5層へ

そして俺たちは5層へ突入した。




5層は4層と同じ作りになっていて、蝋燭の明かりで、地下だと思えないような明るさだった。




「ここが5層か…4層とあんま変わんねぇな…」




ヴィルは期待外れのように言う、俺としてはあまり変わらない方が嬉しい。




「よし、とりあえず地図に書いてある宝箱を見回って、軽く取ったらとっとと戻ろう、今日は様子見だ。」




と、アルトは軽く計画を立てた。




そして5層の探索が始まった。




5層にネズミはちらほら居たが、4層と変わらない強さだったのが救いだった。




しばらく歩くと”地図”に無い宝箱を見つけた、




ヴィルが早速開けようとするが、アルトに止められる。




「あ?なんで止めんだよ、独り占めなんてしねーから良いだろ?」




少し怒ったようにヴィルが言う。




「ヴィル、お前ちょっと待て、探索済みの層に地図にない宝箱があるなんておかしい、ゴリアテ、この宝箱、思い切りぶっ叩いてやれ、正体が分かるかもしれない。」




ゴリアテがハンマーを振り上げ、叩きつける。




俺はてっきり本物の宝箱かと思っていたが、どうにも違うらしかった。




金属音ではなく、響いたのは何かが潰れるような、グシャっという音がし、何かが飛び散る。




そしてゴリアテのハンマーを見ると、血が滴っている。




なるほど、こいつは生きた宝箱――――――




『ミミック』だ。




ミミックは宝箱に扮し、迷宮に入ってきた盗人に開けられた場合、蓋とその接触面に牙が生え、開けた人間を捕食する。




パーティーが数人なら完全に捕食される前に助け出され、助かる場合が多いが、1人だとこの『罠』に引っ掛かってしまったら、ほとんどの場合助かることは出来ずに噛み殺され、飲み込まれてしまう。




そしてミミックは宝箱と全く同じ性質を持ち合わせていて、体の中に盗人の装備や持ち物を溜め込む。




潰されたミミックを見ると、ミミックの血に濡れていたが、やはりこの捕食者の『罠』に引っかかった犠牲者の遺品が溜め込まれていた。




衣類が数着と剣が数本、そして犠牲者の集めたであろう小さな袋1杯の金貨が入っていた。




俺たちはその犠牲者達に手を合わせ、その後遺品と宝物をゴリアテのバッグに入れた。




迷宮では帰るまで気を抜いてはならない、という教官の教えを守り、罠を避けて4層への階段へ向かう。




元来た道を戻っていると、遠くに人影が見えた。




「俺たちと同じ探検者か…?もしあの人達も帰るなら一緒に帰らないか?人は多すぎて困る事は無いだろ?」




俺は言う、もし俺たちより場数を踏んだ探検者と一緒に帰れるなら、生存率はグッとあがる。




しかし、『それ』は人型ではあったが、俺達と同じ『人間』ではなかった。

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