まれた髪の下に、くりっとした大きな瞳。そして、首に巻き付けられた『純白のマフラー』。

 5月だというのに、明らかにサイズが合っていないそれを平然と身につけて歩く姿は、非情に滑稽だ。

 学校の中でも、変わりモノだと噂されている。

 でも、アオイは、最近まで彼女のことは全く気に掛けていなかった。

 クラス委員を務めている関係上、普段から級友のほとんどとコミュニケーションは図っているつもりだった。


 それなりに。


 でも、彼女とは全く接点を持つ事がなかった。

 まるで、わざとそうしているみたいに。

(考えすぎ、か)

 アオイは、小さく首を振って、現実に戻った。

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