父の行方
「お前の父親の行方か…俺はお前の父親を見た事がないからな…所長に聞けば分かるんじゃないか?」
教官もわからないのか…と俺はすこし残念だった。
「いえ…昔聞いたんですけど『空に向かう』と…」
そうだ、昔聞いた時は確かにそう言っていた。
「うーん…ダメもとでもう一度話を聞いてみたらどうだ?昔は子供だったから無茶をしないように詳しいことは言わなかっただけなんじゃないか?」
その線は昔から考えていたのだが、もし本当に知らなかったら所長に申し訳なかったからしつこくは聞けなかった。
でも俺は探検者として(一応)認められた、もしかしたら…と希望を持つ。
「わかりました、聞いてみます。」
「おう!人生何事も挑戦だぞ!はっはっは!!」
豪快な笑い声を後にして所長室へ向かう、みんなに迷宮の中の物を伝えるのは少し遅くなってしまうが大丈夫だろう。
所長室は養成所の中にあって寮からは少し歩かなければならない。
小さな坂道をのぼって養成所に着く。
その後に二階建ての養成所の木で出来た階段を上って所長室へ向かう。
恐らく卒所式が終わってから今いる養成所の生徒達はどこかに遊びに行っているのだろう。
コンコンとドアをノックする。
「トイレじゃないぞ、ここは。」
うーん、めんどくさい。
しっかり3回ノックすると
「入っていいぞと言われる。」
「おお、君は今日卒所したルドー君だね?」
「はい、所長」
覚えてくれているらしい、それもそうか、人が少ないから覚えるのは容易いだろう、実際自分もほとんどの人の名前を覚えている。
「で、何用でここに来たんだね?遊びに来たんではないだろう?」
所長が少し勘づいたような顔をして。
「…君の父親のことを聞きに来たのかね?」
「はい、父の行方を知りたいのです。」
「彼はここの生徒だった、まぁその縁があって君を預かったんだがね…」
父がここの生徒だったことは初めて知った、もしかしたら行方も知っているかもしれない。
「父は『空に向かう』って言ってたらしいですけど、それってどういう意味なんですか?やっぱり空に迷宮があるんですか?」
「そういう事だ、空に迷宮があることは我々を含めあちこちのギルドで把握しているのだよ。」
「じゃあ、つまりそこに…」
「そんな簡単な話じゃないのだよ、ルドー君。」
「と言うと…?」
俺はわからなかった、ギルドが把握しているならそこの迷宮にもギルドはあるのではないのだろうか。
「その迷宮は空飛ぶ島にあるんだが、この歴史の中で4回しか発見されておらず、しかも誰一人として入ったことがないからギルドも置かれたことが無い、つまりほぼ伝説の存在なのだよ、わかるかね?」
「つまり…父親の行方にはアテがないと…?」
すこし見えかけた光が閉ざされた。
まぁ俺もそこまで父親に固執はしていないが、たった1人の肉親だ、気になっていたのが何も解決出来ずに終わると、この変にもやもやした気持ちが残る。
少しの沈黙が流れた後に所長が口を開く。
「いや、完全に無い訳では無い。」
「空島が何度も目撃された場所がある、そこを目指すといい。」
所長が世界地図を広げる、戦闘の知識と生きるための知恵しか教わらなかった俺は自分たちがいかに狭いところで過ごしていたのかが分かった。
世界地図を見ると魔法がかかっているらしく、今いる場所が大まかに点で表示されていた。
どうも俺たちが今いるのは左下にある中規模の国らしい。
そして所長はペンで右端の小さな島に印をつける。
その島にはハイ・アイランドと書かれていた。
「ハイアイランド…?名前が直球すぎるのでは…?」
そりゃそうだ、高い島なんて直球すぎる。
「私に言わないで欲しいね、このネーミングセンスには若干の嫌悪を感じるが、ついてしまった名前はしょうがない、ここは平均海抜がゆうに400mを超えていて、とてもじゃないが浮遊魔法や適応魔法を使わないと上陸できない島なのだよ。」
「父親はここに向かっていると…?」
「あぁ、そういう事だ、恐らくだがそこで空島の出現を待っているか…あるいは…既に空島へ登ったかだ。」
やはり聞いてよかったと思った、だがみんながこの話を聞いて着いてきてくれるかどうかが心配だった。
「ありがとうございます、所長、おかげで父親の行方の手がかりが見つかりました。」
俺は深く頭を下げる。
「いや、いいのだよ、私も退屈していたとこなんだ。ところで君、ここへ向かうのかね?だとしたら今のレベルでは助からんぞ?」
確かにそうだろう、そんな高いところにある島だ、この迷宮より遥かに敵は強いだろう、しかもそもそも俺は今のレベルではハイアイランドに上陸出来ないし、出来たとしても適応魔法をかけられずに低酸素症になるだろう。
「はい、わかっています、自分の実力は過信するなとここで教わりましたから。」
「よし、その心意気は私が認めよう、励みたまえよ?」
所長は笑顔になり俺を見送ってくれた。
そして寮への帰路に着いた。
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