最近全く転生者が来ないので、神様自分から異世界に出かけることにしました

Leiren Storathijs

第1話 異世界にお出かけ

※この神様は「」が本来のセリフ

( )が心の声となっています。

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 彼は神。天界に住まう魂の転生を司る神の一人で日本という国を担当し、死んだ人間の十二歳から三十歳までの魂の転生先を管理していた。

 転生、即ち新たな命を持ってもう一度人生を歩むこと。そしてこの神はその殆どを異世界送りにしていた。


 異世界送りとは、魂の転生先を全く別世界にし、見知らぬ世界で絶望しないように一つの使命を持たせること。

 これを下界の人間の多くは『異世界転生』と呼ぶ。


 しかし、近頃突如としてこの神の元にくる死者の魂が来なくなった。原因は不明だが、魂が来ないことは下界での死者が少なくなったことと同義であり、それは神にとっても良いことなのだが……それはそれで神は暇になっていた。


「暇だ……とてつもなく暇だ」

(あー、やることないのぉーなんで急に死者少なくなるんかのぉ〜)


 神の力で下界の人間の乗り物『トラック』を操り、不慮な事故を起こしても良いのだが、あまりそうやって干渉すると、他の神に怒られてしまう。

 正しく最早下界では『トラック転生』とカテゴリー化されている方法だが、あまり遊び半分に人間を事故死させると、下界ではなんら問題はなくとも天界のルールに著しく触れる為、多用は出来ない。


 たがしかし、天界ではそれらの魂を司るだけにそれ以外のやることが殆どない。暇を潰そうにも他にやることがない。

 神はただただ、暇すぎる時間に頭を抱えていた。


「どうしたものか……ここまでやるべきことが無ければ神の名が廃れる。他の神にサボっていると言われても過言では無い」

(……そうじゃ! 良いこと思いついたぞ)


 そこで神は一つの案を考えついた。

 それは、神が直接異世界に行くというものだ。

 異世界とは、異世界の創造を担当する神がおり、そこに他の神が必要以上の干渉をしないように一定のルールを設けている。

 そのルールとは。


 一、世界で暮らす人間に無闇に干渉してはならない。急激な文明・文化の発展はそれに当たる。

 二、人間の世界の環境を変えてはならない。全て自然に任せること。

 三、宗教を作ってはならない。また信仰の手助けをしてはならない。

 以上の三つが原則のルールである。又、人間の殺害は全て"天罰"に該当し、これに例外は無い。


 つまりこれに触れさえしなければ基本自由なのである。


(ルールさえ破らなきゃなんでも良いんじゃ! 暇を潰すにはこれしかない! ホーッホッホッホ!)


 神は決行する。最早暇潰しに最適なものはこれしか見つからないと。


◆◇◆◇◆◇


 神は異世界に降臨した。降臨先はただ広い草原に青い空が広がる長閑な場所。風は涼しく、陽は暖かい。神はこれを良しとした。

 こんな気持ちの良い場所でやることは一つ。寝ることだと。


「この空は……流石だな。少しくらい良いだろう……」


 身体を地面に横たわらせて数時間後、突如若い人間の青年に声を掛けられた。神は目を開き、人間に目を向ける。


「爺さん? こんなところで寝てると危ないよー。魔物に食われちゃうよー?」


 魔物。それは異世界に必ずしも跋扈する忌みしき存在。又は人間と動物の均衡を守る存在。そして多くはこれを魔とし、討伐する。

 青年は地面に横たわる神を見下ろしながら、その危険性を注意する。


「何者だ。わざわざ眠りを妨げるとは……私は神だ。そんなこと心配する必要は無い」

(なんじゃコイツ。こちとら気持ちよく眠ってあったのに!!)


 しかし、魔の存在など神には無意味と言っても過言では無い。青年の言う危険性など、神に対しては杞憂なのだ。

 神は青年に心配する必要は無いと言う。自分は"神"だからと。


「え……? あぁ、カミって名前なんだな、俺はエレク。ここは危ないから。近くの俺の村に来ないか?」


「ふん、まぁ良い……」

(あーなんか面倒じゃの。無宗教なんじゃろか)


 反応は至極当然、目の前に神などいる訳が無い。青年は神の発言を自分の名前を言っているのだと無理やり解釈した。


「いや、そこまで言ってないんだけど。てかもう! 魔物来ちゃったよ! 爺さんは早く逃げて!」


 そう話していると、全身緑色の醜い姿をしたゴブリンという名の魔物と出会った。エレクは神を後ろに引かせ、早く逃げることを指示するが、神はこれを拒否。

 魔物相手に神を人間が護衛するなど言語道断。神はそっとエレクの前へでて、ゴブリンを静かに見下ろす。


「汝こそ下がっていろ。……ゴブリンよ。腹を空かせているのか? ならば心配するな。お前が里に帰れば、食料は一年過ごせる量が溢れかえっているだろう」

(憐れじゃのぉ。このゴブリンは……)


「ギ? キギィ?」


「危ないって爺さん! え……?」


「キギ! ギャギャ!!」


 そう言えば、ゴブリンは大人しく神の目の前から去っていった。ゴブリンは一般的に雑魚の魔物に分類されるも、戦えない人間にやっては脅威そのものであり、まずことばこ言葉が通じるなどあり得ない。

 しかし神はこれを収めた。特に魔物の言葉を使っていないにも関わらず、ゴブリンは暴れる感情を抑え、里に帰っていったのだ。

 この光景にエレクはただ唖然とするしか無かった。


「え? え? ゴブリンって言葉通じるの? 何をしたんだ爺さん?」


「こんなもの造作もない。さぁ、汝の言う村とやらに案内せよ」

(ここは話を聞くのが筋というもんかのぉ)


 そう、神にとっては造作も無いことなのだ。だからこそ簡単に世界の均衡を崩し、環境を変化させることが出来る。

 ゴブリンの食料庫を満タンにすることさえも。


 しかしエレクは人間である。たとえ目の前にいる存在が神だとしても、ゴブリンと出会って平和的解決など、どう考えてもあり得ないことなのだ。

 人間が魔物との関係を一時的に断ち切る方法として最も最適なのは、"拠点の殲滅"。これ一択なのだ。


 あまりにも信じられない出来事にそれを、いとも容易く行う神に対し、エレクは酷く驚いた。


「ええええええええぇ!!?」


「騒ぐな……大袈裟よ」

(うっさいわボケ! 鼓膜破れるわ!)


 こうして神は異世界に赴けば、最初に一人の村人に出会うも、兎に角おどかれるばかりだった。

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最近全く転生者が来ないので、神様自分から異世界に出かけることにしました Leiren Storathijs @LeirenStorathijs

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