《研鑽せし冒険者》:日常④

 「よっしゃぁ!まだまだ、いくでええ!!!」

「さすが、フェアネ!男上げるわね!」

「誰が男じゃい!」


ティルが《エーデルシュタイン》の会館を訪れてから既に三時間が経過している事を時計が指し示している。


「あれ、お酒じゃないんですよね」

「ええ、そうよ。葡萄と林檎のフレッシュジュース。あの二人は雰囲気だけで酔えるらしいから便利よね」


素っ気ない返答のアレイアが三冊目になる本をめくり、くすりと笑う。


「驚いたんでしょ。普段はお姉さん然としたリーエスさんが、あんな風になるなんて。でも、この程度で驚いてたら、いつか心臓を悪くすわよ」

「心臓って……」


ソファの上に身を投げ、大好物だというチーズケーキをフォークで突き刺し、それを見て意味もなく笑い転げるリーエス。

紫色の瓶を両手に持ち、喉にそれを流し込み続けているフェアネ。

優雅に椅子に腰掛けてはいるものの、両頬を膨らませる程までに食べ物を口に詰め込んだシエラ。


「印象は変わりましたけど、良い意味ですよ」

「どんな感じで?」


ライオスが話しの輪に加わる。


「なんか、こう、他には見せていない姿を僕にも見せてくれるっていうのが嬉しいんですよ。お客様としてここに来てるんじゃなくて、《エーデルシュタイン》のメンバーとして受け入れてくれたような気がして」

「あれ、ティル君って体験だよね……まさかまさか」

「い、いえ、まだ決めたわけじゃないんですけど。良いギルドだなって」


良い、という言葉では表しきれない何かが《エーデルシュタイン》にはあった。


「アレイアさんにも退院兼加入パーティーて言われちゃいましたから」

「それは私じゃなくてリーエスさんよ。まぁ、でも……」


アレイアが本を閉じ、席を立った。


「私はあなたの事を歓迎するわ。一人でも稼ぎ要員が増える方がギルドのためにもなるし、半亜人のあなたにとっても悪くない話でしょ」


そう言い終わると、アレイアは騒ぎ立てる年上三人組の飲み物を取り上げ、片付けるように指示しだした。


「ああ、ごめんね。アレイアは言いたい事を言っちゃう性格なんだ」

頭をぽりぽりと掻きながら、ライオスが申し訳無さそうにした。

「大丈夫ですよ。むしろ、変に気を使われたり、含まれた言い方をされるよりは断然、アレイアさんの方が好きです」

「ん、ティル君は本当に良い子だ。よしよし」


―――あ、そういう方なんだ。


「そういえば、ここについての説明はまだでしょ。あと《エーデルシュタイン》と《コランダム》の関係とか、ギルドの概要とか」

「大まかな話は聞いているんですけど、詳しくは知らないです」


なるほど、とライオスが言うと椅子に座り直し、ティルを向いて語りだした。


「《エーデルシュタイン》はリーエス・ベラグレスさんが最近設立したギルド。僕の所、《コランダム》も同じような感じ。リーエスさんとうちのギルマスは幼少期からの知り合いで、今の付き合いに至ってるんだ。別々のギルドを設立したのはお互いに頑張ろうていう、ていう意気込みらしよ。一緒にしてたら、少しは楽な生活ができただろうにね〜」

「そ、そうなんですね」

「アレイア、アッシュ、そして僕はレベルが近いからパーティーを組んでるんだ。良かったら、ティル君やリンちゃんもパーティーに参加すると良いよ。アレイアの魔法に僕の悪知恵とアッシュの治癒魔法、そこにリンちゃんの破壊力とティル君の……総合性が加われば完璧なパーティーになれるよ!」


言い淀んだ分を挽回するためか、後半にかけて声を張り上げたライオス。

だが、魔法剣士という器用貧乏な職業が何かに突出していることはまずありえない。


「早速、話がそれちゃったね。リーエスさんとギルマスは基本的に色んなパーティーに参加してるんだけど、二人共自他共に認める優秀な冒険者だから引く手数多なんだよね。あの若さで二人共レベル30越えしてて、なおかつ知識量と判断力がある。ギルドをまとめ上げる才能も有るんだから、みんな欲しがるわけだ。うちと《エーデルシュタイン》の付き合いはそんな感じ。あ、あと、うちはここに間借りさせて貰ってるから、今日からティル君も大家族の一員だ」

「え?」


間借り、どういう事だろうか。


「ギルドを登録するためにはギルド会館が必要なんだけど、広場にあるギルド会館の一室を借りるのは高すぎるから無理じゃん。だから、持ち家でも良いっていう規則なんだけど、家を買うって新参ギルドに出来るわけないじゃん。だから、リーエスさんが田舎に引っ越したご両親から贈与されたこの家を《コランダム》のギルド会館としても登録させてもらっているていうわけ」

「それって、大丈夫なんですか。その、ルール的に」

「んー、アウト寄りのアウトかな」


あっけらかんと笑うライオスの姿にティルはただただ呆れ返る。


「まぁ、でも、《エーデルシュタイン》が一階を、《コランダム》が二階を登録しているからルール的には大丈夫だよ。冒険者組合の人も渋々だったけど、認めてくれたし。そんな目で見ないでくれよ」


ライオスの軽い口調も相まって、もうどうにでもなれ、という意識が芽生えたティルは次の話題を持ち上げた。


「ギルドの関係は分かったんですけど、ギルド等級やギルドメンバー一人あたりのギルドに対する支払いってどれっく雷なんでしょうか?」

「あれ、シエラさんから聞いてない?」

「ギルドに関してはあまり」


すると、ライオスがテーブルに置かれていた紙を広げ、羽ペンをインクにつけて何かを書き出した。

覗いてみると、そこには複雑な線やら文字やらがビッシリと書き込まれ始めている。

数分が経過した後、ようやくライオスが書く手を止めて、その説明をしてくた。


「ギルドとか冒険者の等級分けって凄い複雑で細かいんだよね。冒険者が自分の実力を知れて、なるべく死亡者を減らそうとした組合の血と汗と涙の結晶て思うとしょうがないとは思うけど、駆け出しはまず理解できないと思う」


ライオスが冒険者の分け方という一覧を指差す。


「冒険者は三つの方法によって分けられている。レベル、等級、そして数字の等級だ」

「等級が二つも……」

「そうなんだよ。レベルは君も知っての通り、僕たちが今いるレベルで測る方法だ。一番簡単で分かりやすい、けどレベル毎に情報をまとめていたら切りが無いから、ある程度まとめた分け方を等級と呼ぶ」


等級と書かれている欄に指をスライドさせ、一つずつ指を差しながらライオスが続ける。


「レベル50までの冒険者はレベル10毎に、最下級、下級、中級、上級、最上級ていう五段階の等級で分けらているんだ。ティル君はレベル10だから最下級だけど、11からは下級だね。伸び代が沢山あって羨ましいよ」

「レベル51以降の冒険者は宝石の名前によって等級が決められている。噂によると、初代冒険者組合長が大の宝石好きだったらしいよ。あと、51以降は強さを現す等級としてもなんだけど、称号みたいな意味合いも含まれてくるんだ。レベル51から99までは、10レベル毎に下から琥珀級、翠玉級、黄玉級、碧玉級、そして紅玉級」

「99までなんですね。レベル100には等級がないんですか」


ライオスが下唇に指を当て、何かからかうような表情がサッと顔を走った後、悩んでいる風な声を出す。


「ティル君は《ディアマンテ》ていうギルド名の由来を知っているかい?」

「し、知らないです」


ティルはライオスを警戒し、身を硬くする。


「ははは、冗談だよ、何もしないから安心してくれ。君は本当にからかい甲斐があるね。ええと、あ、《ディアマンテ》の由来だね。《ディアマンテ》は今でこそギルドっていう形だけれど、昔は世界中を駆け巡る傭兵団だったらしくて、無償でモンスターを薙ぎ倒してたらしいよ。だから、初代組合長は《ディアマンテ》の由来である金剛石、ダイヤモンドに敬意を評して、レベル100の冒険者に金剛石級という称号を授けるんだ」

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