起床
窓から光の射す朝がやって来た。
アルトは既に起きていて、探検用の装備に着替えていた。
「お、起きたか、そろそろ4層の探検が始まるから起こそうと思ってたとこなんだ。」
「さすがに一昨日遅刻したからな、今日は起きるさ、他のみんなはどうしてる?」
「朝メシを食ってるだろうな、お前も着替えて早くこいよ。」
窓から入り込んだ朝の冷気が肌を刺し、段々と目が覚めてくる。
食堂に着くと昨日、最後の実戦訓練を終えた別なパーティーがいた、こいつらは三兄弟で俺たちと仲がいい。
そいつらのパーティーは仮パーティーで半年ほどやったが、ほかの3人がリタイアしてしまったらしく三兄弟だけが残されていた。
長男のレッカ、こいつは長い弓を使ってるのを見た事がある、アルトと仲が良くて弓と銃で、的をどれくらい当てれるかを競っていた。
次に次男のブル、最初聞いた時はブルって名前だから気が強くてなりふり構わず突っ込むやつなのかと思ってたが、全然違った。
気弱で魔法を得意としていて、拘束魔法が得意な奴だ。
最後に三男のロイ、こいつは俺と同じような片手剣を使ってる、そして一応治癒魔法も時間はかかるができる。
1番俺と似ているからよく話したりしている。
「お!ルドーじゃねぇか!ネズミに噛まれてもてっきり死んだかと思ってたぞ!」
とロイが話しかけてくる。
「お前こそ死んだかと思ってたさ!よくやったじゃねぇか!」
「なに、お互い様さ、兄貴たちは得意なことがあるけど俺は何もないからな、まっさきに死ぬと思ってたぜ」
「俺より治癒魔法は得意だろ?そういう奴は死なねーよ!」
「お前は火の玉出せるじゃねーかよ、それ便利だよな、俺にも使わせてくれよ!」
「いいじゃねーかよ!治癒魔法使えるんだしよ!そっちの方が便利だろ!」
「それ使えねーと痒いところに手が届かねーんだよ!」
こういう会話が俺とロイの主な会話だった、他の人より劣っている部分があるからこそ、形は歪ながらも互いに認め合うことで精神面は保ってきた所がある。
「これから初めての4層探索だろ?これ、やるよ。」
ロイは俺に小さな包みを渡してきた。
「なんだこれ?食い物か?」
「そんなん渡すわけねーだろバカ、開けてみろって。」
包みを開けると、古い、使い込まれていそうなルーペのような物が出てきた。
「これは…?」
ルーペには魔法が込められた模様が書かれていた、普通のルーペじゃないことは確かだ。
「これを通して養成所見てみろよ、すげーぞ?」
ルーペで養成所を見ると、無数の人影が見えた。
「おぉっ!なんだこれ!?」
「驚いただろ?これを通して壁とかを見ると人が透けて見えるんだよ。」
「お前こんなやべー道具持ってたのかよ!変態かよ!」
こんな道具は全くもってけしからん、教官に持っていかなくては!!!
「いや、違うって、そうじゃなくて、待て、落ち着け。」ロイは焦って思い切り俺の肩を引いた。
「え?」
「いや、ちがうんだ、これであれやこれやしてたのは確かだが、そうじゃないんだ。」
少ししどろもどろなりながらロイは言った。
「これをな、迷宮で使うんだよ、するとな?見えるんだよ、敵の姿が!」
なるほど、これはすごい、便利だ。
「これってお前が作ったのか?」
ふと疑問に思って聞いた。
半年間ロイと話していたが、こんな才能があるなんて思ってもいなかった。
俺が作れるわけないだろ?というような顔で俺の顔を見てくるロイ。
「え?じゃあ誰が?」
「俺のじいちゃんだよ、あの人は眼鏡屋だったけど、それと同時に一般人ながら魔法も知ってたんだ。」
一般人がこんな物を作れるとは思わなかった。
攻撃魔法や治癒魔法は基本的に戦闘用に使われるため、探検者や兵士、傭兵、そして暗殺者などの、『戦う職業』の人達が使う物だ。
そしてこの攻撃魔法や治癒魔法を技術に応用する人達もいる、彼らはエンジニアと呼ばれていて、複雑な魔法の組み合わせを持ってして便利な道具を作る。
しかし透視するルーペとは聞いたことが無い。
この三兄弟の祖父には恐れ入る。
「で、これを俺がどうすればいいんだ?」
「せっかく渡したんだ、使えよ。」
「でもお前ら三兄弟が使う分が無くなるんじゃ…」
「おじいちゃんはこれと同じのを20個も作ってる、そう簡単に無くなりはしないさ。」
こんな凄いものを20個も作ってるなんておかしいんじゃないだろうか、と思いつつも動揺を隠すために。
「お、じゃあありがたく貰っとく。」と素っ気なく言った。
ロイは俺に「死なないようにな!」と言ってくれた。
俺はもちろん死ぬ気は無いので
「あぁ!分かってるさ!」としっかり言うことが出来た。
そして俺はロイと別れ食堂に行き、朝食を食べた。
みんなは既に向かったようで俺一人だけになってしまった。
腹ごなしもしたところで―――――――――
4層へ向かおう。
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