遺品/宝物回収

4層への階段へ向かうと、教官と仲間たちがいた。




教官はこれから1ヶ月間、新米の俺たちが死なないように見ていてくれるらしい、それなら少し安心した。




教官の実力は見たことがないが、剣、魔法、銃、その全ての稽古を昔、訓練の時にしたが、歯が立たなかった事を覚えている。




皆は前に4層に降りた時と同じように自らの武器の手入れをしていた。




アルトは銃の中を覗いてほこりが溜まっていないかどうかを見ていた。




ゴリアテは大きなハンマーを使い始めたらしい、どこからどう見ても殺人鬼なのだが、まぁそんなことはしないだろうからいいだろう。




ヴィルは俺に持てないような大きさの両手剣の刃先を眺めて刃こぼれがしていないかを見ている、何故か両手剣なのに腕に小さな盾を付けている。




なんで付けているのかは昔は分からなかったが、ネズミとの戦いの時に分かった。




両手剣が使えない/使いずらい相手に使うらしい。




カミナは寝ながら本を読んでいた、どうも緊張感がないらしい。




ニアは杖にはめられたアメジストを眺めた後に、魔導書を何度も読み返していた、ゴリアテの治療の際に時間が掛かってしまった事が申し訳なかったらしい。




教官はギルドの職員、そしてその周りにいる探検者に俺たちのことを伝え、有事の際は率先して助けて欲しいという旨を伝えていた。




そして集まって1時間程経ってから、4層へ向かった。




やはり以前と何ら変わらず、異様に明るい迷宮内部。




明るいが故の不気味さがある。




すると唐突にヴィルが




「教官、今日はここで宝箱に何かが入ってないか、を確認して回るんですよね?」


と教官に聞いた。




「そうだ、深い階層の宝箱はまだ発見されていないから大抵は宝物が入っている、でも浅い階層の宝箱にはだいたい遺品が眠ってる、だからそれを回収して遺族に引き渡すんだ。」




つまるところ俺たちの今できることは遺品回収だ。




迷宮は基本的に外に宝物を持ち出せないようになっている。




だから迷宮内で死ねば、その遺品は近くの宝箱に収納される。




単純だが迷宮を建てた人物の宝物に対する執念は感服する。




宝物を守るのみならず、あわよくば取り込もうとする執念。




そういう意味でいえば、迷宮も人を喰らうモンスターなのかもしれない。






「よし、じゃあ固まって動くぞ、ゴリアテ、ヴィル、前に着け。」




教官の合図でいつも通りの陣形を組み、


教官は後ろの方で俺たちを見ている。




教官からは『ネズミ』の居そうな穴には不用意に近づかないようにと言われた。




迷宮の複雑な道を通って宝箱を見つける。


第4層には4つの宝箱があるらしい。




まず1つ目、空。




2つ目、既に乾いてはいたが、血に濡れた服何着かと武器、そして階段への出口が記された地図が入っていた。




教官はそれを手に取り祈るような事をした後に回収袋の中に入れていた。




そして3つ目、空。




道中ネズミに襲われたが、奴らの初見殺しのような攻撃はさすがに通用はしなかった。




出てきそうな穴を見て、前を通るようなフェイントをかける。


そして斬る。


命が取られる可能性はあるが、ピクシーのような命の略奪になりつつあった。




俺はルーペを使って今にもネズミの出てきそうな穴に向かって何度も火の玉をお見舞いしていた。




そのおかげかは知らないが一昨日の最終実戦訓練のような大群に会うことはなく、怪我を負うとしても腕を齧られた程度ですんでいた。




そして最後の1個。




2個目と同じように乾いた血濡れの服数着と武器。




そして下の層から来て気を抜いたパーティーだったのだろうか、宝物が決して多くはないが、金貨が10数枚と宝石数個が入っていた。




この宝物は俺たちとギルドの折半らしい、みんながその少しの、しかし初めての宝物をみて舞い上がっていると。


教官はさっきと同じように祈るようなことをしてから言った。「そこの層を通りきれたからと言って、油断してはダメなんだ、こいつらは油断したからこうなった。」


と少し悔しそうな顔をしながら言っていた。




俺達も気が引き締まる。


さっきは命の略奪だと思っていたが、そう、迷宮では油断すれば宝箱、そしてモンスターの胃袋行きが決まっている。




「よし…この階層の回収は終わったな…各自地図を確認してトラップに掛からないように帰るんだ。」と教官が言った。




地図を見て、トラップの位置を把握し、適切なルートを通り、そして出てきたネズミを屠る。




階段が近づいてくるとみんなの緊張がほぐれてくる。




ふとゴリアテがヴィルに、


「いきはよいよいかえりはこわいっていうけどこわくないよな?」


天然なのか策士なのか知らないが、場が和んだ。




ヴィルは適当に「こわいだろ。」と言ったがそれが教官のツボに入ったらしく、ギルドに着くまで笑っていた。




遺品回収は終わり、俺達はまた1歩、探検者としての道を歩んだ。

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